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属人化・サイロ化から脱却

AIで物流網計画を最適化、GRIDの「ReNom Apps」

2021年7月29日 (木)

GRIDの曽我部代表

話題DXの波は物流業界にも訪れているが、必ずしもスムーズに進んでいるとは言い難い現状がある。特にサプライチェーンにおいては業務カテゴリーが広範で属人的であることから、システム化に必要な現状把握もままならないことが多いのではないだろうか。

「日々の業務をデジタル空間に再現することで現場を見える化し、さらに精度の高いAIで計画の最適化まで実現する」そんなテクノロジーがあればサプライチェーンの業務効率化から中長期の経営戦略策定、さらに脱炭素などの社会課題までカバーできるはずだ。

GRID(グリッド、東京都港区)がこのほどリリースした「ReNom Apps」(リノーム・アップス)はそれら全てを、AIによる計画最適化で高精度に解決するソリューションである。同社の代表取締役の曽我部完氏とCTO(最高技術責任者)の沼尻匠氏に、ReNom Appsが今後の物流業界を、サプライチェーンをどう変えていくのかについて、お話を伺った。(落合達也)

属人化・サイロ化に苦しむ現在のサプライチェーン

従来のサプライチェーンにおける仕入れや生産、運送などの計画策定は、それぞれの部門の熟練担当者の勘と経験に頼る部分が大きく、明文化されたマニュアルやルールを持っている企業は少ない。どのタイミングで倉庫にどれくらいの在庫を補充すればいいのか、それに対して車両のリードタイムはどれくらいかかり、荷役のためのコストはどれくらいかかるのか、原材料をロットで注文するとどうなるのかなど、ルールは現場の担当者の頭の中にしかないのが現状だ。

このように属人化してブラックボックス化したノウハウを、それぞれの部門が連携することなく独自で持っており、連携が必要なはずの横断的な部門や全社統合部門も把握しないまま、計画策定と運用を行っている。このように全体最適にはなっておらず、各部門でサイロ化されているのが国内各社の課題といえる。

従来のサプライチェーンの構造

また、属人化した計画策定は立案をするのに時間がかかる上に、イレギュラーな事態への対応もスムーズではない。

「需要予測についても、大抵はさまざまな要因で上振れや下振れをしますが、多くの会社は一つの需要パターンを決め打ちして計画を考えています」(曽我部氏)

そのため本来は柔軟であるべき現場の生産業務や運送業務が、悪い意味で機械的になっていたという。状況に応じた生産量や運送量の調節が難しいため、無駄なコストの発生が常態化していたのだ。

現状把握と未来のシミュレーションが可能に

これらの課題を解決するのがReNom Appsだ。担当者の頭の中にしかなかった計画策定におけるルールを見える化し、計画最適化を実現できる。

見える化を実現するのが、ReNom Apps内部の「ReNom SIM」(リノーム・シム)というシミュレーション機能だ。生産拠点や設備、船舶やトラックなどによる輸送、物流施設のバースに至るまで、サプライチェーンを構成するオブジェクトが基本のパッケージとして組み込まれており、実際の物量やスケジュールなどのデータを入力すれば、ビューワー上で現状のサプライチェーンと同じ動き「デジタルツイン」として再現できる。

ReNom SIMの画面

さらに未来のシミュレーションにおいても、数日間などの短期だけでなく、数週間や数ヶ月間といった中長期の予測が可能だ。計画を実行した場合に将来のサプライチェーンがどうなっているのか──例えば海運の場合は、計画立案時にそれぞれの船舶がいつ、どこにいるのか、どの港湾拠点がどんな在庫状況になるのかなど──をビューワーで示すことができる。

CTOの沼尻氏

また、ReNom Appsは仕入や生産などの前提条件が「ぶれる」ことを想定したツールとなっている。このことについて、沼尻氏はこう語る。

「確率最適化というAIソリューションを用い、前提条件のぶれを考慮したリスクの低い計画を提案できるのは、サプライチェーンにとって大きなメリットだと思います」

このように現状の把握と未来のシミュレーションが高精度でできることで、複数のシナリオから最善なものを選択することができ、的確な意思決定が可能となる。また、ReNom Appsでは計画策定における数量の管理だけでなく、P/L(損益計算書)に関わる部分のシミュレーションも可能だ。

「P/Lに関わる売上、原価、利益など、経営指標の数字がどう変化するのかも出せます。ReNom Appsは、いわば『経営指標に転換するシミュレーター』でもあります」(曽我部氏)

「ReNom Apps」資料ダウンロードページ

業務効率化やコスト・CO2の削減に大きな効果

ReNom Appsではシミュレーションだけでなく、AIによって計画そのものを最適化することも可能になる。この最適化を担うのが、ReNom Apps内部の「ReNom ALGO」(リノーム・アルゴ)という最適化アルゴリズムである。

現場の業務効率化の面でいえば、担当者が従来は人力で行っていた計画策定をAIが行うことで、大幅に時間が短縮でき、担当者の役割のレイヤー(階層)が上がる。AIがシミュレーションによって作った複数の計画候補から、その時々の現場の状況にあった計画を「選ぶ」業務にシフトするようになることで、意思決定のスピードと正確性が上がるのは大きな業務効率化といえる。

