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軽油300円超も、封鎖長期化の衝撃

2026年3月3日 (火)

国際ホルムズ海峡の事実上の封鎖が物流業界に新たな脅威を突きつけている。

2月28日の米国・イスラエルによるイラン攻撃を受け、ペルシャ湾とインド洋を結ぶホルムズ海峡で船舶の通過がほぼ停止した。イラン革命防衛隊(IRGC)は1日に米英の石油タンカー3隻を攻撃したと主張しており、海運大手各社はすでに同海峡の航行を停止している。日本が輸入する原油の8割がこの海峡を通過する。事態が長期化すれば、トラック燃料である軽油の価格高騰を通じて、国内の物流コスト構造を根底から揺さぶる可能性がある。(編集長・赤澤裕介)

軽油はリットル300円を超えるのか

野村総合研究所(NRI)の木内登英エグゼクティブ・エコノミストは2日、イラン情勢を受けた原油価格と日本経済への影響について3つのシナリオを示した。楽観シナリオは原油価格の上昇が1バレル10ドル程度に収まるケース。ベースシナリオは完全封鎖には至らないものの原油輸送への支障が長期化し、原油価格が1バレル87ドルまで上昇するケース。悲観シナリオはイランがホルムズ海峡の完全封鎖に踏み切り、それが1年間続く場合で、原油価格が2008年の最高値である1バレル140ドルに達することを想定している。

木内氏の試算では、悲観シナリオの場合にガソリン価格がリットル328円まで高騰する。原油価格87ドルのベースシナリオでもリットル204円と200円を超える水準だ。GDP(国内総生産)への影響は、87ドルで年0.18%の押し下げ、140ドルなら年0.65%の押し下げに加え、物価が年1.14%上昇し、景気後退に陥る可能性があるとしている。

この試算はガソリン価格が中心で、トラック輸送の生命線である軽油価格への言及はない。そこで本誌は、木内氏と同じ原油価格シナリオを前提に、軽油価格の影響を独自に推計した。

軽油の税構造はガソリンとは異なる。ガソリン税(本則)がリットル28.7円であるのに対し、軽油引取税は本則15.0円だ。暫定税率(17.1円)は4月1日に正式廃止が決まっており、すでに補助金で実質的に相殺されているため、現在の全国平均小売価格リットル145.2円(2月24日週)は暫定税率なしの水準とみてよい。もう一つの大きな違いとして、ガソリン税には消費税が課されるが、軽油引取税には消費税がかからない。このため原油価格が上昇した場合、本体価格の上昇がより直接的に小売価格に反映される構造になっている。

現在の軽油小売価格145.2円から税を除いた本体価格は113-115円程度。原油価格が140ドルに達した場合、円建ての原油調達コストは現状の2倍を大きく超え、本体価格は2.3-2.5倍に膨らむと想定される。これに軽油引取税、石油石炭税、消費税を加えると、軽油の小売価格はリットル300-330円に達する計算になる。

本誌の推計を3シナリオでまとめると以下の通りだ。

▲ホルムズ情勢別エネルギー価格シナリオ試算(クリックで拡大)

注目すべきは、悲観シナリオではガソリンと軽油の価格差がほぼなくなる点だ。現状では両者に12円程度の差があるが、原油高騰局面では軽油引取税がガソリン税より軽い分、本体価格の上昇がそのまま効いてくる。ガソリン税には消費税が上乗せされる「二重課税」構造があるものの、本体価格の膨張が圧倒的に大きいため、最終的な小売価格は接近する。

なお、本誌推計はあくまで現在の為替水準を前提としたものだ。木内氏も指摘している通り、円安が加速すればさらに上振れする。

2日時点の原油市場の反応は、WTI(ウエスト・テキサス・インターミディエート)が1バレル75ドル前後で木内氏の楽観シナリオに近い水準だ。ただし情勢はなお流動的で、イラン政府がホルムズ海峡の正式封鎖を宣言した事実はまだないものの、革命防衛隊が付近の船舶に通過を許可しないと警告しており、実態としては封鎖に近い状況が続いている。

日本の石油備蓄は2025年12月末時点で254日分(8か月程度)あり、直ちに供給が途絶える状況ではない。しかし備蓄の取り崩しは時間稼ぎにすぎず、長期化すれば枯渇する。また備蓄放出は国内供給の確保には一定の効果があっても、世界市場での原油価格高騰そのものを抑える力は限られる。

トラック運送事業者にとって、軽油はコスト構造の根幹だ。燃料費は営業費用の2-3割を占めるとされ、軽油がリットル200円を超える水準が続けば、中小事業者を中心に経営を圧迫する。24年問題によるドライバー不足と運賃交渉の難航に加え、燃料コストの急騰が重なれば、物流網の維持そのものが危うくなりかねない。燃料サーチャージの再交渉、運賃への転嫁がこれまで以上に急務になる。

喜望峰経由の迂回ルートでは航行距離が5000キロ伸び、所要日数は10-14日増える。戦時の船舶保険料率も通常の数倍から数十倍に跳ね上がるとされ、海上運賃の高騰も避けられない。紅海危機で経験した物流コスト上昇が、さらに大きな規模で再来する恐れがある。

事態がどのシナリオに向かうかは、イランの出方と米中の外交に大きく左右される。確実に言えるのは、ホルムズ海峡リスクが「もしも」の話ではなくなったということだ。物流業界は最悪のシナリオも視野に入れた備えを始める必要がある。

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