話題物流業界を悩ませる電気代高騰に対し、デジタルグリッド(東京都港区)が提供する自由な電力調達プラットフォームが注目を集める。同社の井澤僚太ディレクターが、オーダーメイド型の料金体系や需要家自身が、固定価格と変動価格の割合を選べる仕組みを語った。

▲デジタルグリッドの井澤僚太ディレクター
予算を安定させる自由な電力プラットフォーム
物流施設を稼働させるために電力は不可欠だ。とりわけ夏の猛暑を乗り切るための電力の安定確保は物流インフラを維持するうえで死活問題となる。2022年のロシアによるウクライナ侵攻に伴う燃料価格の高騰で、電気代が従来の予算の2倍に跳ね上がる深刻な事態が発生した。さらに、本年のホルムズ海峡の事実上の封鎖など、中東情勢の緊迫化による燃料価格の乱高下も加わり、従来の電力調達を見直す動きが加速する。
この状況について、井澤氏は「需要家にとって選択肢がない現状を変えたかった」と語る。同社が展開するDigital Grid Platform(デジタルグリッドプラットフォーム、DGP)は、需要家自らが調達先を選択できる仕組みを提供する。決まった料金プランはなく、市場に連動して変動する価格で全量を調達することも、固定価格の調達分を好きな割合で組み合わせることもできるオーダーメイド型だ。井澤氏は『全使用電力量が変動する大手電力のメニューとは異なり、調達先を自由に選ぶことで、価格を固定化することもできる』と胸を張る。同社はDGPの特徴として、電気料金の削減、価格変動の抑制、再生可能エネルギーの導入支援の3点を挙げる。

▲電力取引の概念図(出所:デジタルグリッド)
従来は電力会社から提示されたプランをそのまま契約するルーティン業務だった。電気代が時価で取引される現在、予算(電力調達コスト)を安定させるために自ら電力プランを設計する必要がある。井澤氏は「物流施設なら日中に電気を多く消費するなど独自の需要カーブを持つ。使用量全量に対して価格変動要素(燃料費調整単価や市場価格調整項など)が掛けられると、燃料価格高騰時に電気代も跳ね上がる」と語る。
こうした事態を防ぐため、新潟県の製菓メーカーなど、すでに多くの企業が同社のプラットフォームを導入し予算の安定化を実現する。井澤氏は「大手電力と比べ電力コストを10%前後削減しながら、価格変動リスクを抑えることができた。私たちはこの国の商習慣を変える挑戦を続ける」と決意をにじませる。
先物取引を活用した固定価格化の仕組み
価格変動リスクをヘッジし、電気代の一定割合を固定化できる背景には電力の先物取引の活用がある。東京商品取引所などの電力先物市場を通じて必要な電力を事前に固定価格で確保する。
井澤氏は「米国など海外では電力のリスクヘッジは常識だ」と強調する。日本では大手電力のプランに依存する商習慣が続いていた。一般企業にはほとんど開放されていなかった。「先物市場を利用して一定割合を固定化できれば中東情勢などで燃料価格が2倍になっても価格変動の影響を抑えることができる」と井澤氏は力を込める。

