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-75度ディープフリーザー3000台と-20度7500台確保

厚労省、コロナワクチンの国内物流構築本格化

2020年12月10日 (木)

▲ディープフリーザーのイメージ(出所:厚労省)

話題厚生労働省は10日、ワクチン接種に必要な物資と物流を整えるため、国が主導してマイナス75度のディープフリーザー3000台とマイナス20度のもの7500台を確保すると発表した。薬事承認が下りた際に速やかに国内各地へ供給できるよう、流通・物流体制の整備に向けた動きが本格化する。

厚生科学審議会の新型コロナウイルスワクチンの接種体制や流通体制の構築を検討する部会で、事務局がワクチン接種体制の基本設計、事務負担の軽減に向けた業務効率化、接種に必要な物資・物流体制の確保、接種・流通の円滑化、具体的な接種体制の例示--の5項目について進捗(しんちょく)を報告。

ワクチンの接種は、国の指示と都道府県の協力によって市町村が予防接種を実施するが、新型コロナ感染症対策の重要な柱として全国的に実施する施策となるため「国が主導的役割を担う必要がある」との考えを示した。

また、国が医薬品メーカーからワクチンを確保し、医薬品卸が物流企業などと連携して各地への供給業務を担うことになるが「平時に比べ大規模な接種体制・流通体制を速やかに整備する必要がある」として、国が物流体制の構築に関与し、ディープフリーザーも国が確保して各地の自治体に公平に割り当てる。また、ドライアイスも国で一括調達する方針。

■ワクチンごとに異なる保管温度に対応

厚労省が想定している国内流通向けのワクチンは、来年前半までに全国民分の数量を確保する目標を立て、これまでに2億9000万回分の供給について合意している。いずれも薬事承認前だが、合意したワクチンは米ファイザー、英アストラゼネカ、米モデルナの3種で、このうち正式契約を結んだのはモデルナのみ。

▲ディープフリーザーのイメージ(出所:厚労省)

ワクチンによって保管温度が異なり、ファイザーはマイナス75度(プラスマイナス15度)、アストラゼネカは2-8度、モデルナはマイナス20度(プラスマイナス5度)となっているため、厚労省ではワクチンごとに提供スキームを設計する。

現在、メーカーから医療機関へワクチンを届けるための流通体制についてはメーカー、卸との協議を続けており、針・シリンジは国が保管倉庫を借り上げ、卸に委託して医療機関に届ける形をとる。卸は複数の卸で納品先がかぶるなどの混乱を生じないよう、地域ごとに担当の卸を国が指定。医療機関への輸送は卸の責任で地域ごとに選ばれるとみられる。ただ、特殊な温度管理が必要なファイザー製のワクチンについては、メーカー倉庫から医療機関に直送されるルートを想定している。

■ワクチンの確保量と供給時期

モデルナ製ワクチンの場合、開発に成功することを前提として、武田薬品工業が国内流通を担う。時期と流通量は、来年上半期(6月まで)に4000万回分、来年第3四半期に1000万回分を想定している。

ファイザー製は、来年6月末までに6000万人分(1億2000万回分)の供給を受けることに合意しており、最終契約に向けて協議が進む。アストラゼネカ製は、来年初頭から1億2000万回分のワクチンの供給を受ける方向で協議が進んでおり、そのうち3000万回分は第一四半期中に供給可能となる。

■ファイザー製ワクチンの物流体制

▲保冷ボックスのイメージ(出所:厚労省)

ファイザー製のワクチンはマイナス75度を維持する必要があるため、メーカー側が国内倉庫から医療機関などの接種会場まで、上下15度の範囲をキープしたまま配送する体制を構築する。

そのため、国内倉庫ではマイナス75度対応のディープフリーザー(全国で3000台確保)を設置して保管し、医療機関・接種会場へはおよそ1000回分を1単位として、トラックが保冷ボックスとドライアイスを利用することで輸送する。

