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好調決算支える「運賃値上げ」が意味すること

2020年5月20日 (水)

話題個人的には例年以上に注目していた2020年3月期の決算報道。通期の傾向・要因の分析や解説もそこそこに、4月以降の動向や予測に関心は集中している。コロナウィルス対策と出口戦略は最重要事項だ。成り行き次第では企業業績により大きな打撃を与えかねない。各社の決算内容が指し示している「因果」や伏線と思われるいくつかの事項を書いておきたい。(書き手=LogisticsToday企画編集委員・永田利紀)

■ 収益向上要因は「唇噛み請求書受け取る荷主」の姿勢

物流業界全体としては「好調もしくは堅調」な一年だった。国内収支だけに限っても、総じて堅調と判じて問題ない。特に3PLや倉庫などと比べて運輸系の収益改善は目覚ましく、大手のみならず中堅、中小の一部にまで及んで増収増益の基調が顕著だったように思う。

収益向上に寄与した最大の要因は「運賃値上げ」である。適正価格やら荷主理解、健全化などの説明が貼り付けられてはいるが、「断ったり、拒絶してはいけない」という”御上のお達し”に従い、荷主企業は有無をいうことなく「はい」と頷いて唇噛んだまま請求書を受け取っただけだ。

関連記事「カンダHD、適正料金収受の取り組みで収益改善」(2020年5月15日掲載:https://www.logi-today.com/377091
――トラック運送部門で適正料金収受の取り組みが奏功し、営業利益は11.6%増の17億4400万円だった。(記事本文より)

わずか数年前ならまず通らなかった値上げ申し入れだったはずだが、国土交通省やら公正取引委員会の眼が光るなか、静かにことは収まって波風も見当たらない。業務効率の見直しや機械化による人件費削減が寄与などもあったことは事実だろうが、真水がいきなり増える値上げの効果には到底及ぶものではなかった。

■ 3PLも好調、単価アップ分の上積み寄与

倉庫部門では、食品や生活用品関連のECや「とにかく全部まる受け」推進による受注確保を強烈に推し進めた3PLなどは好決算を迎えた。業務設計に致命的な欠陥がなければ、取扱量が増えれば増えるほど利益は残しやすくなる。それは物流に限らず、人件費商売の本質でもある。さらに加えて従来単価の増額改変が総量スケールの有利に追加利益を上積みした。

関連記事「センコーGHD、物流売上4.6%増の3927億円」(2020年5月13日掲載:https://www.logi-today.com/376788
――物流事業の売上高は3927億円で、前期から4.6%伸ばした。新規稼働センターの開設効果に加え、海外グループ会社7社を連結化。同事業の利益も10.1%増の178億円となった。(記事本文より)

しかしながら保管料相場は良くて横這い、大半は実質的に値下がりだったはずだ。にもかかわらずの好決算。ひとえに荷役料の増収増益が大きく寄与したことは各社共通だろう。それを後押ししたのは、労務改正と順守徹底の”お達し”だった。人件費上昇は荷役単価の値上げによって荷主へと増幅転嫁された。

これも運賃同様に「はい」と俯きながらやり過ごすのみだった荷主は多かっただろう。なんとなく「御上のご威光決算」みたいな言葉が浮かんでくる。つい最近まで過当競争にあえぎながらも、ひたすらに価格訴求していた業界体質の矯正を狙った後押しは、強烈な効果をもたらして今もなお持続中である。

■ 縮小する物流市場で好決算、支えるのは荷主のコスト増

どこから来たのかわからないウイルスによる停滞と混迷。やはり内需消沈・消費低迷の横這いをさらに踏みつける、見えない巨大な足のようだ。そんな中での「直近」期末決算。浮かれたり喜びに浸る者は皆無に近く、それどころではないという空気が満ちている。

毎度の理屈で恐縮だが、国内物流市場は縮小基調だ。セグメント別の凹凸は格差拡大の一途だが、総枠では縮んでいる。つまり物流会社の好決算はたいして利益の増えない、もしくは横ばいか漸減している荷主企業のコスト増によって支えられている。もちろん「新規獲得や関与荷主の業績好調によって」という要因が少なからずあることも承知しているが、市場規模拡大と無縁であるのは否めない。事業会社の追加コストが物流各社の増収や増益の源となっているだけで、市場拡大による従量増益だった事実などどこにもない。

今期決算のあらましを読みつつ、「適正」「健全」を改めて考えてしまった。三方よしの精神は尊いが、その按分は至難の業だ。誰がどう報われるのかに正解などないはずだが、毎回一喜一憂するのはいただけぬ。国が成熟期にさしかかり「皆で大きく・皆で成長・皆で儲けて」はきっぱり断たなければならないのだろう。「皆で程々に・皆で我慢・皆で納得」。「成長する」のは体格ではなく精神に変更。老成という言葉を想いながら書いている。

■永田利紀氏やLogisticsToday編集部に対するご意見、ご感想をお待ちしています。下記メールアドレスまでご連絡ください。

LogisticsToday編集部
support@logi-today.com

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