ロジスティクス国土交通省は26日、改正貨物自動車運送事業法に基づき導入される「適正原価」の適切な設定に向け、第2回「適正原価の設定に向けた有識者検討会」を開催した。今回は、トラック運送業界や労働組合、経済団体、個別荷主業界(農業・出版)からのヒアリングに始まり、終盤の事務局による制度骨格案の提示へと続く時系列で議論が行われた。
会議の冒頭、国交省の原田修吾総括審議官は、今回の適正原価制度が持つ二つの意義を強く強調した。原田総括審議官は、「一つは荷主と物流事業者が運賃料金という関係をしっかり見える化した形でお互い納得いく形の交渉の基準とすること、もう一つは適正原価を継続して下回るような事業者に国から警告を出し、最終的には市場から退出していただく厳しい側面もある」と説明。その上で、「物流を単純にコストとして捉えるのではなく、新しい価値を創造するサービスとして発展させていく流れを作り、ドライバーの賃金改善に結びつけたい」と述べ、持続可能な物流の実現に向けた強い意志を示した。

▲国土交通省大臣官房総括審議官の原田修吾氏
最初にヒアリングが行われたのは、輸送の当事者であるトラック運送業界の全日本トラック協会(全ト協)。同会会長の寺岡洋一氏は、全国から寄せられた延べ1500件もの膨大な意見に触れつつ、「会員事業者の95%以上は中小零細事業者であり、多くの事業者は荷主との交渉力が極めて弱い現状にある。実運送を担う中小零細トラック事業者の実態に即したきめ細やかな制度設計をお願いしたい」と強く要望した。
続いて発言した馬渡雅敏副会長は、現場で直接使える実用的なモデル運賃やタリフの提示、常設相談窓口の設置を求めたほか、荷主側との力関係の偏りを是正するための強固な法的措置が必要だと訴えた。また、原価算定の細分化について馬渡副会長は、「国交省の調査結果によると8-9割の便に帰り荷があるとなっているが、それは超大手企業のみ。多くの中小会員事業社にはほとんどない。ローリーやセメントバルク車など帰り荷が発生しない便もあることを前提に検討を進めてほしい」と主張し、車型や地域ごとの実態に即した精緻な設定を要請した。
続いて登壇した全日本運輸産業労働組合連合会(運輸労連)の成田幸隆氏は、働き方改革以降も8%ほどの事業所で時間外労働の上限超えが常態化している過酷な現場実態を報告した。成田氏は制度設計への賛同を示しつつも最大のリスクとして価格の固定化を挙げ、「国が客観的な数値を示すことで『これだけ払えば十分』と受け止められるアンカーリング現象が懸念される。適正原価はゴールではなく交渉のスタートラインであり、適正利潤の確保が不可欠だ」と断言した。さらに長時間労働を前提とした人件費算定を行わないよう目標労働時間を示すことや、導入後に「①運賃上昇→②収益改善→③人件費・設備投資→④労働条件改善」へと還元されたかを検証する4段階の確認指標を提案した。
質疑応答では、条件の細分化による一律設定の難しさを懸念する質問が飛んだが、全ト協側は「みんながある程度しょうがないかと納得できるコンセンサスや具体例をいくつか示しながら進めたい」と回答した。
続いて、荷主と運送事業者の双方を会員に抱える総合経済団体からの意見陳述が行われた。
日本商工会議所からは、物流コストが流通・小売から最終消費者にまで波及する影響の大きさを踏まえ、「直接的な影響を受けるステークホルダーを含めてサプライチェーン全体の声を反映させる丁寧なプロセスと、十分な周知・準備期間の確保が必要だ」と指摘した。また、原価に含まれる投資の原資については、「企業会計上の原価と政策的原価の違いを認識しつつも、投資の原資は本来利益から導出されるものであるため、安全確保の法定義務を満たすものや許可維持に必要な最低限の経費に限定すべきだ」と慎重な線引きを求めた。
全国商工会連合会は、同会の独自調査で運輸業の価格転嫁が「97%できていない」という具体的な数値を提示。中山間地域など地方の厳しい実態を強調しながら、「小規模事業者でも理解し管理運用できるシンプルな制度にしてほしい」と要望。さらに、「適正原価を支払っていれば問題ないという誤解により、実運賃が固定化して適正な利益が得られなくなるリスクに注意してほしい」と呼びかけた。

▲検討会の様子
