国際米国のドナルド・トランプ大統領は22日夜(日本時間23日朝)、イランがホルムズ海峡を48時間以内に全面再開しなければ発電所を攻撃すると通告した。その前日、イランのアッバース・アラグチ外相は共同通信に対し日本船舶の安全通航に前向きな姿勢を示していた。外交で芽が出た日本向け通航ルートを、米国の軍事圧力が上書きする。イラン軍は「攻撃されれば海峡を完全かつ無期限に閉鎖する」と即座に反発した。(編集長・赤澤裕介)
外交の芽を軍事が上書きする
トランプ大統領は22日23時44分(グリニッジ標準時)、ソーシャルメディアに「イランが海峡を脅威なく完全に開放しなければ、発電所を最大規模から破壊する」と投稿した。48時間の期限は日本時間25日午前8時44分頃にあたる。マイケル・ウォルツ大統領補佐官(国家安全保障担当)は23日の米テレビ番組で「ガス火力を含む発電施設を対象にする」と言及した。トランプ大統領が指す「最大の施設」が何かは明示されていない。イラン唯一の商用原発であるブシェール原子力発電所(出力915メガワット)はペルシャ湾岸に位置し、国際原子力機関(IAEA)は17日夜に敷地内の原子炉から350メートル離れた建物に損壊があったと発表している。原子炉本体の損傷や放射能漏れは報告されていない。テヘラン近郊のダマーヴァンド天然ガス発電所も候補に挙がっている。
イラン側は一枚岩で反発した。イラン革命防衛隊(IRGC)は「攻撃があれば海峡を完全かつ無期限に閉鎖し、破壊された施設が再建されるまで開けない」と声明を出した。モハンマド・バゲル・ガリバフ国会議長は「湾岸地域のエネルギー、淡水化施設、電力インフラが正当な標的になる」と警告。マスード・ペゼシュキアン大統領は23日、「海峡は敵対国以外には開いている。脅しは我々の団結を強めるだけだ」と述べた。
米国とイランの戦略は根本からかみ合っていない。米国は「全面開放」しか認めない。イランは「敵対国だけ止め、友好国には個別に通す」選別型で交渉カードを握ろうとしている。日本船の通航交渉は、このイランの選別戦略の延長線上にある。通牒はその前提ごと壊しかねない。
アラグチ外相は21日、共同通信の電話インタビューで「海峡は閉鎖していない。敵対国の船だけを制限している。日本のような国には安全な通過方法について話し合う用意がある」と語った。17日の茂木敏充外相との電話会談を受けたもので、茂木外相は23日のテレビ番組で「コンテナを含む貿易停止は好ましくないとの認識で話した」と述べている。
イランはこの3週間で、中国、インド、パキスタン、トルコの船舶に対し個別に通航を許可してきた。海事情報大手ロイズリストによると、IRGCはイラン領海内に「安全回廊」を設定し、事前審査・登録制の通航管理体制を構築しつつある。通航料として200万ドルを支払ったタンカーが1隻あると同社は報じているが、ほかの船舶が同額を払ったかは不明だ。開戦から15日までに海峡を通過した船舶は計21隻。開戦前の1日平均150隻(海事調査会社調べ)に対し、95%以上が止まった状態が続く。
イラン軍が完全閉鎖に転じれば、日本向けの交渉も白紙に戻る。
原油市場は通牒を織り込んだ。20日終値でWTI(ウエスト・テキサス・インターミディエイト)は1バレル98.32ドル(前日比+2.27%)、ブレント原油は112.19ドル(同+3.26%)。月間上昇率は48%を超えた。日本の原油調達価格に直結するドバイ原油はさらに高い。先物は1バレル134ドル前後、ブレントとの差が20ドル以上に開いている。海外金融メディアは現物スポット価格が一時166ドルを超えたと報じた。ホルムズ経由の現物供給が止まっているため、ドバイの現物価格は先物以上にひっ迫している。ブレントが先物主導で調整しても、ドバイの現物が下がらなければ日本の輸入コストは変わらない。為替は1ドル=159円台で、円安が原油高の打撃を増幅している。
国内では備蓄8000万バレルの放出(16日開始、総備蓄254日分のうち17%、過去最大)と燃料補助金の再開で価格抑制を図っているが、16日時点の全国平均ガソリン価格は190.8円(前週比+29円)で史上最高値を更新した。
物流への影響は海上と陸上で同時に進行している。
海上では、邦船大手の日本郵船、商船三井、川崎汽船が2月末から通航を全面停止したままだ。日本の原油輸入の9割以上が中東に依存し、そのうち70%がホルムズ海峡を経由する。封鎖前に出航した船は20日頃までに到着したが、それ以降は備蓄の取り崩しに入った。代替の喜望峰回りでは輸送日数が10-14日延び、コストは50-100%増となる。海上保険市場では戦争リスク保険料が船舶価値の0.15-0.25%から2.5-7.5%に跳ね上がっており、1億ドル超のVLCC(超大型原油タンカー)で1航海1000万ドル規模の保険料が求められる。
陸上では軽油価格の上昇がトラック事業者を直撃している。燃料費は運送コストの10-15%を占め、軽油の1円上昇が月間数十万円のコスト増になる。全日本トラック協会は27日に「燃料高騰危機突破大会」を開き、運賃改定とサーチャージの導入加速を訴える。
先に止まるのはどこか。石油化学メーカーはナフサ(粗製ガソリン)の在庫が20日分とされ、3月下旬に減産ラインに達するとみられる。減産が始まれば、自動車部品のプラスチック、食品の包装材、農業用肥料の原料が絞られる。菓子メーカーの山芳製菓はすでに重油調達の困難から工場を止め、直売所やオンラインショップも休業した。「高くても運べば届いた」段階から「作れないから届かない」段階への転換が食品製造の現場で始まっている。陸上物流で最も先に資金が詰まるのは、元請け1社に依存し燃料費の転嫁交渉力を持たない零細運送事業者だ。手元資金が薄い事業者は3-4週間で運行の継続判断を迫られる可能性がある。
最後通牒の期限まで36時間。イランが通航を一定程度再開すれば原油は調整に向かい、日本船の交渉にも追い風になる。米国がエネルギーインフラを攻撃すれば、イランは完全閉鎖で応じる。ゴールドマン・サックスは封鎖長期化でブレントが150ドルに達する可能性を指摘している。どちらに転んでも、海峡の通航が物理的に再開するだけでは物流は動かない。保険市場が戦争リスクの引き受けを再開しなければ、商業通航の正常化には直結しない。
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