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軽油急騰で試される運送経営、情報格差が明暗

2026年3月12日 (木)

国際ホルムズ海峡の事実上の封鎖を受けた原油価格の急騰が、国内のトラック運送業界を揺さぶっている。資源エネルギー庁が11日に発表した9日時点の軽油全国平均小売価格は1リットルあたり149.8円で、4週連続の値上がり。全都道府県で上昇し、岡山県では前週比3.9円の上昇を記録した。WTI(ウエスト・テキサス・インターミディエイト)原油先物は9日の取引で110ドルを突破しており、この水準が店頭価格に反映されれば、さらに大幅な上昇は不可避だった。(編集長・赤澤裕介)

政府は11日、高市早苗首相が16日にも石油備蓄を日本単独で放出すると表明した。民間備蓄15日分と国家備蓄1か月分、合わせて過去最多の45日分を放出する。国家備蓄の単独放出は1978年の制度創設以来初めてとなる。あわせて、ガソリンは小売価格を全国平均170円程度に抑制する激変緩和措置を講じ、軽油、重油、灯油にも同様の緩和措置を実施する。19日出荷分から補助金を再開する方針だ。

小売価格の急騰には一定の歯止めがかかる見通しとなった。だが、この政策が運送会社の燃料調達の現場をどこまで守れるかは別の問題だ。

LOGISTICS TODAYの取材によると、岡山県内の運送会社が燃料商社からインタンク納入価格として1リットルあたり240円を提示されていた。政府が170円抑制を打ち出すなかでのこの数字は、小売と相対取引の間にある断層を浮き彫りにしている。

240円は何を意味するのか──数字で検証する

原油価格の上昇が軽油の店頭価格に反映されるまでには、タンカー輸送、精製、流通を経るため数週間のタイムラグがある。9日時点でインタンクに納入される軽油は、数週間前に調達された原油から精製されたものであり、110ドルの原油ではない。現在のスタンド小売価格149.8円がそれを示している。

LOGISTICS TODAYが、危機前の原油65ドル・為替149円・本体価格115円を起点に、原油と為替の円建て倍率に精製マージン連動係数1.1を乗じ、税を加算する方式で試算した結果は以下の通りだ。精製・流通コストは原油価格と完全には連動しないが、過去の価格推移を基に本体価格の変動幅を1.1倍として算出している。

▲軽油価格の時間軸比較(現在価格と将来理論値)

240円という提示価格は、将来の理論上限に近い水準だ。だが、その「将来」とは原油110ドルの調達分が日本に届き、精製を経て流通する数週間先の話であり、現時点の納入価格としては根拠がない。現時点の店頭価格や政府の補助方針と比べると極めて高い水準であり、通常の継続取引価格というより、供給不安を織り込んだ防衛的な提示価格だった可能性がある。

だが、この時間軸の構造を理解している運送会社の経営者がどれだけいるだろうか。原油がいくらで、為替がいくらで、精製マージンがどう連動し、税がいくら乗り、そして何より、その原油がいつ日本に届くのか。こうした原価構造を理解していなければ、燃料商社の言い値を検証する術がない。そして政府が170円抑制を表明したという情報を即座にキャッチしていれば、240円という提示がいかに現実と乖離しているか、その場で突き返すことができたはずだ。

危機の局面では情報の非対称性が一気に拡大する。インタンク契約は相対取引であり価格の透明性が低いため、交渉力の弱い中小事業者ほど不利な条件を押し付けられるリスクがある。今回の240円提示が例外的な事案にとどまるのか、それとも全国に散発するのか。来週以降、原油高の店頭反映が本格化するなかで、同様の先走り価格が各地で提示される懸念は十分にある。

一方、危機を「チャンス」と捉える経営者もいる。幹線輸送の国内準大手で原価管理の徹底で知られる経営者は、LOGISTICS TODAYの取材に対し、自社の原価に占める燃料費の割合が21%に達すると明かした。国土交通省が標準的運賃の見直しに用いた原価調査では、燃料油脂費は16.3%とされている。幹線輸送は長距離・高速走行による燃料消費が大きく、業界平均を上回る構造だ。原油高騰のダメージはほかの業態以上に直撃する。

にもかかわらず、この経営者は2つの理由から前向きな見方を示した。1つは燃料高騰による業界再編の加速。体力のない事業者が退出すれば、残存者利益が生まれる。もう1つは、2024年問題以降の取引適正化の流れに加え、トラックGメンによる監視強化や26年4月の改正貨物自動車運送事業法の一部施行など制度環境の変化もあり、上昇分を荷主や元請けに転嫁しやすい環境が整いつつあるという認識だ。

この見方は、原価を正確に把握し、制度変更の動向まで踏まえた上での判断にほかならない。「21%」という数字を即座に出せる経営と、240円を提示されて検証できない経営。この2つの間にある情報格差こそが、今回の危機で最も注視すべきポイントだ。

中部地方の荷主系物流会社では、直ちに燃料を確保しなければならない状況に追い込まれているとの声も上がっている。荷主系、大手、地方中小──それぞれの立場で、燃料調達を巡る緊迫度は異なるが、共通しているのは「正確な情報に基づく意思決定」の重要性が平時とは比較にならないほど高まっているということだ。

なお、軽油の暫定税率(17.1円/リットル)は4月1日に法的に廃止されるが、25年11月27日から暫定税率と同額の補助金がすでに支給されており、実質的な引き下げ効果は反映済みだ。現在の軽油価格149.8円は、この17.1円分の補助が織り込まれた後の数字である。4月1日は制度上の切り替えであり、追加の値下げ効果はない。

備蓄放出と補助金は短期的な緩和策にはなる。しかし政府は、ホルムズ海峡の封鎖が続く限り、3月下旬以降の日本への原油輸入は大幅に減少するとの見通しを示している。政府の激変緩和措置は小売価格の急騰に歯止めをかけるが、相対取引の現場まではカバーしきれない。運送業界にとって、情報に基づく経営判断の巧拙が、これまで以上に生き残りを左右する局面に入っている。

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