イベントLOGISTICS TODAYは22日、「運びと地位向上全国キャラバン2026 in 大阪」を開催した。同プログラムは、インテックス大阪(大阪市住之江区)で開催される産業DX総合展のなかで、X Mile(クロスマイル、東京都新宿区)が主催する「物流DX未来会議2026 AFTER ACTION-CLO時代の物流現場を導く実践知-」の1セッションとして行われた。

▲フジトランスポート社長の松岡弘晃氏
セッションの前半では、保有トラックわずか30台から出発し、四半世紀で3500台の車両、全国150の拠点、そして年商800億円規模の企業グループを築き上げたフジトランスポート(奈良市)の松岡弘晃社長が登壇。ワンロジ(東京都新宿区)の吉岡泰一郎社長とLOGISTICS TODAYの赤澤裕介編集長がモデレーターを務め、その圧倒的な決断スピードと業界の当たり前を否定する独特な経営哲学を丸裸にしていった。
危機時の“逆張り投資”が成長のターニングポイント
松岡社長の大きな転機となったのは2つの歴史的な「危機」だった。まず立ちはだかったのが、会社が1億8000万円の赤字を出したリーマンショックのときである。世の経営者たちが先行きへの不安から投資を控え、守りの姿勢に入る中、松岡社長は、一度にトラック100台を一括発注するという極めて大胆な勝負を仕掛けた。
「不安というよりも、もうやるしかない。拡大しないと、これ以上利益の金額が残らないと思った」と当時の逼迫した思いを語り、社員たちに向かって「トラック100台発注するから、みんなで頑張ろう」と呼びかけた。他社が動けない時期に一気に車を揃え、さらにさまざまな顧客の荷物を効率よく積載できるマルチトラックを開発・導入したことで、同社は翌年から驚異的なV字回復を遂げ、急成長の確固たる礎を築くことに成功した。
さらに、世界中がパニックに陥ったコロナ禍の局面でも、多くの企業が対面営業を自粛し、リモートワークへと切り替えるなか、松岡社長が社内に向けて出したのは「自粛禁止令」の指示だった。当然、社員からは「世の中が自粛しているのに自粛禁止とはどういうことなのか」と猛反発を受けた。
しかし、松岡社長の意図は明確だった。「むしろ、競合が寝静まっているときだからこそビジネスをするべき。戦国時代でも、相手の領土に攻めに行くときに、真昼間から槍を持って走ったりしなかった。寝静まっているときや、雨の日、足音が聞こえない深夜に相手の陣営に襲いかかるのが定石」と、独自の理論を展開した。競合他社が顧客訪問を控えている隙を狙い、手土産と会社案内を携えて徹底的に対面での営業活動を継続した結果、コロナ禍を乗り越えた同社には膨大な新規案件が舞い込み、事業が一気に拡大した。

▲(左から)ワンロジ社長の吉岡泰一郎氏、STネットワーク取締役の隅田裕二氏、フジトランスポート社長の松岡弘晃氏、LOGISTICS TODAYの赤澤裕介編集長
また、物流業界の勢力図を大きく塗り替えた2024年問題についても、松岡社長は早くから先手を打っていた。国が残業規制などの新ルールを課すと決めた2018年の段階で「本当にこんなことするのだろうか」と違和感を抱きつつも、法律が一度決まれば絶対に変わらない現実を見据えていた。「対応できなければ事業が継続できない」という強い危機感のもと、6年をかけて法対応を推進。その結果、他社が対応に苦慮して切られた荷主の案件が、4月以降一気に同社へと切り替わるという恩恵をもたらした。
倉庫投資より「自家給油所」と「内製化」を優先する原価主義
フジトランスポートが競合を圧倒し続ける強さの根源は、徹底的な原価の可視化と、周辺事業の内製化(オペレーショナル・エクセレンス)にある。松岡社長は「フジトランスポートが収受する運賃は、規模の小さな運送会社とほぼ一緒。違うのは、仕入れコストとノウハウ」と言い切る。
その最たる例が、現在49拠点に達し、間もなく50拠点目を迎える「自家用給油所」のネットワークだ。一般的に運送会社は、規模が大きくなると見栄えの良い大型倉庫への投資を考えがちだが、松岡社長はあえて倉庫投資を最小限に留め、給油所の自社建設に資金を集中させた。自社でタンクローリーを手配し直接燃料を仕入れることで、他社の追随を許さないレベルの軽油原価削減を実現した。
さらに、整備士に対するリスペクトと投資も破格だ。最新設備を整えた非常にクリーンな自社工場を構築し、多くの運送会社が整備士不足に悩む中、安定した整備環境を構築。自社に整備場を作るのであれば、「整備士の人がここで働きたいなと思う工場を作らないとダメだ」と指摘する。「トラックを直してくれる整備士は大事にすべき。仕事で汚れたツナギを、整備士に家で洗濯させるような会社からは整備士が辞めていく」と語り、自社のみならず、未経験者をわずか2-3か月で実務に耐えうるレベルに育てる「整備士養成学校」を新設して他社への有償提供も始めている。
安全面における惜しみない投資も、同社の高い信頼性を支えている。1台あたりおよそ20万円のコストをかけ、現在3400台のトラック全車にタイヤの空気圧や内部温度をリアルタイムに検知するセンサー(TPMS)の装着を進めている。これは運転席から異常を察知できるだけでなく、走行中の突然のバーストやベアリングの焼損による火災事故を未然に防ぐもの。こうした「お金をかけるべき本質を見極めた投資」が、ドライバーの安心感だけでなく、顧客からの絶大な信頼へと直結している。
サプライズ登壇、後輩経営者たちが明かす「松岡塾」の実態
セッションの後半には、松岡社長の経営スタイルを貪欲に吸収しようとする「松岡塾」の生徒とも言える後輩経営者たちがサプライズで登壇し、会場を大いに沸かせた。
四国から駆けつけたSTネットワーク(香川県三木町)の住田裕二取締役は、数年前にフジトランスポートが四国へ進出した際のエピソードを披露。「四国へ進出してきたときに、うちの既存顧客だった地元の電線メーカーの仕事の、かなりの割合を持っていかれた」と語った。これに対し松岡社長は「そのことは全然知らなかったが、小売業と同じで、客を取った取られたがあるのは仕方ないこと」と冷静に応じた。隅田氏はこの経験を前向きに捉え、「なぜ仕事を取られたかといえば、顧客のニーズをダイレクトに聞けていなかったから。それに気づかされて、結果的に自社の強みを見直す最大のきっかけになった」と、松岡社長の顧客対話の重要性を深く胸に刻んだことを明かした。

