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軽油価格、原油から店頭までの全経路

2026年3月24日 (火)

国際日本の軽油価格はどこで決まり、どう届くのか。ホルムズ危機で原油が高騰し、23日にはブレント先物が96ドル台へ急落する場面もあった。だが日本の軽油価格を左右するのはブレントではなくドバイ原油であり、ドバイ原油は下がっていない。しかも原油が下がったとしても、店頭の軽油に届くまでには3週間以上かかる。この記事では原油の調達から店頭に届くまでの全経路を分解し、今の価格がなぜ「過去」を映しているのか、そしてこれから来るのが値上げではなく供給制約であることを示す。(編集長・赤澤裕介)

まず起点の原油。日本は原油輸入の9割超を中東に依存しており、価格の基準はブレントではなくドバイ原油(プラッツMOC)とオマーン原油(GME公式OQDマーカー)だ。23日の値動きがこの違いを鮮明にした。

▲原油指標の乖離(ブレントと中東現物の非連動、クリックで拡大)

ブレントが急落する一方でオマーン原油は20日の157.94ドルから23日に160.20ドルへ上昇した。ホルムズ海峡の通航制約、戦争保険料の急騰、アジアの精製業者への買いの集中が重なり、中東産の現物だけが押し上げられている。ブレントと中東現物はまったく連動していない。

次に精製。原油は輸入されてすぐ軽油にはならない。中東からタンカーで20日前後かけて日本に到着し、製油所で軽油、ガソリン、灯油、ナフサなどに分離される。原油の調達から軽油の生産まで通常2-4週間。つまり今の店頭価格は過去に調達した原油から作られた軽油であり、今の160ドル台の原油はまだ軽油になっていない。

続いて元売りの仕切り価格。エネオス、出光興産、コスモエネルギーなど元売り各社は原油コスト、為替、在庫水準、政府の補助金を加味して特約店向けの仕切り価格を決定する。ここで補助金が入り、見かけの価格が抑えられる。現在の軽油への補助額は1リットル当たり47.3円(3月19-25日適用分)。19日に始まった緊急激変緩和措置により従来の17.1円から大幅に引き上げられた。

最後に流通。元売りから油槽所、油槽所からガソリンスタンドへの配送でさらに1-2週間。製油所から店頭まで合計3-6週間のタイムラグが生じる。

この全経路を踏まえると、今の店頭価格と今の原油価格のあいだには大きなギャップがある。本誌の軽油価格シミュレーション(起点:危機前の原油65ドル、為替149円、本体価格115円)で理論値を試算した。元売りの在庫調整や需給の変動は織り込んでいないため実際の小売価格とは一致しないが、原油水準の違いが軽油コストにどう跳ねるかの目安になる。

▲原油価格別の軽油コスト試算(補助金適用前後、クリックで拡大)

理論値ベースでドバイ基準の384円とブレント基準の244円の差は140円になる。ブレント急落を見て「軽油が下がる」と考える場合、この140円分の認識のズレが生じうる。さらに16日時点の補助なし小売価格195.5円とドバイ基準の理論値384円には189円の開きがある。実際にはこの全額が店頭に転嫁されるわけではなく、補助金や元売りの在庫評価、需給調整で一部は吸収される。それでも補助金47.3円だけでカバーできる規模ではなく、今後3-6週間かけて段階的に価格へ波及していく可能性が高い。

価格の先に来る供給の壁

ここまでは価格の話だ。だが物流企業にとってより深刻なのは、値段以前に軽油が届かなくなるリスクだ。

船舶追跡データによると、ホルムズ海峡の通航量は開戦前の1日100隻超から数隻〜十数隻に減った。中東発で日本に向かう最後の原油タンカーは22日に千葉入港する予定だった。確認されている範囲では、以降の中東湾岸からの新規出荷はない。日本行きのタンカー5隻がペルシャ湾内に留め置かれたままとみられる。

政府は16日から石油備蓄の放出を始めた。民間備蓄15日分と国家備蓄1か月分の計8000万バレルで、過去最大の45日分にあたる。だが国家備蓄は原油の状態で全国10か所の基地に保管されており、ここから契約、払い出し、製油所への輸送、精製、油槽所への配送という工程を経なければ軽油にはならない。22年の放出実績では全量引き渡しに6か月を要した。今回は随意契約で短縮が見込まれるが、備蓄の原油が軽油として末端に届くのは4月中旬以降とみられる。

3月末から4月上旬にかけての数週間に、中東からの新規原油が入らず、備蓄放出分もまだ届かない空白期間が生じる可能性がある。全国平均の在庫量は数週間分あるが、問題は地域ごとの偏在だ。本誌3月18日付記事で取り上げた通り、西日本(瀬戸内沿岸)は中東原油への依存度が高く、備蓄基地からの距離がある拠点で品薄が先行しやすい。

物流企業が今すべきことは、ブレントの値動きを追うことではない。自社の調達圏内で軽油がいつまで確保できるか、燃料サーチャージの契約条件が今の原油水準に対応しているか、この2点をこの数週間のうちに点検することだ。今見ている軽油の値段は過去の原油から作られたものだ。これから問われるのは値段ではなく、供給そのものが届くかどうかだ。

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