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軽油300円最悪想定、運送97%が赤字圏に

2026年3月3日 (火)

国際ホルムズ海峡の封鎖が長期化した場合、トラック運送事業者の経営はどこまで悪化するのか。全日本トラック協会(全ト協)が公表している最新の経営分析報告書(令和5年度決算版、2025年3月公表)のデータに、本誌が前回記事で試算した軽油価格シナリオを当てはめたところ、最悪の場合には車両100台以下の事業者がすべて営業赤字に転落するという結果が出た。100台以下の事業者は業界全体の97%を占める。(編集長・赤澤裕介)

燃料高騰で消える利益

全ト協の経営分析報告書は、全国2451事業者の決算データを集計・分析したもので、車両規模別の損益構造を把握できる数少ない公的資料だ。令和5年度(22年10月-24年8月)の全体平均では、営業収益(貨物運送事業収入)が1者あたり2億6401万円、営業損益率は+0.6%とかろうじて黒字だった。

ただし規模による格差は大きい。101台以上の大手は営業損益率+2.3%と安定しているのに対し、10台以下は▲2.9%と深刻な赤字が続いている。燃料油脂費の構成比は全規模で14-15%前後、うち軽油費が大半を占める。この軽油費が跳ね上がれば、薄い利益は一瞬で吹き飛ぶ。

本誌は前回記事「軽油300円超も、封鎖長期化の衝撃」(3月3日配信)で、野村総合研究所(NRI)の木内登英エグゼクティブ・エコノミストが示した原油価格シナリオをもとに軽油の小売価格を独自推計した。楽観シナリオ(原油75ドル)で155-165円、ベースシナリオ(同87ドル)で195-205円、悲観シナリオ(140ドル、完全封鎖1年)で300-330円だ。

今回はこの3シナリオの軽油価格を全ト協データに当てはめ、車両規模別に営業損益がどう変わるかをシミュレーションした。計算の前提は、軽油価格の上昇に比例して燃料油脂費(軽油費、ガソリン代、その他油脂費の合計)が増加し、それ以外のコストと営業収益は変動しないというものだ。実際には燃料高騰に伴う荷動きの減少や運賃改定もあり得るが、短期的にはコストが先行して上がるため、まずは燃料費だけが動いた場合の「素の影響」を見る。

現在の軽油全国平均小売価格はリットル145.2円(2月24日週)。ベースシナリオの205円は現状の1.41倍、悲観シナリオの330円(レンジ上限)は2.27倍にあたる。

シミュレーション結果は以下の通りだ。

▲軽油価格上昇時の車両規模別・営業損益率シミュレーション(※全ト協「経営分析報告書 令和5年度決算版」のデータに基づく本誌試算。燃料油脂費が軽油価格に比例して上昇すると仮定し、その他のコスト・収益は固定、クリックで拡大)

ベースシナリオ(軽油205円)の時点で、50台以下の事業者はすべて営業赤字に陥る。現状で黒字の21-50台も▲0.2%に転落する。

悲観シナリオ(軽油330円)では、100台以下の全規模が赤字だ。51-100台は▲0.1%とわずかだが、赤字は赤字だ。101台以上だけが+0.4%で踏みとどまるものの、この利益率では車両の更新投資やドライバーの賃上げに回す余力はない。実質的に業界全体が機能不全に近い状態に追い込まれる。

10台以下の事業者に限れば、悲観シナリオで営業損益率は▲4.8%に達する。1者あたりの営業赤字額は3077万円。年間売上高6521万円の事業者にとって、売上の半分近くが赤字という計算だ。令和5年度の時点ですでに52%が営業赤字であり、燃料高騰が加われば大量廃業の引き金になりかねない。

繰り返すが、このシミュレーションは燃料費だけが動いた場合の試算だ。実際にはタイヤ・オイル代の上昇、金利負担の増加、荷動きの減少による稼働率低下なども重なる。表の数字は「最低限これだけ悪化する」と読むべきだ。

一方で、このシミュレーションには運賃引き上げの効果も織り込んでいない。燃料サーチャージの導入・再交渉が進めば、影響はある程度緩和される。だが全ト協の調査では、標準的な運賃の届出率こそ上がっているものの、実際の価格転嫁は道半ばだ。特に中小事業者は交渉力が弱く、燃料費の上昇分を運賃に反映させるまでにタイムラグが生じる。そのタイムラグが資金繰りを直撃する。

ホルムズ海峡の情勢はなお流動的で、悲観シナリオが現実になるかどうかはわからない。だが、ベースシナリオですら50台以下の事業者が赤字に沈むという事実は重い。業界の大多数を占める中小零細事業者にとって、燃料高騰は経営の存続そのものを左右するリスクだ。

今後、本誌ではホルムズ情勢が物流の各領域に与える影響を継続的に報じていく。次回は燃料サーチャージの再交渉や標準的な運賃の活用など、事業者が今すぐ取り組める対策を取り上げる。

軽油300円超も、封鎖長期化の衝撃

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