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ヤマト運輸が挑む食の物流、半公共インフラへの道

2026年4月3日 (金)
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ロジスティクス私たちの生活の根幹である衣食住の中でも、もっとも停滞が許されないのが「食」の物流だ。アパレルや日用品とは異なり、食品は鮮度や温度管理の制約が厳しく、毎日の配送が止まることは生活の破綻に直結しかねない。

▲ヤマト運輸が奥尻島で運用している移動販売車(出所:ヤマト運輸)

しかし、物流「2024年問題」に加え、日本社会に重くのしかかる「急激な人口減少」に伴い、全国各地で採算性の悪化から配送網の維持が困難な状況に陥りつつある。こうした中、ヤマト運輸は今、食のライフラインを維持する「半公共インフラ」としての役割を担い始めている。毎日のように新鮮なものを運ばなければならない食品物流を隅々まで行き渡らせるため、公共性の高い領域へも果敢に切り込むような取り組みをなぜ始めたのか。ヤマト運輸に取材した。

離島の存続を支える「ヒト×モノ」の公共ライドシェア

人口減少がもたらす危機がもっとも顕著に表れているのが、川下である生活者の現場だ。人口約2100人の奥尻島では、物流の維持がそのまま島の存続に関わる切実な課題となっている。ヤマト運輸はここで、従来の荷物を運ぶという枠組みを大きく超えた活動を展開している。その象徴が、2025年8月から実施している旅客と貨物を同時に運ぶ「ヒト×モノ」の公共ライドシェア「しまねこワゴン」だ。フェリーの到着が午後になる離島特有の事情から生まれる、午前の業務の空白時間を活用し、島民や観光客の移動手段を確保しながら荷物も届けるこの仕組みは、地域の移動利便性を向上させている。また、同事業は2025年11月に一般貨物自動車運送事業許可を取得している。

また、サッポロドラッグストアーと連携して2022年から実施している宅配集配車両を活用した移動販売専用車は、島民の要望を受けて冷蔵・冷凍設備を備えた新たな車両へと進化し、買い物困難者となった高齢者などに食品や日用品を届けている。現場のドライバーたちの多くは島の出身者だ。商品の仕分けからピッキング、陳列、そして各地へ移動しての接客販売など、一般的なトラックドライバーにはない業務をいくつもこなしながら、奥尻島ならではの営業所運営を行っている。

▲ヤマト運輸リテールアカウント営業部ソリューション創出課長の奈須川洋平氏

奥尻島での取り組みを推進するヤマト運輸リテールアカウント営業部ソリューション創出課長の奈須川洋平氏は、事業開始の経緯について「2021年に営業所の一角で日用品の販売を始めたところ、自力で営業所まで買い物に来られない島民に対し、現場のドライバーが自発的に通常の集配車を使って商品を届けていることが分かった。それならば島民の買い物支援として移動販売を実施することが現場のためにも顧客のためにもなると考え、移動販売専用車の導入に踏み切った」と明かす。

「島の経営」を担う覚悟と持続可能なビジネスの両立

奈須川氏は現場の心意気について「社員の言葉を借りると『ヤマト運輸の経営をしているというより、島の経営をしている』という熱い想いを持って取り組んでいる」と語る。こうした柔軟な運用体制と、自分たちの島の暮らしを自分たちの力で維持するのだという強い覚悟が、この「半公共インフラ」の基盤になっているのだ。特筆すべきは、こうした取り組みが単なる持ち出しの社会貢献ではなく、持続可能なビジネスを目指している点だ。

▲移動販売車の車内には常温の棚のほか冷凍庫、冷蔵庫が設置されている(出所:ヤマト運輸)

同社が取り組んでいるのは、生活者という川下の危機だけでない。生産を担う川上、すなわち産地そのものを維持することにも事業を通じて取り組んでいる。生産者の高齢化や人口減少に加え、トラック輸送の維持が危ぶまれる中、同社は自社貨物専用機(フレイター)や旅客機床下(ベリー)などの航空便を活用して、地方の産地と消費地をダイレクトかつスピーディーにつなぐ取り組みを強化している。300年以上の歴史を持つ食品卸売業の国分グループ本社とのパートナーシップ協定の締結においては、ヤマト運輸の営業所を「生産地型集約拠点」として活用し、生産者が行っていた簡易的な仕分けや袋詰めなどの加工業務を肩代わりすることで、生産者が「作ること」に専念できる環境構築を目指している。ヤマト運輸のドライバーが全国にいるという強みを生かして得た産地の情報を商流に繋げ、「販売機会がなかったモノに価値が生まれる仕組み」を作り出そうとしているのである。

航空輸送と地域拠点の活用で産地の付加価値を高める

さらに、この取り組みでは農協(JA)などとの連携も視野に入れている。広域をカバーする大規模な集積場に比べ、全国の細かなエリアに点在するヤマト運輸の営業所は圧倒的に数が多く、小規模な生産者にとっても距離が近いため出荷の持ち込みがしやすいという大きな利点がある。

▲ヤマト運輸貨物航空輸送部長の下簗亮一氏

国分グループとの連携について、ヤマト運輸貨物航空輸送部長の下簗亮一氏は「元々の発端はフレイター(貨物専用機)を活用して遠隔地の産地から消費地に青果物を届けるというのが出発点。航空輸送を活用して新たな付加価値を提供しながら、持続的な物流ネットワークを築いていくことを目指す」と語る。物流が途絶えることで存続が危ぶまれる産地コミュニティに対し、航空輸送によりスピードという付加価値を提供することは、日本の豊かな食文化を守るための重要な役割を果たしている。

