行政・団体国土交通省は17日、第1回「適正原価の設定に向けた有識者検討会」(座長、山内弘隆・一橋大学名誉教授)を開催した。
検討会事務局からは、すでに発表があったように、計算式で算出する方式がとられるとの提案が行われた。
事務局からは、これまでの法改正や標準的運賃の整備を経て、適正運賃の位置づけや、建て付けについての説明があった。これまでの標準的運賃とは異なり、適正原価は適正な利潤(事業報酬)を含まない「法令にのっとって適正に事業を運営するために最低限必要となる原価」と位置づけられる。制度の建て付けとしては、個別の取引で一度下回ったからといって即違法になるのではなく、一定期間(例えば1年間など)にわたって継続して下回る場合に違法(許可更新の不許可など)となる方向性が示された。

▲検討会の様子
事務局から示された適正原価のイメージとしては、トラック事業者の総稼働時間や総走行距離などを代入して適正原価を計算できる算出式を示すとともに、時間あたり固定費や、キロあたり変動費などの単価について、地域、車種・車格ごとに示す方法が提案された。
事務局の案では、運賃原価+委託手数料+料金原価+燃料サーチャージ+実費による算出法が示された。また、固定費には標準的運賃では含まれていなかった更新手数料を含むものとする。そのほか、任意保険、ドラレコ、デジタコなどの「輸送の安全確保のために必要な経費」、人材確保・育成、労働環境改善、BCPにかかる投資などの「事業を継続して遂行するために必要不可欠な投資の原資」も含むとしている。
こうした制度設計をめぐり、事務局は、解決すべき実務上の課題についても言及した。これまでのトラック業界では取引時の費用の内訳が必ずしも明確ではなかった背景を踏まえ、適正原価を構成するコストを客観的に並べて示すことで、荷主やユーザーに対して「これだけ物流にコストがかかっている」と納得してもらうための交渉ツールとして機能させたいとの狙いを説明した。
その上で、懸念される「最低限のライン(適正原価)に実際の運賃が張り付いてしまうリスク」に対しては、そうならないような工夫を制度設計のなかで十分に考慮していくとした。また、安全投資や長期的な設備投資に関する費用を原価に盛り込むにあたっては、単に盛り込むだけでなく、実際にその投資が適切に行われていることを客観的に確認・担保できる仕組みを整えることが、制度の信頼性を保つ上で極めて重要であると指摘した。

▲座長を務めた一橋大学名誉教授・山内弘隆委員
さらに、費用項目を細分化するほど算出精度は高まるものの、実務上あまりに複雑化すると制度自体が立ち行かなくなる恐れもあるため、「分かりやすさ」とのトレードオフを意識しながら、現実的なバランスを検討していく方針を示した。
こうした提案を受け、構成員である学識経験者からも重要な論点が提示された。大島弘明委員(流通経済大学流通情報学部教授)は、「行きも帰りも原価は同じだが、地方発だと帰り荷が確保しにくい事情がある」と指摘し、こうした地方の事業者が直面する帰り荷運賃の競争上の課題をどう制度に織り込むかという議論を提起した。
また、西成活裕委員(東京大学大学院工学系研究科教授)は、デジタル技術を活用して原価を客観的に計測・透明化し、海外のように原価情報を荷主と共有して敵対ではなく協調関係で共に改善を進める「オープンブック契約」などの仕組みが活用できるのではないかと、新たな取引モデルを提唱した。
矢野裕児委員(流通経済大学流通情報学部教授)は、基本的な物流サービスとカスタマイズされたサービスが混在している現状を踏まえ、「基本としてどのくらいの業務が行われているのかを明確にした上で、基本サービスと追加費用を適切に分離・可視化する必要がある」と主張した。
その後、次回以降の検討の進め方として、荷主業界や運送業界など関係者への個別ヒアリングを実施する方針が事務局より提案された。
これを受ける形で、全日本トラック協会(全ト協)の馬渡雅敏副会長から、「運送事業者が現場で荷主や委託元に料金交渉を求めても、その上位にある発注企業が『これ以上は支払えない』と拒否するケースがある」との実態を紹介。先日、経団連などの企業団体から「荷待ち・荷役の解消は複合的な要因が絡んでおり現場の事情から難しい」といった趣旨の発信があったことを踏まえ、オブザーバーとして同席する経団連や日商などの顔ぶれも見据えた上で、「上流にいる企業にも、なぜ支払えないのか、どこがボトルネックなのかという『本音や内情』を丁寧なヒアリングですくい上げてほしい。その上で、皆が納得して喜んで支払えるような実効性のある制度設計にしてほしい」という切実な要望が強く打ち出された。
座長を務めた山内弘隆・一橋大学名誉教授からも、そういった生々しい実態を制度に反映するためにも、「国交省に汗をかいてもらい、ヒアリングで有用な意見を集めてほしい」との提言があり、会は幕を閉じた。(土屋悟)
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