話題個配事業者の倉庫内業務への進出は加速する一方だ。今回のヤマト運輸とロクシタンのアライアンスは、先ごろ発表されたヤマト運輸の中期経営計画にある「全産業のEC化」を象徴する事例として、強烈なインパクトを与えたことは間違いないだろう。(企画編集委員・永田利紀)
https://www.logi-today.com/431002
ほかの製造業者へのインパクトは
個配事業者、特に大手3社の中でも、配達完了率や域内巡回頻度などで群を抜いているヤマト運輸の総合物流サービスにまず反応するのは、SPA(製造小売業)や直販比率拡大を事業目標に掲げる製造業各社だろう。

(イメージ画像)
B2CやB2B2C、もしくはD2Cなどと呼ばれ、「個配」を最終配送形態とする物流業務。しかしながら、これまで顧客である売り手の倉庫や営業拠点に一括納品することを常としてきた製造業の面々は、個配の必要性が理屈では理解できても、組織感情や現場の思考回路が一朝一夕には変わり切れないジレンマがある。
そのあたりの難儀でややこしい、悶々とする悩みの種を個配事業者が丸ごと引き受けてくれることは渡りに船だろう。市場変化に対応するための時間割に追われる事業者の相当数は「苦手で面倒な業務をプロに委託して、商品開発と販売促進に専念できる」と感じるに違いない。
そんな彼らの思考回路の流れを誰よりも知っているのは、ほかならぬ個配業者たちだ。なぜなら今から20年ほど前のEC市場黎明期に、「業態変更」や「新規事業」として参入してきた販売者たちが、「ウェブ制作と仕入れ、販売管理だけに集中したいので、倉庫内と配送の業務を丸投げしたい」と声を揃えていたのを見聞きしているからだ。
中堅・中小の営業倉庫への影響は

(イメージ画像
販売主体となる事業者の大多数は好感を持つと思うが、倉庫事業者は真逆の反応を見せると思う。今や個配サービスの取次差益をあてにして経営できる営業倉庫は皆無に近い。顧客番号で荷主、つまり販売主体の事業者を管理している大手個配事業者は、営業倉庫から仕事をもらっているという意識など皆無——というのが本音ではないだろうか。
個配事業者が過去に集荷した履歴のある事業者に付与する顧客コードにしても、今は複数発行できなくなっているので、全国の都道府県の別を問わず、どのような帳合や提携を経由して荷を出荷しようとも、その顧客の基本タリフは常に固定されたままだ。
したがって、一見すれば商流と業務フローの上流に位置するように思える倉庫業者は、個配事業者から「顧客コードを借りて」毎月の配送料金を集計したり観察したりしていることになる。直截に書けば、営業倉庫は荷主と個配事業者の関係に一切関与できず、単に出荷場(個配側からすれば集荷場)を提供しているに過ぎない。
あくまでも倉庫作業である荷役部分でしか関与できないというのが実態であり、役割として明確に切り分けられて久しい。だからこそ、個配事業者の倉庫業務進出は警戒感どころか恐怖を禁じえないのではないか。
「運送屋に倉庫作業は無理」と高をくくって済んでいた時代はもはや終わっているが、その認識の有無にかかわらず倉庫事業者、特に中堅以下の小規模事業者は、否応なしに生き方の再考をせざるを得なくなる。意思決定や選択肢の取捨の期限は、一重に個配事業者の動きにかかっていることにも留意しなければならない。
中間介在者としての物流業者の立場は
他業種に比して波風なく、門外からの侵入者も少なかった物流業界だが、この数年は外部からの新規参入者が続々と押し寄せるようになった。それに加えて、業界内の地図も頻繁に塗り替えられたり書き換えられたりして、目まぐるしく状況が変わり、常識もルールも変わっている。
業務分野にもよるが「今まで通り」は「明日を失う」ことと同義となる。かわすか逃げるか、突き抜けるかぶつかるか、屈するか握手するか、といった意思決定が毎度求められるが、あながちオーバーな物言いではないだろう。

(イメージ画像)
俗にいう「ラストワンマイル」を制する者が、事の始まりたる消費者を囲い込む者と同一ならば、その中間介在者の立ち位置はすべて「従」や「下」となってしまうはずだ。表現が「パートナー」や「協力事業者」であっても、実態は情報の下流に位置して、最終仕上げには関与できない者たちとなる、というのが過不足ない実像ではないだろうか。
まったくの当てずっぽうだが、ヤマト運輸には多くの企業から問い合わせが続いていると思う。ロクシタンが提携した動機は、ほかの事業者のそれと大きな差異があるとは考えにくい。ヤマト運輸も、そのことを踏まえたビジネススキームの提案や、営業推進に抜かりはないはずだ。
いうまでもなく、傍で眺めている日本郵政と楽天、そしてSGホールディングスが、このまま静観するとは考えにくい。というか今この時にも、それぞれが活発に動いていると察するほうが妥当だろう。
ボール不在のスクラムは無意味
倉庫事業者は即座に反応して、対応策を練らねばならない。顧客ニーズというボールを正確に捉えて、接触できる位置にいることを自他ともに確認できないのであれば、直ちに適切な修正が必要だ。営業倉庫に寄託している荷主の多くは、貪欲に自社の益となるサービスやパートナーを探してやまない。
「うちは技術に長けているから、ほかは真似できない」などというのは論外であるし、誤出荷や在庫差異の少なさばかりを鼻息荒く吹聴するのは幼稚極まりない。それらは品質管理や維持の最低条件であって、設定目標でも目的でもない。
真心や一所懸命さなども当たり前のことであり、そんな情緒的なうたい文句ばかりでは荷主は離れてしまうだろう。求められているのは合理的で包括的、かつ単純で明快な業務構成だ。
自社で完結できないのであれば、早々に意識と立場を変える。主従や上下にこだわるよりも、顧客と接しているか否かに主眼を置くことが肝心だ。それが提携であってもどこかの下請けであっても、こだわる必要はないと思うのだが、営業倉庫のおのおの方はいかがお考えなのだろうか。
「オロオロとうろたえて、途方に暮れるほどヤワではない」そんな気持ちを胸に秘める、倉庫事業者の本領発揮を切望する。