こうした川上と川下を襲う人口減少の波は、川中である流通や外食産業にも地殻変動をもたらしている。コロナ禍における巣ごもり需要を契機とした冷凍食品のニーズの高まりや、急速冷凍技術の飛躍的な進歩を背景に、ヤマト運輸がBtoBの領域で事業を拡大しつつあるのが、より公共性の高い給食などの食品物流の分野だ。

給食・外食産業の深刻な人手不足を解決する低温物流

ここで重要なのは、なぜ今、給食で低温物流が強く求められているのかという点だ。それは物流側の都合だけでなく、受け手である施設側の深刻な労働力不足という背景がある。厨房に熟練した調理師がいなくても、工場で調理・急速冷凍された食品を届けてもらえば、解凍するだけで衛生的かつ高品質な食事を安定して提供できる。つまり、給食を冷凍食品に切り替えること自体が、施設側にとっての効率化であり、省人化策となっているのだ。

▲調達から輸配送までをカバーするヤマト運輸コントラクトロジスティクスイメージ図。食品物流に置いては、店舗ごとの荷物を集約し、効率的な輸配送を行う(出所:ヤマト運輸)

この社会的な需要の急増に応えるため、ヤマト運輸は冷凍·冷蔵商品にも対応可能な三温度帯の物流施設や輸配送ネットワークを活用し、食品を扱う事業者のサプライチェーン全体を最適化する物流ソリューションを提供している。その最たる例がコロワイドグループに提供している「一括納品」だ。従来、外食チェーンの店舗などには、食品のほか、割り箸や包材、酒などの飲料といった品目が、複数の業者から別々のトラックで何往復も届けられていた。ヤマト運輸はこれを自社の三温度帯の物流施設に一度集約し、店舗や給食受託先などに「1回で」まとめて届ける取り組みを進めている。これにより、店舗側の受け取りの手間を省くだけでなく、街を走るトラックの台数を大幅に削減しているのだ。さらに、外食店舗向けの配送は夜間を中心とし、給食の配送は日中を主戦場とすることで、異なる時間帯のニーズをパズルのように組み合わせている。同じ車両とドライバーで対応可能とすることで稼働率を極限まで高め、持続可能な輸配送体制を構築しようとしている。

宅急便ネットワークとの融合で実現する効率的なBtoB物流

ヤマト運輸と言えば「クール宅急便」がよく知られており、冷蔵·冷凍物流はお手の物という印象もあるかもしれないが、現在、全国におよそ400ある法人拠点(うちロジセンターは260拠点)の中で、冷凍·冷蔵に対応したBtoB向けの低温拠点はまだ10か所程度と規模は限定的だ。だが、この規模の小ささを補って余りある強みがある。それが全国に張り巡らされた「クール宅急便」のネットワークを併用できる点だ。物量が多い時はチャーター便を手配し、物量が少ない時には「クール宅急便」のネットワークを活用している。物量が少ないのにわざわざチャーター便を走らせる必要はなく、顧客のニーズ·物量に合わせて臨機応変に運び方をアレンジすることで、輸配送を効率化し、温室効果ガス排出量削減にも貢献できる。

▲ヤマト運輸コントラクトロジスティクス営業推進部ソリューション営業開発第1グループ長の白井辰弥氏

ヤマト運輸コントラクトロジスティクス営業推進部ソリューション営業開発第1グループ長の白井辰弥氏によれば、既存の低温拠点のキャパシティはすでに満床状態にあるという。「『拠点を増やして、冷凍·冷蔵商品を扱ってもらえないか』『東京だけではなく西日本にも低温拠点を作って一緒にやらないか』といった切実な相談を全国の20から30社ほどから受けている」と白井氏は明かす。こうした引き合いの急増に対し、白井氏は「今後は低温拠点を増やしていくことを検討し、食品物流のニーズに応えることに注力する」と語り、コールドチェーンの層を厚くすることに全力を挙げている。

人口減少社会における新しい物流の可能性

ヤマト運輸が取り組むこれらの食に関する物流サービスは、もはや単なる一企業の枠を超え、人口減少および労働人口減少時代を迎えた日本社会への対応そのものと言える。さまざまな意味での「弱者」に対して、物流ができることは多岐にわたる。高い品質と安全性が求められる医療食の提供、買い物弱者への物資の提供とそこから利益を上げて持続可能にすること、そして生産地のコミュニティ維持への貢献などだ。これらはインフラ企業の使命として当然のことかもしれないが、奥尻島の事例で気づかされるのは、サービスを提供しているドライバー自身が、サービスを受けるコミュニティの成員そのものであるという事実だ。

2024年問題や、コロナ禍での非対面ニーズの高まりなどの時期を経て、今や「置き配」はすっかり一般的なものとなった。さらに海外では、各家庭へのラストマイル配送を行わず、営業所や専用ロッカーなどの集積所に荷物を置き、受け取り手自身がそこへ取りに行くというスタイルも普及している。国内でもすでに、オープン型宅配便ロッカーの「PUDOステーション」やコンビニ・営業所受け取りといった, 消費者が自ら荷物を取りに行く動きは着実に広がっている。

このように、受け取り手側のニーズに合わせて輸配送サービスを変容し、受け取り手が積極的に物流プロセスに関与していく未来は、決してあり得ない話ではない。ヤマト運輸の事例からは、今後さらに伸びゆく低温物流のありようが見えるとともに、人口減少に立ち向かう新しい物流の可能性が、確かにほの見えているようだ。