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「もしも自動運転が」第4回コラム連載

2020年6月29日 (月)

話題永田利紀氏のコラム連載「もしも自動運転が」の第4回を掲載します。

第3回掲載(6月25日)▶https://www.logi-today.com/382869

第7章- 無人車両の一般化

物流業務で起こることは、明確であったりおぼろにであったりしながらも、その輪郭が浮かび始めている。では逆に「起こらない」のはどんなことなのだろうか。

■ 興味と警戒

我々は実に多くの「自動」に囲まれて生きている。ほとんどが無意識となっているが、各自動機能が登場した当初は、それなりの興味や猜疑を抱いて、文明の利器たちと向き合ってきたはずだ。そしてもれなく皆が、妄信ではなく警戒の念を失することなく、利便性や信頼性を判定しただろうし、その回数も一度きりではなかったのではないかと思う。

■ いつかきた道

(イメージ画像)

自動車の運転も同じ道をたどりそうだ。かつてパワーハンドルやパワーウインドウが登場した際にも、「あまりにもハンドルの取り回しが軽すぎるが、大丈夫か?」や「便利だが、雨の日や風の強い日に壊れたらどうしよう」などの不満ではなく不安がぬぐいきれなかった人々は多いと聞く。我々は自動車の駆動部以外の装備・アクセサリー類の自動化や利便向上については、無防備に歓迎し期待してきたが、安全や駆動をつかさどる部位についてはどうだろうか。

レーンアシストやパーキングアシスト、追随型のクルーズコントロール、ミリ波レーダーによる危険感知機能付きの安全装置などは、あくまで運転者がいてのサポート機能であるゆえに、受け入れやすい。しかし、全部自動車任せとなるとハナシは違ってくるかもしれない。「頼る」と「委ねる」は似て非なるものだ。「任せる」は必ずしも「信用する」ではない事実と同じだ。

■ 深層心理

無人の自動運転で可とされるのは、普及の過程では限定的な場所や場面に限られそうだ。たとえば敷地内・施設内の移動手段や短距離間を往復・循環する貨物輸送車。
専用路線が整備保守され、厳密な運行管理と軌道上下左右に監視機能が備わった公道。自動車専用道路や高速道路での指定レーンなどが思い浮かぶ。

ここまで書いて明らかなのは、人間が監視・制御できなければ、実用化に踏み切れないという現実があるということだ。音声と映像が伴ったリアルタイムの情報受信と精緻なGPS追尾による運行軌道の確認。想定外トラブルや事故発生時の迂回や停止待機などの判断の「指示待ち機能」。みずから創造した成果物をみずからが疑って止まないという矛盾が人間の営みの本質なのだろう。

それゆえに、運転しないが乗車している車両担当者の存在が当面は不可欠とされる。実際に事故が起こっても乗車している者には解決できないのだが、その時に無人状態は好ましくないとする深層心理の塊が存在する。機械やシステムを支配するのは人間という矜持のすり替えなのだとしたら、それはもう喜劇的でしかない。

第8章- 自動車数の減少

少子高齢化が招く人口減少は、消費全般に強烈な構造変化をもたらす。個人の自動車所有率、旅行・行楽・仕事などでの自動車利用時間、自動車購入単価、これらすべてが大きく減少するという事実は重い。

■ 観覧車型交通

拡大するカーシェアリングサービス。ブームではなく、もはや主流化しつつあるのは東京の都心部やその他大都市の中心部の傾向だが、今後急速に国内の至るエリアに拡がってゆくだろう。

さらなる進化として、有人管理ながら自動運転走行する6~8人程度の乗車が可能な、タクシーとバスの間に位置する乗合自動車の登場。やはりそれも都市部だけでなく、やがて周辺部でも稼働するようになり、すぐに地方の人口過疎地域でも採用されるようになる。地域内をほぼ網羅する複数ルートを延々と巡回する自動走行車両。

利用者である住民は、モバイル端末やそれと連動してテレビ画面に表示される利用予約車両の到着予定時間に合わせて自宅前で待機。まるで観覧車のように、まわってくる空席に腰かけて、用事の場所で降りる。別所への移動や帰宅についても同様の手続きで済む。そんな光景が目に浮かぶが、それは妄想の域を出ないのだろうか?

■ 減ることしか

(イメージ画像)

巡回バス的な小型・中型車両の増加は、個人所有の車両数減少を招き、交通事故減少や運行管理の可視化による渋滞緩和、EV・FCV採用による排気ガス削減、高齢者の運転免許不保持による生活不安の解消、など好ましい利点が多い。そんな社会的な需要や要求を持ち出すまでもなく、現在の成人若年層は自動車の所有に消極的だと聞く。「自分の車は要らない」と考える若者たちが増える一方だとか。

衣食住の価値観が大きく変化していることの一面だろうし、「持たない価値」を重んじる傾向は拡がりの勢いを増すばかりだろう。そんな時代の要求に、自動車メーカーはどう応えるのだろうか。エンジン云々、車の形云々ではない。メーカーとしての存在を問われる事態に至るのだ。

■ 前提条件の再設定

企業間の販売戦争などやっている場合ではない。と、トヨタ自動車はすでに業界に横串を通す試みを始めている。生存を賭して自動車メーカー各社が参加するプロジェクトであり、物流に不可欠な車両開発にも大きく影響するはずだ。大型トレーラーから住宅地やオフィス街をくまなく走行する小型配達車。そしてカーゴ以外の各種自動車両。いったいどんな未来を自動車産業の巨人たちは描いているのだろうか。

詳らかな予見などできるはずもないが、ただひとつ確信しているのは、車両の自動運転化は個配機能をはじめとする国内物流の前提条件を変えてしまうということだ。特に、生活配送と呼ぶべき個配機能の飛躍的な多様化と弾力化には比類なく有効だろう。

第5回(7月2日公開予定)に続く

第1回:https://www.logi-today.com/382504
第2回:https://www.logi-today.com/381562
第3回:https://www.logi-today.com/382869

永田利紀氏の寄稿・コラム連載記事
“腕におぼえあり”ならば物流業界へ~正社員不足、求人企業は偏見改めよ
https://www.logi-today.com/356711
コハイのあした(コラム連載・全9回)
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