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物流AMRの現在地と2021年全機種比較/AMR特集I

2021年7月21日 (水)

話題人手不足と”2024年問題”を抱える物流業界で、ロボットへの関心が急速に高まっている。6月24日にオンライン開催された「物流AMRフォーラム2021」では、当初の定員300人を大きく上回る700人超が参加を申し込み、2時間半に及ぶ4社の講演に耳を傾けた。

トップバッターを務めるLOGISTICS TODAYの赤澤裕介編集長は、近年の自律搬送ロボットの動向を踏まえながら「物流AMRの現在地」を解説。AGVとAMRの違いや、海外メーカー製品を含むAMR全機種の機能について言及した。

AMR関連記事の初登場は2018年

赤澤氏は「AMR」(Autonomous Mobile Robot)という単語がLOGISTICS TODAYのニュース記事に初めて現れたのは2018年だったと振り返る。当時AGV(Automated Guided Vehicle)は国内でも普及していたが、GROUND(グラウンド)社が国際物流総合展でAMRを展示し、日本のAMRの火付け役となったのである。

▲LOGISTICS TODAYの赤澤裕介編集長

2019年は日本通運がAMRに着目し実証実験を開始し、プラスオートメーションが月額料金制でAMRの導入を促進した。そして、2020年になるとAMRの日本企業への導入は加速する。新型コロナウイルスの流行で物流自動化ニーズが高まり、アスクルが関西拠点にAMR111台導入・日本通運がAMRを本格稼働開始など、下半期から急速にAMRを導入する企業が増加した。

2021年、AMRは「普及期」に突入の兆しがあると赤澤氏は述べている。LOGISTICS TODAYでもすでに19本の記事が公開されているのだ。

AMRの全機種比較

赤澤氏はセミナー内で「AMR全機種比較」として、日本・世界でどのようなAMRが存在するのか、全機種をまとめた資料を公開した。現在世界に存在するAMRは126種類あり、半数以上が中国メーカーの機種・日本メーカーは8機種である。

AMRの定義は「自律走行ロボット」であり、AGVとの違いは時期テープなどの決められたライン上を動くか否かである。ただし、SLAM(Simultaneous Localization and Mapping)方式の普及により、AMRとAGVの境界は曖昧になっている。

赤澤氏はAMRの定義自体よりも、どのような目的でAMR・AGVを導入し、どのような使い方をするかが大切であると語った。

以下、講演内容全文↓

AMR関連記事の初登場は2018年

ここでは、「AMRが日本の物流業界にいつ頃登場したのか」、そして「現在どういう位置にあるのか」のテーマでお話しします。ちなみに、今日のプログラムの最後の座談会では、AMRの未来について登壇する皆様にお聞きする予定になっております。

さて、LOGISTICS TODAYでAMRに関するニュースが最初に登場したのは2018年のことです。2018年の記事本数は2本、2019年は5本、2020年は17本と年々増加し、2021年はまだ半年分ですが既に19本。AMRに関するニュースが非常に増えてきている印象です。

▲AMRに関する最初の記事(2018年)

ちなみに、2018年に登場した最初の記事は、国際物流展で人と協働するロボット展示に関する話題でした。日本でのAMRの「火付け役」として、GROUNDという会社がこういう展示会を活用して開発状況を発表しました。こちらがその2018年12月25日付の記事ですが、当時は「自律型協働ロボット」という形で紹介しています。

AMRが登場した当時、すでに物流業界では、AGVがかなり知られる存在になっていました。AGVとAMRの違いにつきましては、後ほど触れたいと思います。つまりは、これが日本におけるAMRの最初だったということです。

実は、LOGISTICS TODAYで報じているニュースで、2016年にも注目すべき動きがありました。2016年9月5日にラピュタロボティクスが、クラウドで接続された自律モバイル型ロボットを開発すると発表しているのです。こうしたロボットが、この頃から出始めたということが分かります。

2019年に入ると、日本の代表的な物流企業である日本通運が、ピッキング工程にAMRを採用する実証実験を行いました。当時は、まだAGVの価格は数百万円と現在の数十万円と比べてもかなり高額で、「コストが導入の障壁になる」との話を取材でよく耳にしたのを覚えています。

こうした状況下で、プラスオートメーションという会社が、2019年11月21日に早くも月額料金制で初期費用ゼロで導入できるサービスを発表しています。アパレルの倉庫の自動化をサポートするという内容です。日本通運は、2019年7月の実証実験で、後で登場したラピュタロボティクスのロボットを使いました。

次にプラスオートメーションの月額料金制サービスが登場したのが2019年11月21日だったわけです。その記事の最後に、プラスオートメーションが近日中にラピュタロボティックスと協働型のピッキングソリューションの取り扱いを開始するとあります。早くも販売側と開発側の連携が見て取れる事例です。