また、各部門でサイロ化されていた計画策定を見える化し、最適化するだけでも大きなコスト削減になるが、ReNom Appsではさらに部門間の連携を行うことが可能だ。物流計画、生産計画、調達計画など全てを連動させることで、需要をもとにサプライチェーンを動かすことができる。計画最適化を横に広げることで非常に大きなスケールでコストをカットでき、事業体質そのものを変える可能性がある。

サプライチェーンは運送に燃料を多く使用するため、社会的責任として脱炭素化に取り組む必要があるが、ReNom Appsによって計画最適化を行うことで、移動距離の短縮や工場の稼働効率化を図り、燃料の使用料の減少による二酸化炭素削減につなげるることができる。GRIDは経済と環境を両立させた変革である「グリーン・トランスフォーメーション」(GX)の重要性を提唱している。

ReNom AppsがもたらすGXのイメージ

さらに、ReNom Appsではどのように荷物を運ぶと、どの程度の二酸化炭素が排出されるかを可視化することが可能だ。可視化できることで、日々の計画でどのように収益と環境負荷のバランスが取れているのか、どんな経営戦略をとることで二酸化炭素の削減に貢献できるのかといったことを、短期的・中長期的に見据え、脱炭素への取り組みを高精度で実行できるようになる。

GRIDならではの「専門性への対応力」

これまでの物流計画を自動化するAIツールには、短期のシミュレーションをするだけのツールが多かった。中長期の経営に関わるシミュレーションは、コンサルタントなどが別途行うことが多いため、そのための工数やコストが発生した。

ReNom AppsがこれまでのAIツールと異なるのは、従来は分かれていた短期と中長期のシミュレーションを統合することだ。サプライチェーンの現場の運用と経営計画をシームレスにつなげることで、計画最適化業務の工数とコストの削減を実現できる。

GRIDはこれまで、電力や海運など専門性が高く、法的制約の多い分野の企業の計画最適化プロジェクトを担当してきた。クローズドな情報が多い分野におけるビジネスルールが分かっているため、クライアントにとっては頼もしい存在だ。サプライチェーンの計画最適化においても、これまで蓄積し、体系化したノウハウを十分に発揮できる。

配船計画シミュレーターの画面

顧客によって業務的な制約はさまざまだが、そういった条件も柔軟に組み込めるのがReNom Appsの特徴の一つ。導入に当たってはエンジニアが営業担当者に同席し、顧客のサプライチェーンの状況をヒアリングするが、担当者やエンジニアの専門分野への対応力が高いからこそ、ヒアリングの際にも齟齬がなく、条件の組み込みも精度が高い。

機能面で優れるReNom Appsだが、導入フェーズではやはりマンパワーが鍵になる。GRIDの担当者が備える対応力は、導入のハードルを下げる大きな要因だ。

導入を進めることが会社の「自己把握」に

いきなり全社の最適化を図るのはゴールが見えない、導入コストが莫大になるのではないか、と心配される担当者も多いだろう。しかし状況や予算に合わせて導入できることも、ReNom Appsの魅力の一つだ。

導入のハードルは「まずは現状を可視化するシミュレーターの部分だけを導入する」といった方法などによって下げることができる。GRIDは、可視化が終わり、現状の把握ができた段階で計画最適化機能の開発に入るなど、企業に合わせてカスタマイズした導入にも対応している。

インタビューに応える曽我部代表

現状を可視化する際には、それまで属人化されていたビジネスルールが各部門から集まってくる、というメリットもある。

「オペレーションの整理が言語化されていき、どんな計算をすると正しい答えができるのか、といった暗黙知が会社の標準のナレッジに置き換わっていくのを何度も見てきました」(曽我部氏)

ReNom Appsの導入を進めること自体が、会社の自己把握にもつながるのだという。この辺りのデータやオペレーションの整理も、業界のトップランナーや、さまざまな専門分野を手がけてきたGRIDならしっかり誘導できるということだろう。

計画最適化に加えて「経営最適化」も

ReNom Appsが二酸化炭素の削減にも力を発揮することは前述したが、曽我部氏はそのことが、結果として「企業経営の最適化」に寄与すると語る。

「投資家からは『二酸化炭素削減に取り組んでいない会社には投資しない』という姿勢が示されつつあります。最近では、経営企画やサステナビリティに関する事業部の方々からのご相談をいただくことが増えてきました」(曽我部氏)

これまで計画最適化に関しては、現場のオペレーション担当者が提案対象になることが多かったという。しかし今後は、むしろ企業の意思決定においてもReNom Appsのようなソリューションの活用が進む見通しだ。

ReNom Appsは、短期的には日々の業務をデジタル空間に再現し、収益の最大化を図り、コスト削減を実現する。中長期的には経営の観点から企業のビジネスをデジタル空間に再現し、さらに二酸化炭素削減やSDGs(持続可能な開発目標)の推進によって企業の社会的評価を高め、投資家にも価値を認識してもらう。まさにサプライチェーン企業の未来を飛躍させるAIツールといえるだろう。

「ReNom Apps」資料ダウンロードページ