ロジスティクスイランのアッバース・アラグチ外相が日本関連船舶のホルムズ海峡通過を認める用意があると表明したことが21日、明らかになった。しかし通過容認は調達コストの正常化を意味しない。日本の元売りが基準とするドバイ原油は166-170ドル台で高止まりしており、戦争保険や通航審査の壁も残る。(編集長・赤澤裕介)
ブレント反落、日本の調達コストには届かず
原油の先物市場はこの48時間で反落した。ブレント原油先物は20日に107ドル前後まで下がり、前日の高値119ドルから10ドル以上の下落となった。WTI(ウエスト・テキサス・インターミディエイト)原油先物も94ドル前後に下げた。米財務省によるイラン制裁の一時緩和、イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相によるイランのエネルギー施設への追加攻撃自制の表明、ドナルド・トランプ米大統領による地上部隊派遣の否定が重なった。
しかし日本の原油調達コストはブレントやWTIでは測れない。ブレントとWTIは先物市場の価格であり、世界全体の期待や備蓄放出を織り込む。一方、日本の元売りが調達の基準とするドバイ原油は、アジアの精製業者が実際に取り合う現物カーゴの値段だ。ロイターによると、ドバイ原油は19日時点で166.80ドルに達した(日経は同日午後に169.80ドル前後と報じている)。ホルムズ経由の中東産原油が物理的に市場に出てこないため、ブレントとの差が60ドル前後に開いている。この乖離は平時のスプレッド(2月平均で3ドル前後)とは異なる水準だ。

▲原油3指標の価格比較(単位:ドル/バレル、注: 2月平均はワールドバンク。ドバイ3月19日はロイター(166.80ドル)、日経(169.80ドル前後)。ブレント・WTIはトレーディングエコノミクス(3月20日)。ドバイは現物、ブレント・WTIは先物であり、商品性が異なる点に留意、クリックで拡大)
報道によるとアラグチ外相は「われわれは海峡を封鎖していない。敵の船舶に対して封鎖している」と述べ、敵国以外で通過を希望する国の船舶には通航の安全を提供するとの方針を示した。封鎖の一時解除に向けて既に日本側と協議に入ったとも明言している。日本の外務省、経済産業省、首相官邸はいずれもコメントしていない。
ただし通過が実現する場合でも、実務上の条件は複数残っている。戦争保険料は紛争前の0.25%前後から急騰し、6日のロイター報道では最大3%に達した。その後さらに上昇し、ケースによっては5-7.5%との報道もある。1億ドルのタンカーであれば1回の航海で数百万ドルの追加負担となり、荷主に転嫁される。イランは友好国の船舶を選別して通過させる運用を既に始めており、海事情報会社ウインドワードの分析(3月17日)では15-16日に5隻以上がイラン領海経由で海峡を通過した。イランが通航料の賦課を検討しているとの報道もある(3月21日時事通信)。日本向けの通過には審査体制の整備と護衛の有無の確認が必要で、ペルシャ湾内に留め置かれている日本関連船舶(3月16日時点で政府説明45隻)の解放時期は見通せていない。
日米首脳会談(3月19日、ワシントン)で、高市早苗首相はイランの海峡封鎖と周辺国攻撃を非難した一方、米国・イスラエルによる攻撃そのものには踏み込まず、艦船派遣の要求も直接受けなかった。22日にはG7外相声明でイランに攻撃の即時中止を要求し、エネルギー供給を支える用意があると表明した。ただしこうした外交的な動きがあっても、ドバイの現物カーゴが市場に戻らない限り、日本の調達コストは下がらない。
過去48時間では、制裁緩和と備蓄放出も動いた。スコット・ベッセント米財務長官は20日、タンカーに積まれたまま滞留しているイラン産原油・石油製品の販売を4月19日までの30日間認めると発表した。対象は1億4000万バレル。クリス・ライト・エネルギー長官は制裁解除後3-4日でアジアへの供給が始まるとの見通しを示したが、既に輸送中の分に限られ新規の購入や生産は対象外だ。日本では3月16日から過去最大規模の石油備蓄放出が進んでいる。民間備蓄の保有義務を70日分から55日分に引き下げて15日分を放出し、3月下旬からは国家備蓄30日分も順次放出する。官民あわせて45日分、8000万バレル。IEA(国際エネルギー機関)加盟国全体では4億バレルの協調放出が決まり、米国は戦略石油備蓄から1億7200万バレルを拠出する。本誌既報の通り、国家備蓄が末端に届くのは4月中旬以降の見通しだ。
これらの措置を合算しても、供給の穴を埋めるには足りない。平時にホルムズ海峡を通過していた原油は日量2090万バレル(2025年上半期、EIA=米エネルギー情報局)だ。
波及は海上から空へ、原油からナフサ・軽油へと拡大している。紅海危機との複合で喜望峰回りが常態化し、航海日数は10-14日延びた。航空貨物も空域制限で容量が逼迫し、アジア・欧州間の運賃が上昇している。国内ではナフサ不足により石油化学メーカーがエチレンプラントの減産に入った。プラスチック、肥料、半導体材料への供給制約が広がっている。
国内の物流事業者にとって、本誌が報じてきた通り、燃料サーチャージの迅速な適用と改定は引き続き不可欠だ。海上ではAPモラー・マースクやCMA CGMが緊急バンカーサーチャージを全モードで導入済みであり、陸上でも国交省告示に基づくサーチャージ制度がある。ドバイ原油166-170ドルという水準を前提に、改定を速やかに進める必要がある。同時に、封鎖が数週間で収束しない場合、サーチャージの改定だけではカバーしきれないコスト増が常態化する。ドバイ原油166-170ドル台が続く前提で採算を組み直せば、地政学リスクを織り込んだ恒久的な運賃水準の見直しなしに事業は成り立たない。
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