2021年、AMRは「普及期」へ

2020年に入ると、AMRを取り巻く動きは一気に加速します。2月には、日本で新型コロナウイルスが話題になり始め、その後緊急事態宣言が発令されるなどして営業がしにくくなりました。物流現場でもクラスター感染が発生するなど、いろんなことがありました。こうした動きを背景に、AMRは非常に動きが加速してきました。

アスクルが関西の物流拠点にAMRを111台も一挙に導入したり、実証実験をいち早く実施した日本通運が品川の物流センターで本稼働させたりしています。LOGISTICS TODAYとこのフォーラムを共同開催するロジザードが、AMRの導入を促す3PL向けキャンペーンを実施するなど、動きが急展開を見せてきています。2020年度後半にかけて、こういう動きが顕著になってきた印象です。

2021年は、まだ6月ですけれども、既に19本のAMR関連記事を配信しております。今年はまさに、AMRの「普及期」に突入していく兆しが随所に見られます。

最後に、AGVとAMRの違いについて触れたいと思います。厳密にマーケットの規模を分けて捉えることは難しいですが、世界における市場規模は現時点で8億ドルですが、向こう3年ほどで3倍から4倍、場合によっては5倍にまで広がると見られているようです。ここまで、AMRの国内における登場から現在までを振り返りました。

「スラム方式」の登場でAGVとAMRの線引きは困難に

ここからは、AMRの全機種比較について、日本だけでなく世界で活躍するAMRの数や種類、特徴などの規模感をお伝えできればと思います。一覧で写真を載せておりますが、全部で126機種ございます。AGVとAMRとの境目があいまいなものも含まれています。明らかにAGVだと判断できる機種は含めておりません。

AMRは「自律移動ロボット」と訳されるように、人とロボットが一緒に作業するものです。日本における代表的な使用イメージは、人間が商品をラックから取り出してAMRに乗せ、AMRが次にピッキングする商品の場所または梱包エリアに移動していく、というものです。それに対してAGVは、決められたラインの上だけを搬送するロボットとして登場しました。つまり、ロボットを誘導する何らかの軌道が必要になるわけです。

当初は、床に磁気テープを埋め込んだりレールを敷いたりして、AGVを誘導する事例が多かったですが、最近は目に見えないラインでロボットを誘導する「スラム方式」が増えてきました。ここまで来ると、AMRとの明確な線引きが難しくなってきます。

ここで、皆さんにぜひ踏まえていただきたいのは、AGVとAMRを明確に区別することが大切なのではありません。ロボットの導入目的や使い方について、自社の現場に適している機種を判断する材料として活用していただければと思います。

AMRの半数以上が中国製

さて、126機種のロボットの製造国を調べてみると、なんと半分以上が中国製です。日本製は8機種で、米国製は18機種、イタリアは16機種でした。イタリアにつきましては、メーカー数は一つだけですが機種は16もありました。フランスは3社のメーカーで3機種を生産しています。

AMRの走行速度ですが、毎秒1メートルから3メートルと書いてあります。人間の走るスピードは一般的に毎秒4メートル近くとされていますが、AMRで一番多いのが毎秒1.5メートルから1.7メートルでした。毎秒3メートルの機種は、相当高速と言えそうです。

運搬重量についても、機種によって相当な幅があります。1.5キログラムから、フォークリフト型で4トンを超えるものまであります。ロボットの自重についても、4キログラムから2トン以上のものまでさまざまです。なお、「停止精度」とあるのは、目標地点でどの程度正確に停止できるかを示したものです。

126機種で比較すると、最も正確に停止できる機種でプラスマイナス1ミリメートルでした。カタログでの表示数値になりますが、一番大きくて100ミリメートルと、大きな幅があります。充電時間も1.2時間から4時間ぐらいまで、稼働時間も4時間から48時間まで、機種によってさまざまです。

AMRの導入検討の際に非常に重要な情報となるのが、走行可能な幅員です。通路の幅をどの程度確保する必要があるかの指標となります。一番狭いもので700ミリメートル、フォークリフトタイプでは2800ミリメートルのものもありました。誘導方式ですが、スラム方式の登場でAMRとAGVの境目がわかりにくくなったと説明しましたがけれども、いろんな種類の誘導方式があります。

温度帯については、マイナス10度から対応できる機種がありました。上限は50度ぐらいとのことですから、物流倉庫においては上限温度を意識した対応を準備しておく必要がありそうです。次に許容勾配(床面の傾き)ですが、最大で5度くらいまで対応できる機種がありました。許容段差幅は4ミリメートルから2センチメートルまで、ばらつきがありました。

LOGISTICS TODAY編集部で把握しているAMRメーカーは、世界に32メーカーありました。今後も増えていくと思います。今後もAMRメーカーや所属国に関する動向をフォローしてまいります。

LOGISTICS TODAY・赤澤氏の講演資料ダウンロードはこちら