国際世界の石油輸送の2割が通るホルムズ海峡が、米国・イスラエルとイランの軍事衝突で商業通航を止めてから5週目に入った。国連の国際海事機関(IMO)は3月末時点で、海峡周辺に足止めされた商船をおよそ2000隻、乗組員をおよそ2万人と見積もる。大手船社や戦争保険関係者の間では、通航が再開されても物流の正常化には数カ月を要するとの見方が出ている。論点は「いつ通れるか」から「届いた貨物をいつ荷揚げ・処理できるか」に移り始めた。(編集長・赤澤裕介)
海運データのロイズリスト・インテリジェンスの集計では、3月の1か月間に海峡を通過した貨物船は181隻だった。平時は月におよそ3000隻が通過しており、3月はその6%にとどまる。通過した船の7割近くはイラン系の船舶だった。
足止めされている船の数はさらに大きい。海運業界団体のBIMCO(ボルチック国際海運協議会)はコンテナ船だけで130隻が湾内に閉じ込められていると報告した。世界のコンテナ船腹量の1.5%にあたる。IMOは商船全体でおよそ2000隻と見積もっている。
再開されても届かない理由
通航再開がそのまま正常化を意味しないのは、港、出荷側、保険の3つが同時には戻らないからだ。
まず、2000隻が一斉に動き出せば港が詰まる。ハパックロイドの広報幹部は海外メディアの取材に対し、停戦後も主要港への寄港集中でサプライチェーンの混乱が続くとの見方を示した。
次に、湾岸の一部では生産・積み出し設備の損傷が残り、出荷側の立ち上がりが遅れる。マッコーリー・グループのエネルギー部門幹部は海外経済メディアに対し、原油の出荷が動き始めるまで6-8週間との見積もりを示した。損傷した大型処理装置の修復には数か月から1年かかりうるとし、設備まで含めた完全な正常化はさらに先になるとの分析を公表している。
そして、保険の回復にも時間がかかる。紛争開始直後、船主責任保険を扱う国際P&Iクラブの7社が戦争保険の解約を通知した。保険料が跳ね上がり、超大型タンカー(VLCC)では1航海あたり1000万-1400万ドルの追加コストが発生しているケースがある。NSIインシュアランス・グループは、恒久的な解決と安全の完全な保証がなければ保険料は正常に戻らないとの認識を示した。停戦が成立しても、保険条件と安全判断が戻らなければ大型船の運航再開は進みにくい。
ノルウェー船主戦争保険の幹部は、船舶のバックログのため正常化には数か月を要するとの見解を示している。
2021年のスエズ運河エバーギヴン座礁では6日間の遮断で422隻が滞留し、ロッテルダムやアントワープの港湾混雑はおよそ3か月続いた。今回の滞留はその5倍近い2000隻規模で、遮断も5週間に及ぶ。
コンテナ運賃への波及も出ている。ホルムズ経由のコンテナ貨物の比率は限定的だが、中東・紅海情勢の長期化とアジアの積み替え港の混雑拡大が輸送コスト全体を押し上げている。海運分析のゼネタによると、3月20日時点のスポットレート(直近の運賃相場)は極東から北欧州が40フィートコンテナ1本あたり2705ドル(2月26日比+22%)、極東から地中海が同4211ドル(同+26%)に達した。
物流企業はすでに代替手段を動かしている。ホルムズを経由できない湾内発着の貨物について、APモラー・マースクは4月1日付の欧州向けアップデートでマスカットやサラーラ経由の航空輸送、コロンボやオマーン経由のシーエア(海上と航空の複合輸送)、湾岸陸橋ルートを提案した。海外通信社によると、同社の陸橋はジッダ、サラーラ、ソハール、コールファッカンを経由しており、紛争後ジッダの取扱量は4割増えた。アジアと欧州を結ぶ幹線では、紅海回避のための喜望峰回りが定着し、片道10-14日の追加日数と1コンテナあたり2000-4000ドルの追加コストが続いている。
BIMCOによると、湾内にはなおコンテナ船130隻が残っている。海峡が再開されれば、これらの船舶が湾岸の主要港に集中する。P&Iクラブの戦争保険料率が紛争前の水準に戻る時期は決まっていない。
◆ この記事をより深く理解するために ◆
・紛争直後に主要船社が通航を全面停止した第一報。今回の5週目報道の起点となる記事
「主要船社、ホルムズ海峡を全面停止」(3月2日)
・原油3シナリオ別の軽油価格シミュレーション。本記事で触れた原油高騰が国内の輸送コストにどう反映されるかを試算
「軽油300円超も、封鎖長期化の衝撃」(3月3日)
・フーシ派攻撃による紅海回避とホルムズ封鎖が同時に発生した「二重チョークポイント」の全体像を分析
「紅海・ホルムズ二正面危機、海上物流の選択肢狭まる」(3月1日)
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