▲一定割合の電気代を固定化(出所:デジタルグリッド)
企業は通常1年単位で予算に合わせて先物を購入する。制度に慣れた企業は2年から3年の中長期で価格を固定化し予算を安定させる事例も増えた。同社は自ら電力の在庫を持たず、需要家から受け取る手数料以外は原価で請求するパススルー方式を採用する。電力の仕入れ値も明細で開示し、電力コストの透明性を担保している。
企業の環境意識を反映した電源の指定購入
価格の安定化に加え、同社のプラットフォームは企業の環境意識を直接反映させた電力調達ニーズにも対応する。特定の再生可能エネルギー電源を指定して電力を購入できるのだ。井澤氏は「企業ごとに森林伐採を行っていない発電所から買いたいなどの独自の基準がある」と指摘する。従来のメニューでは不可能だった地域活性化に貢献する特定の発電所を指定するなど、自社のポリシーに合致した電源を指定購入できる。
「例えばコンビニのATMで引き出した千円札と、遠く離れた新潟県で引き出した千円札は、物理的には違う紙幣でも価値は同じだ。電気も同様に、どの発電所で作られても物理的な性質は変わらない。しかし、コーヒー豆の生産地や労働環境が問われるようになったように、今は消費者や投資家から『この電気はどこで、どのように作られたものか』という由来が問われる時代になった」と実情を説明する。
特定の再生可能エネルギー電源の指定購入は企業の環境対応や企業価値向上にもつながる。
内製システムを支える優秀なエンジニア
各需要家に合わせたオーダーメイド型の電力調達や、先物市場と卸電力市場を組み合わせた複雑な運用は人手で行うには限界がある。同社では優秀なインハウスエンジニアがデータとアルゴリズムを活用した高度なシステムを内製で開発・運用する。
井澤氏は「裏側でさまざまな処理を行う必要がある。人手を介したらシステムが回らない。データとアルゴリズムで最適化を支えるエンジニア集団がいる強みは大きい」と語る。
社員100人のうち1割から2割をエンジニアが占める。特別高圧向けのシステムに加え、裾野の広い低圧向けの新しいオペレーションシステムも迅速に構築した。同社は、こうした内製体制によって少人数で複雑な運用を担い、販管費の抑制につなげていると説明する。
エネルギーの民主化を体現する組織風土
同社は「エネルギーの民主化」を掲げる。その思想は社内組織にも体現されている。毎週月曜日に課題解決のためのミーティングを実施する。井澤氏は「経営層だけでなく現場やバックオフィスの社員など役職や部門に関わらず誰でも参加できる」と明かす。自由に課題の起案や改善提案を行える風通しの良さと民主的なプロセスが現場の課題を迅速に解決する。これがサービスの持続的な改善を生み出す原動力となる。
グループ全体を牽引する3つの事業セグメント
同社の事業は大きく3つのセグメントに分類される。グループ全体を牽引する主力事業が電力PF事業だ。プラットフォームで取引する電力のうち再生可能エネルギーを除く部分を対象とする。
次に再生可能エネルギーの取引拡大に向けた投資領域の再エネPF事業だ。太陽光発電所を持つ発電家と電力を求める需要家をマッチングするサイトの運営や、非化石証書の代理調達サービスなどを手掛ける。
さらに系統用蓄電池のアグリゲーションサービスの開発・運用などを行う調整力事業を新たな収益の柱として展開する。井澤氏は「利益を蓄電池に投資し、再生可能エネルギーの普及拡大と系統安定化につなげる」と説明する。

▲3つの事業セグメント(出所:デジタルグリッド)
エネルギー制約のない世界を目指す展望
現在の日本の電力は7割から8割を化石燃料由来の火力発電に依存する。燃料が枯渇したり輸入が停止したりすれば生活や経済が成り立たなくなるリスクを抱える。同社はエネルギー制約のない世界を次世代につなぐビジョンを掲げる。
井澤氏は力を込めて語る。「究極的にはエネルギーの自給率を高める。どんな電気も無限に実質0円で使える世界を目指す」。この言葉には、単に電力プラットフォームを提供する企業にとどまらない、深い哲学が宿る。同社が挑むのは、これまでの決められたメニューを買うだけという日本の根強い商習慣そのものの変革だ。
「新しいプレーヤーが売りやすいからと、大手電力と同じプランで割引だけを訴求するやり方は選ばない。私たちが提供するのは、需要家が自ら主体となって基準を設け、選択肢を選ぶという思想だ」と強調する。この哲学が浸透すれば、需要家側の理解が高まり、将来的に化石燃料が枯渇した際にも、再生可能エネルギーや蓄電池への移行が速やかに進む。
そのための次なるステージとして、再生可能エネルギーの普及拡大と、天候による出力変動を吸収する系統用蓄電池事業への投資を強化する。化石燃料への依存度をゼロに近づけ、二酸化炭素削減と地球環境の保全に直接貢献していく。
「商談を通じて、電気の仕組みや新しい選択肢があることを知ってもらうだけでも、エネルギー業界にとって大きな価値がある」。
そう語る井澤氏の姿勢には、目先の契約獲得よりも、社会全体のシステムを変えようとする強い信念がにじむ。エネルギー制約のない持続可能な社会基盤を構築し、物流業界、そして日本のインフラを根底から支えようとする同社の挑戦から目が離せない。

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