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「もしも自動運転が」第5回コラム連載

2020年7月2日 (木)

話題永田利紀氏のコラム連載「もしも自動運転が」の第5回(最終回)を掲載します。

第4回掲載(6月29日)▶https://www.logi-today.com/383687

第9章- 運送業の再編成

昨今の運送関連ニュースは、熟練運転者の高齢化と若年層の従事者不足、厳密化される労務順法と違反者への罰則公表などが大多数を占める。労務管理を徹底すれば、荷主へのコスト転嫁が不可避となるのだが、優良顧客を抱えている一部の大手や中堅を除き、現実には相当額を吸収せざる得ない運送会社は多い。

■ 個性や独自は不要

運転技術の熟練や長時間の高速移動による精神的肉体的負担。自動運転技術の進化は、それらの軽減や一部開放を通り越して、運送会社自体の個性や独自サービスの区分けまで消し去ってしまう可能性が高い。

高性能の自動運転システムなら、最も過酷な夜間の長距離走行は高速道路を利用する限り、ほぼ人間のアシストは無用だし、一般道におりても、早朝や深夜の時間帯ならプログラム通りの走行に支障が出にくい。つまり、車両に見合う運転免許の保持者であり、一定時間以上の乗車経験があれば、拠点間運送のドライバーは務まる可能性が高い。

「ドライバー」と名乗ってはいるが、実際には運転するのではなく、乗車してモニターや進行方向を眺めているだけ。最重要なのは発車と停車時の一部手動操作や確認監視。それが今後の車両乗員の実態になるだろう。空海航行と単純比較はできないだろうが、船舶や航空機ではあたりまえのことである。

■ 弱肉強食

(イメージ画像)

ここまで読み進めば、誰もが想像するのは大企業の圧倒的有利。運送会社の寡占化が進み、合理化の結果として運行総台数が大幅に減る。人手不足や労務管理からは解放されるが、業界縮小ともいえる様相となる。そうなれば、廃業者も多数出るだろうし、大手の傘下や傭車専門に甘んじる業者が後を絶たなくなる。ギリギリまで追い込まれていた中堅・中小運輸や個人事業者にとっては、軽貨物専門に絞ってEC大手の仕事を獲りに行くのか、大手運送会社の傘下や専属下請けに入るのかの岐路となるだろう。

意思決定の迷いや遅れは、居所の定まらない流浪者への道の第一歩となる。熟考するなら、今のうちから始めておく方が無難だ。事態が動き出せば、瞬く間に速度が増して流れは大きくなる。その時つかまる岩や柱がなければ、漂流の果てに溺れたり、見知らぬ岸辺にうちあげられたりするだけだ。

■ 転地療法

中小零細や個人の運送事業者ならば、思い切って生活配送の専門業者として特化する道を選んではどうだろうか。個配市場は今後も拡大が見込めるが、最終配達の場面でさまざまな形態やサービスが出現すると見込んでいる。現在は一方通行型の「配達」という業務だが、地域巡回や受領者それぞれの利便や生活形態に応じられる事業者となることが、商品販売者やサービス提供者が求めるパートナーの要件となるはずだ。

第10章- 進化のかたち

自動運転車両の普及は両刃。その理由をこれまで記してきたが、総論としては推進賛成多数であろうし、大きな潮流となって世界標準への定着が命題化される。

■ 次のエネルギー

入手可能な現在の情報だけで判断すれば、自動運転車両には水素燃料利用のFCVが最有力だと考えている。無限ともいえる水素で自家発電できるということは、自動車に限らず今後のエネルギー政策にも重要な位置づけとなるだろう。二酸化炭素排出や化石燃料の枯渇問題を解決できる既存の最有効策は原子力発電だが、依存度を下げるべきという社会的感情としての世論もFCV普及に味方しそうだ。

重量やサイズ、製造コストと燃料供給施設の設置などのそれぞれに課題があることは承知している。しかしハイブリッド車が市場投入された時と同様に、各課題は時間が解決するに違いない。その根拠は日本の技術革新力への信頼と信用だ。

■ 騒音と交通事故

物流の現場に影響するのは、車両の走行音や安全運行だろう。配達業者は、アイドリングストップや急発進・急停止の禁止、住宅街での低速走行などの自主規制によって生活環境への配慮を欠かさないようにしている。信号のない交差点での自動警告音やトーキーの発音、日進月歩の対物対人感知レーダーと自動安全装置。人間が享受できる最大の恩恵が安全運行であることは言わずもがなだ。

■ 運転免許の種別

(イメージ画像)

自動運転車両の進化と普及は、運転免許の種別にも影響を与える。それは「高齢者や障がい者であっても運行管理員として乗車可能」となる未来を想像させてくれる。運行車両は管理センターと常時つながっているので、万一のトラブル遭遇時でも、的確な判断と指示が乗務員に届く。それを実行する能力と体力が要求条件であって、性別や年齢、国籍は原則として大きな制限とはならない。視聴と会話の最低線は設定されるべきだが、それとて特別な内容にはならないだろう。

「運行管理員」という新しい配達業務の雇用が生まれるだけでなく、高齢化する地域社会を高齢者の自助努力で維持可能にせしめる要素のひとつとして期待できる。配達業務だけではなく、住民による地域公共交通の内製化に大きく寄与する可能性まで含んでいるとすれば、物流業界にとどまらない社会実験と実用化に迷う理由はないはずだ。

■ おなじ阿呆なら

自動運転や燃料電池車などについては、まだ議論や検討の過程であり、さまざまな是非の声があることは重々承知している。拙速を嫌う企業感情や自治体運営体の安全策主義も理解できるし、それが圧倒的多数派であるのは当然だと納得している。その反面、横並びへの固執に異を唱える企業や自治体が現れると期待してやまない。

「踊る阿呆に見る阿呆」

おなじ阿呆ならどうするのかはみずから決めるしかない。(了)

第1回:https://www.logi-today.com/382504
第2回:https://www.logi-today.com/381562
第3回:https://www.logi-today.com/382869
第4回:https://www.logi-today.com/383687

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“腕におぼえあり”ならば物流業界へ~正社員不足、求人企業は偏見改めよ
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コハイのあした(コラム連載・全9回)
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