話題物流コンサルタントの永田利紀氏によるコラム連載第4弾がスタートします。物流の切り口から鋭く現代社会を捉える永田氏は、徹底した現場目線を信条とするコンサルタントとして豊富な現場経験を重ねてきました。今回の連載テーマは「物流規格」です。
第1章- テレビとWMS
映画やテレビ番組はその配信方法を急激に多様化しつつある。そんな内容の記事を読むたびに、物流業界にも同様の指向や淘汰が訪れるに違いないと思うこと数知れず。「同様」とはいったい何を指すのだろう。■ たとえばテレビ局
テレビに映るコンテンツの実態価格は限りなくゼロに近づいていく。ゆえに著作権などの権利保護だけがボールのないドライビングモールのように右往左往しつつ一進一退を繰り返すが、その周辺では他のメディア経由であらゆる分野の番組配信が行われている。テレビを経由せずとも視聴者に直接配信できる。電波至上主義の時代は終わりを迎えているのだろう。
つまりテレビ局とテレビモニターが担ってきた、最強のプラットフォームホルダーとしての地位はもはや圏外に追いやられつつあり、コンテンツホルダーとしての格付けも下がる一方だ。かつて映画とその媒体であった映画館、ビデオやDVDが歩んだように。
選ばれた強者の証であり、新たな参入を許さなかった地上波の権利寡占が、今や大きく重い足かせとなってその未来を暗くしている。
■ 物流業界も同じ傾向
物流に置き換えたらどうだろうか。媒体ともいえる業務のプラットフォームを支配するWMSと前後を固める補完システム。いったいくつあるのかとカウントを投げ出したくなるような乱立ともいえる、似たような内容のWMSの氾濫。コンテンツにあたる「物品」は多種多彩だが、その種別がどうであろうと、物流業務自体は定番の仕組みと組み合わせで対応できるのだが、なぜか誰もそうしない。そんなサービス提供者も現れることなく、決定打を放つ者の席は不在のままだ。
■ 前提条件が諸事の根源
「複雑で多様」はコスト要因として理解を得やすい。試算の入口ですでに「手間がかかる方法」が前提条件として固定されているので、それ以後に工夫をこらし、細やかな節制や倹約を心がけても、ささやかな効果しか残せない「貴社の業種業態と商材に最適なWMS」のような謳い文句が居並ぶ検索結果。キーワードを幾つか組み合わせ、いわゆる「ロングテール」で検索しないと、膨大な数の情報に遭遇して絞り込みに一苦労する。
我々物流業務に携わる者たちは、テレビや映画の過去から今に至る沿革を今一度見直す必要がある。荷主別・取扱品別に存在する業務フロー。しかし、その中身に大差ないのは毎度のことだ。
テレビとの類似点はあまりにも多い。ということは向かう先も同じになるのか。次章からは「向かう先」を考えてみたい。
第2章- ソフトとハード
物流関連のさまざまな業種呼称や機能名称を並べると、微妙な違いの同じようなものがズラズラと続く。サービス提供者は差別化や独創性の主張をしているのだが、検索して比較検討、意思決定する側は紛らわしく感じることも事実だろう。
■ ソフトとハード
庫内業務は床と人でできている。すなわち原価は床代と人件費と付帯費用で構成される。運送業務なら床を車に置き換えればよい。とても単純な組成であっても、ハードとソフトの区別は明確にある。しかし、一般事業会社や非物流部門からは、その区分がわかりにくい。製造業をたとえ話の具に使えば、説明の足しになるかもしれない。
■ 製造場と製造者の違いと同じ
アパレルメーカーにとって、自社直営工場の有無は商品の独自性にまったく影響しない。逆に衣料品を製造する設備があるからといって、アパレルメーカーを名乗ることはできないはずだ。製造物に対する規格や意匠、原価企画などの「自社の魂」が貫かれていないのであれば、そこは単なる作業者のいる製造場であって、実質の製造者は別にいる。物理的なモノは製造場にあるが、我々がメーカーと呼んでいるのは製造場ではない。商材の魂ともいえる要素を生み出す製造者のことだ。物流業にも同じ理屈が当てはまる。
■ 倉庫建屋や運送車両があっても
アパレル同様、物流機能を担うためには、建屋や車両を所有しているだけでは必要十分ではない。物流倉庫には庫内業務フロー、運送 会社には配車要領・運行管理が具備していなければならない。単なる箱や車だけでは物流機能を満たすことはできないのだが、単独で主要機能がまかなえている物流企業は多くない。
■ さらに特異な点
元請けとアンダーは他業種にも存在する言葉だが、実務の主従が逆転していることが多いのは物流業界の特異性のひとつだ。アパレルでいうメーカーが製造場の運営者に丸投げ…規格・意匠、原価企画もアンダー任せというに等しい物流業者は珍しくない。物流会社にしても一般事業会社の物流部門にしても、ハードの選定からソフトである業務の完遂に至る起承転結をつつがなく行えている企業は極めて少ない。単なる能力論や体質論を持ち出すのは見当違いかもしれない。物流には「そうなりがちな理由」が生まれやすい環境があるのだと考えている。業務の独自性と独立独歩、明快な起承転結の実践。今まで理想や目標としてあがめられてきた価値観を、業務の根本にある前提条件から疑う必要があるのではないか。そんな予感を禁じえない。
―第2回(https://www.logi-today.com/377070)に続く
https://www.logi-today.com/356711
コハイのあした(コラム連載・全9回)
https://www.logi-today.com/361316
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