▲(左から2番目から右にかけて)サプライズ登壇したSTネットワーク取締役の住田裕二氏、大川運輸倉庫社長の大川暁史氏、トラボックス社長の皆川拓也氏
続いて登壇した大川運輸倉庫(三重県川越町)の大川暁史社長は、自身がEV(電気自動車)事業への出資を検討していた際、松岡社長から「リセールバリューやアフターサービスを考えるとまだ早い」とアドバイスを受け、損失を未然に回避できたエピソードを紹介した。
また松岡社長は大川氏に向けて、「創業60年の社名をそのままにしているけれど、古い会社は若い人から敬遠されがち。フジ運輸からフジトランスポートに変えたら一気に若手が増えた。1回社名やロゴを刷新してリニューアルしてみてはどうか」とその場で具体的なブランド再構築のアイデアを投げかけ、大川氏も「そろそろ一新して、新しい風を吹かせるべきかもしれない」と真剣な表情でうなずいていた。
さらに、同社がヘビーユーザーとして活用するトラボックス(東京都渋谷区)の皆川拓也社長も加わった。皆川氏は「以前は『北海道には絶対に進出しない』と言っていたが、今は全面的に事業を展開している」と、かつての発言との矛盾を突いた。これについて松岡社長は、「北海道でラピダス計画が始動したことや、フェリー会社との交渉で有利なレートが引き出せたことなど、さまざまな好条件が重なった。チャンスが来たら、前言にこだわらず今行くべきだと判断した」と、状況変化に即応する決断の速さを示した。同時に「もちろん、新天地に行くときは地元の会社と喧嘩をせず、役割分担をして仲良く共存共栄する設計が欠かせない」と、地域に摩擦を起こさないための戦略的な配慮も付け加えた。
「アナログの現場力」と「最先端テクノロジー」の融合
最後のセッションでは、主催者である物流DXスタートアップ、X Mileの野呂寛之社長が合流し、テクノロジーの未来について熱い議論が交わされた。
野呂社長から今後の「AI戦略」について問われた松岡社長は、現在開発した独自の原価管理システムに満足しつつも、さらなる進化を目指していると明かした。「AIを使って、暇な時期に稼働率を上げるためのダイナミックプライシングをやってみたい。ただ、自社単独で導入すると顧客との関係に角が立つ。だから第三者のプラットフォームが価格変動を運用し、そこに我々が車両を提供する形なら、お互いに不満が出なくて良いのではないか」と、極めて現実的なアイデアを提案した。

▲X Mile社長の野呂寛之氏(左)
これを受けて野呂社長は、米国で急成長している配車業務のAI化の事例を紹介した。「米国では、人間のような自然な音声でAIが電話対応や価格交渉を行い、人間の配車マンは裏側で承認ボタンを押すだけというシステムが普及しつつあります」と説明。松岡社長はこの最新技術に強い関心を示し、「日中だけでなく、夜間のトラブル対応や深夜の一次受けなどで、電話に出てくれる自動ボットがあれば現場は非常に助かる。人手不足の解消にも直結するので、ぜひX Mileでそういう仕組みを開発してほしい」と、新たな共同開発の提案を持ちかけるとともに、「いつの時代も、外の情報を入れて学び続けることが一番大切」と強調した。
コスト上昇にあえぐ全国の中小運送事業者にとって、自社のあり方を根本から見直すための極めて具体的かつ刺激的なヒントが詰まった130分の特大セッションは、会場に深い余韻を残しながら幕を閉じた。
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