この質疑の中で全ト協の馬渡副会長は、日商側の「投資原資の限定」に対して、「脱炭素化に向けた車両買い替えなど、将来投資の原資を確保できなければ輸送能力自体が維持できない」と語り、必要な経費として適正原価に含めるよう理解を求めた。
次に、市場構造から運賃の価格転嫁が極めて困難な構造的課題を抱える個別荷主業界からの陳述が行われた。
全国農業協同組合中央会(JA中央会)は、農畜産物が長距離輸送主体で単価が低く、天候により価格が変動しやすい特徴を解説。そして、「食料システム法で消費者の理解を得る取り組みを進めているが、農産物は卸売市場の需給原則で価格が決まるため、青果市場より上流での価格決定権がない。運賃上昇分を商品価格にそのまま積み上げ転嫁することが極めて困難だ」と強調。「価格が乱高下・下落する品目に対して一律かつ短期間で原価割れのペナルティを課すのではなく、サプライチェーン全体の実態を包み込んだ柔軟な運用をしてほしい」と訴えた。委員から「過度な義務化ではなく見逃してほしいということか」との問いかけも飛んだが、JA中央会側は過度な法的制約により現場が立ち行かなくなる恐れに重ねて懸念を示した。
続いて発言した出版文化産業振興財団からは、出版物流通の危機的な現状を訴えた。出版物は再販制度(定価販売)の下にあり、取次や書店が任意に価格転嫁できない構造にある。試算では適正原価の導入により運賃が現状のおよそ2倍(取次・書店あわせて計275億円規模の負担増)になると明かし、「このままでは多くの書店が閉店に追い込まれ、出版流通が破綻して日本の教育・文化に致命的な影響が出る」と強い危機感を表明した。
さらに同財団は公的価格となっている教科書流通に言及し、「教科書の価格は行政で決めている。これが早く決まらないと、児童・生徒に教科書が届かないということになる」と強調。教科書などの価格決定権を持つ文部科学省に対し、運賃上昇分を反映させた価格設定や値上げ対応など、教育政策と融合した早急な制度設計を求めた。また、往復で返品を積載する協同配送の実態を評価し、一律50%の実車率基準や車種設定を見直すよう求めた。
会議の終盤では、事務局(国交省)から資料に基づき、適正原価制度の具体像となる骨格案が提示された。
事務局は、適正原価について「個別企業の具体的な費用ではなく一般的な費用の積み上げであり、全体として運賃収入が適正原価を超えていればよく、回収方法は事業者の裁量に委ねる」との整理を示した。また、一定の水準を下回った場合の行政処分のあり方や、それに至らない場合に巡回指導・監査を通じて段階的に指導する考えを示した。さらに、現行の標準的な運賃が実車率50%を前提としていることと実態との乖離を踏まえ、「荷物の有無にかかわらず走行距離・時間を対象に費用の算定を行う」という方向性を提示した。物価変動への連動方式、安全投資やBCPなど事業継続経費の算入手法、簡易試算システムの整備構想なども示された。
事務局の提示を受けて行われた全体議論では、全ト協関係の馬渡副会長から過酷な運行実態についての指摘がなされた。九州から関東への輸送において、週末やハッピーマンデーによる休日の増加で月曜日まで現地待機を余儀なくされる事例が挙げられ、「復路の荷物を確保しようとしても市場が休みの場合は空車で帰るしかない。6日間運行したら営業所に帰着しなければならない144時間規制を柔軟に運用し、しっかり休憩を取った上で安全に帰れる仕組みも同時に整理してほしい」との切実な要望が出された。これに対し国交省事務局は、安全規制としての前提を崩さないとしつつも、搭載率向上と規制運用のあり方について今後検討していく考えを示した。
第2回検討会は、各業界の生々しい実態と懸念が出揃う場となった。単に計算式を割り出すにとどまらず、再販制度や市場での価格決定のメカニズムといった商慣行、さらには144時間規制などの安全規制と制度をいかに調和させるかが今後の実効性を大きく左右する。事務局は次回10月に開催される第3回検討会において、日本新聞協会へのヒアリングや関係省庁との協議結果を報告し、制度のさらなる精緻化を進める。
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