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「もしも自動運転が」第1回コラム連載

2020年6月18日 (木)

話題物流コンサルタントの永田利紀氏によるコラム連載第5弾がスタートします。物流の切り口から鋭く現代社会を捉える永田氏は、徹底した現場目線を信条とするコンサルタントとして豊富な現場経験を重ねてきました。今回の連載テーマは「自動運転」です。

第1章- 大きな流れ

各種車両の自動運転が急速に普及することを疑う者はいないだろう。高齢者や体調不良者、持病保持者による不幸な事故が減ることや、商業車両の運行合理化に有効な要素が数多い――そんなことを誰もが思い浮かべるに違いない。

さらに電気自動車(EV)や燃料電池車(FCV)の一般化は、排気ガス削減や化石燃料への依存度低下、車選びの根本的な価値変化などにつながる。

■ 苦いかもしれぬ良薬

「いいこと尽くめ」なのか否かについては立場によって異なる。物流業界に関しては「総論には大賛成、各論には悲観材料がいくつか」のような明暗がくっきりと浮かび上がっている。物流関係者に限らずとも、二つの問題の解決がすぐに思い浮かぶ。ひとつは、EVもしくはFCVによる排気ガス問題の解決。もうひとつは、運送業界の労働力不足解消である。

ただし、積年の懸案事項からの解放と引き換えに失うものも同時に出現する。大きな代償という表現を用いる人々が相当数いるだろう。

■ 多様化する技術、均一化する労働

物流現場での通常作業なら、技術革新は今すぐにでも実施可能なはずだ。倉庫内の一部自動化や機械化は、建屋条件と資本が揃えば相当範囲で実施できる。無人運転車両が走行する時代に、倉庫内業務を自動化できないはずはない。人間でなければならない業務要素を残すか否かで、技術革新の恩恵をどこまで享受するかが決まってくる。多彩で繊細な機能を有する設備やロボットの庫内作業拡大は時間の問題だが、それにつながる運送機能にも同様の波が到来することは間違いない。人間の働き方改革といえばそれらしい響きを伴って前向きだが、労働需要の削減と言い換えてみる必要もありそうだ。

■ 人は城

庫内業務同様に運輸業務も自動化が進むことに疑いはないが、その進捗や適用にはいくつかの課題があるし、単一企業だけでは効果を得ることが難しいだろう。一定数以上の企業が参加し、共同と協業と共有に準じることが必要で、それには官庁の関与も不可欠になるはずだ。

雇用維持の問題は国家財源として税収や消費維持の議論にまで及ぶ。日本人と日本企業が得意の「カイゼン」は、かつての方法論のままでは危険ですらある。進化はその創造主である人間に、多くの労働現場からの退出を要求するからだ。

合理性や効率化を否定はしないが、まずは人ありきの視点も忘れてはならない。次世代への申し送りは「企業は人なり」という太字の掲題で始まってほしいと強く願う。信玄公の言葉が胸中で繰り返されるのは誰もが同じではないだろうか。多くの企業人が「人は城である」と信じているはずだ。

第2章- 巡回配達車

筆者はかろうじて「20世紀少年」に描かれたような少年時代を過ごした世代だが、本章に続く連載内容は「よげんの書」を気どっているわけではない。

ある程度の根拠に基づく予測だ。必ず起こる、きっと起こる、たぶん起こるなど、確度の差はあっても「起こる」可能性が高いものを並べているつもりだ。

■ 無人車両ではないが

たとえば生活配送(個配の進化型)の配達車両は現在の類似形態のまま進化を遂げる。車載モニターの監視と荷物の引渡し作業が主業務である「ドライバー席にいる人」が、ルート内を延々と巡回しながら配達完了させてゆく。その運行ルートは届け先住所をソートして最適化される。配達日時の変更は、アプリ経由でメインシステムが受信すると同時にデータが再編集されるので、ルートの再構築が瞬時に行われる。

カーナビゲーションの最適ルートの再検索と同じ状況が、配達車両内のモニター上で繰り広げられる光景を想像すればわかりやすいかもしれない。乗員は車両運行と車内画面の正常稼働を確認し、車両の停止した位置で降車して、モニター上に表示される住所と届け先を確認の上、指定の受領方法で配達を完了させる。乗員の恣意や機転や選択は無用。運転技術も直接影響しない。

■ だからこその効用

配達車両の乗員は万一のトラブルに備え、自動車運転免許の所有者に限る。ただし「現時点では」という但し書きも添えなければならないだろう。法整備が進めば、自動運転車両には既存の運転免許が不要、もしくは取得要件緩和の可能性が非常に高い。それは「ドライバー不足」への対処として有効であると同時に、苦肉の策でもある。オートマ限定免許を思い出すのは私だけではないと思うが、読者諸氏はいかがだろう。

■ 手段や道具

こうなってくると「運転」そのものに付加価値や個性がなくなってくる。オートマティック車が登場した当初、マニュアル車を運転できないことは一種の劣等とされる傾向がみられたが、それもすぐにどこかへ消え去ってしまった。今やマニュアル車はオプションでしか買えないことがほとんどである。

つまり車に求めるものは、運転のだいご味や技術の優劣を競うことではなくなったのだろうし、もはや移動手段としての装置でしかないとする人の数も増加の一途。ゆえに、こだわって所有する意識も急激に減少しつつある。移動・運搬具としてどれほどのコストパフォーマンスなのかが選択の肝であり、それ以外にはあまり興味がない世代。そんな人々が世の中を支える主力になりつつあるのだ。

運転技術ではなく運行技術こそが物流業務の品質を支える重要因子。運行そのものの技術革新が、今後の配達業務やその道具である車両仕様を決定する要因となるに違いない。

第2回(6月15日公開予定)に続く

永田利紀氏の寄稿・コラム連載記事
“腕におぼえあり”ならば物流業界へ~正社員不足、求人企業は偏見改めよ
https://www.logi-today.com/356711
コハイのあした(コラム連載・全9回)
https://www.logi-today.com/361316
BCMは地域の方舟(コラム連載・全3回)
https://www.logi-today.com/369319
駅からのみち(コラム連載・全2回)
https://www.logi-today.com/373960
-提言-国のトラック標準運賃案、書式統一に踏み込め
https://www.logi-today.com/374276
物流業界に衝撃、一石”多鳥”のタクシー配送
https://www.logi-today.com/376129
好調決算支える「運賃値上げ」が意味すること
https://www.logi-today.com/377837
日本製の物流プラットフォーム(コラム連載・全10回)
https://www.logi-today.com/376649