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「EC事業者向けの営業」とは?/解説

2021年3月24日 (水)

話題過去にもあちらこちらで数多く講演や寄稿をしてきたが、EC事業者向けの物流営業に特別な道具は不要だ。そういえば、ついこの間も似たようなコラムを書いたばかりだった。それでもあえてもう一度説明したい。(企画編集委員・永田利紀)

ライフ、宅配強化へ間口グループと新会社(21年4月7日掲載)
https://www.logi-today.com/428956

■強いて挙げれば

(イメージ画像)

EC事業者向けの物流業務に、特殊さや複雑で難易度の高い技術は不要なように、その業務を受託するための営業活動にも、大層で難しい道具は全く必要ない。どの業界の荷主に新規取引を申し入れるにしても、まずは所属業界や荷物の特性と、流通形態や関連する種々の現状を調査して、理解し、その上で物流業務を設計して委託メリットを訴えるのは、3PLに限らず全ての営業倉庫では基本中の基本のはずだ。

蛇足だが、顧客もしくは新規候補企業のことを精査することなど、物流業界云々以前のハナシであり、ビジネスマナーとしても最低限の弁えである。大手や歴史ある中堅物流企業が「EC物流」なる奇妙な言葉に苦手意識を抱くとすれば、それは単なる不勉強や、EC事業者を既存荷主とは異質なものとして特殊扱いしているだけで、あくまで自意識の問題に帰することが大半ではないだろうか。

強いて特徴を挙げるなら、いくつかあるECマートの独自ルールや、OMS(受注管理システム)とWMS(倉庫管理システム)の連携、多品種少量の極みである、広い間口で奥行の浅いSKU(ストック・キーピング・ユニット)の特性などではないかと思える。

■掘って掘って、出てきたのは

(イメージ画像)

自社開発もしくはOEM(相手先ブランド名製造)で調達した、独自のWMSや業務付帯システムとツール類が用意できなければ「EC物流市場」への参加すらできない、という言葉があちこちから聞こえてくるようだが、一体誰がその言葉を発しているのだろうか。この十数年間、年間おおよそ30社内外のEC事業者から物流相談を受けてきたが、私の顧客には道具立てにこだわる経営者は皆無だった。

併せて、営業倉庫の面々は程度の差こそあれ「ツール」のハナシが非常に好きで、そのくせ苦手意識が強い。「EC=最先端のデジタルツール=WMS」や「無線機器の活用」という連想が働いているのか、やたら道具にこだわりたがる。

そんな暇があるなら、まずはEC事業者のもとにはせ参じて、「いったい何に困っていて、それがどうなれば良いと考えているのですか?」と問うてみるべきだ。ほぼ確信に近いが、相手からWMSの独自性やカスタマイズについての話題など、初訪から何度目かの商談までまず出ないだろうし、必要もない。

なのに、業界人たちの多くが「EC事業者に営業をしかけるにあたり、WMSなどの準備が不足していて」と不安を訴える。怪訝さのあまり彼らに質問してみる。

「例えば、どの企業からそう求められているのですか?」

その答えの多くは、

「いや、実際に言われたわけではないが、間違いなく弊社は遅れているので」

といったモゴモゴとした要領を得ない中身の返答に終始する。つまり、勝手に思い込んでいるに過ぎないというのが実態なのだろう。

■最低限の準備

では、具体的にどこまで用意すればいいのか。まずはEC事業者が戦っているECマートの約束事を理解しておかねばならない。例えば楽天市場やロハコやアマゾンでは、出店者はどのような規約に則り販売しているのか。そしてその最終仕上げとして「配送」、つまり受注以降の引当から出荷完了までの業務はいかなる業務フローで手当てできるのか。

もしもマート自体の物流作法や規約が出店者との間で交わされているなら、それもヒアリングしておく必要がある。言うまでもないが、どれほどWMSの機能に凝ろうとも、その入口にある引当データの中身を理解していなければ、秀逸で気の利いた機能とてまるで役に立たない。

特殊で、年に数度しか発生しない業務対応機能まで搭載された肥満体のシステムなど不要で、まずはその名のとおり「倉庫内の業務を管理できる」ための基本性能を、簡易な操作と直感的な画面誘導で行えるものを用意すべきだ。

WMS開発・販売各社が提供している人気ランキング上位のものなら、どれでも問題なく現場は動くし、荷主はそれについて異論を挟むことはない。

稀にあり得るとすれば、内製から委託に変える際に、「使い慣れたシステムをそのまま継承してほしい」というパターンだが、それは物流業者側が巷に流通するWMSの知識を持っていれば済むことだ。そのほか、最近はOMSとWMSの一体型や連動型のシステム提供が主流化しつつあることも付記しておく。

さらには巨大マートの台頭によって、OMSとWMSの独自調達議論に終止符が打たれる可能性が高いのだが、それは別稿で詳しく書きたいと思っている。

■荷主は常に千差万別

物流事業者各位に今一度考えてもらいたい。いつの時代もどの業界でも荷主はさまざまで、たびたびややこしいことを言い、黙って聞いていれば、とんでもない物流要求をしてくる。

そんなことは当たり前だし、それをまずは全部聞いてから、「しかしながら」と一つ一つ丁寧にかみ砕いて、ぜい肉と迂回のない簡素な業務の維持へと誘導してきた、という過去の経験を反芻してはいかがか。

はやりのWMSとかいう利器は、元来存在した現場の業務フローをデジタル化し、注意喚起やエラーチェックをセンサーや画像で判別しているだけで、根本的な原則とポイントは何も変わっていない。つまり、物流各社は、特別な設えや新たな機器を開発する前に、まずは情報収集し、次に取捨選択し、最後は既成の専門機器やシステムの転用、もしくはその提供者との協業を図っておけば、それで事前準備は足りる。

結局は「どうやって顧客と出会うか」にハナシは行き着く。それは、何もEC事業者向け営業で初めて起こったことではない。大昔から万人が取り組み続ける永遠のテーマであり、いつも鼻先にぶら下がってなかなか食えない人参みたいなものなのだ。まずはEC事業者と会って、面談することに注力してほしいと願う。