保冷ボックスはドライアイスを詰め替えることで、配送から10日間程度保管することが可能で、冷蔵保管の場合はディープフリーザーや保冷ボックスから冷蔵庫に移した後、5日間保管できる。

■モデルナ・アストラゼネカ製ワクチンの物流体制

モデルナ製ワクチンについては、武田薬品工業が国内受入拠点・全国配送用分置倉庫として冷凍倉庫を用意し、リーファーコンテナで保管、そこから全国の卸倉庫・支店までトラックで輸送し、ディープフリーザーで保管する。医療機関・接種会場への配送は、車載可能なディープフリーザーを用いる。100回接種分を1流通単位とする。

▲武田、モデルナ社ワクチンの流通・保管(出所:厚生労働省)

使用するディープフリーザーは、国内メーカーが夏から増産体制に入っているものを利用する予定で、マイナス40度からプラス10度までの保冷に対応する25リットルのものと、マイナス24度からマイナス5度までに対応する70リットルのものを合わせて7500台確保するメドが立っているという。

アストラゼネカ製ワクチンについては、保管温度が2-8度とほかのワクチンに比べて特殊性が低いため、「特別な対応は不要」として、季節性インフルエンザワクチンと同様に、冷蔵庫保管する。具体的には、海外と国内の工場から冷蔵管理の国内倉庫に搬入し、卸倉庫・支店には保冷トラックで、医療機関・接種会場へは保冷ボックスで届ける流れが想定されている。

▲アストラゼネカ社のワクチンの流通・保管(出所:厚生労働省)

■ワクチンの配分方法

実際にワクチンを配分する際の流れは、国がワクチン出荷可能量の確定値を確認し、物流・接種などの標準スケジュールを設定する。

ワクチンは月に2回から3回程度、地域ごとのワクチン分配量を国が決め、都道府県が市町村ごとの、市町村が医療機関ごとの分配量をそれぞれ定める。ここで決められた分配量に応じ、メーカーと卸が医療機関に配送予定日を連絡して配送、医療機関は接種数とワクチン残数を自治体と国に報告する。これらの情報は、新型コロナウイルスワクチン専用の情報システム「ワクチン接種円滑化システム」(V-SYS)を通じて共有される。

▲ワクチン配分方法のイメージ(出所:厚生労働省)

実際の物流は卸が担うことになるが、混乱なく速やかに納品できるようにするため、平時のワクチン供給と異なり、どの医療機関にどの卸が納品するかを決める。これにより、医療機関ごとの割り当ての決定前に卸までの物流を動かすことができるため、早期の納品が可能となる。

地域ごとの卸の選定方法については、医薬品卸売業連合会が卸各社の意向を確認した上で、都道府県は必要に応じて都道府県内を複数の地域に分割するとともに、卸の希望を聴取して「地域と卸の組み合わせリスト」を作成。その際、物流網や交通網から非合理な分割になっていないかを卸と協議して分割ラインを決める。

▲卸の担当地域割り当てのイメージ(出所:厚労省)

トレーサビリティーの可視化も速やかに

ついに待ちわびた発表が行われたが、今後の補足や調整が必要な項目は数多いと察する。

国が製薬会社に一任して、物流から接種までの終始を監視・監督するのだというところまでは理解できる。しかし輸送対象となっている3種類の新型コロナウィルスワクチンそれぞれに保管条件が異なるという前提条件のもと、空港から先の業務フローはワクチン種別数と同じかそれ以上となるはずだ。メーカー各社から国内卸各社や医療機器卸各社への連携なども、おおよその目論見はあっても、実務への落とし込みと現場への配布完了までの道程が、紆余曲折なしとは考えにくい。

何はともあれキックオフしたのだ。業界をあげての協力体制と行政からの積極的な情報開示に反応し、知恵や工夫の供出にも期待したい。(企画編集委員・永田利紀)