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協力会社含め1万台導入見込む、1台380万円で普及戦略

SBSグループ、全ラストマイル車両のEV化を表明

2021年10月12日 (火)

初ナンバー取得車両を前に握手するSBSHD鎌田正彦社長(右)とフォロフライ小間裕康CEO

ロジスティクスSBSホールディングス(HD)は12日、グループでラストワンマイル輸送を担う全車両をEV(電気自動車)トラック化する方針を明らかにした。SBSグループがEC(電子商取引)事業向けラストワンマイル輸送車両として稼働する2000台を対象に、今後5年間で全てEV化するとともに、協力会社を含めた1万台のトラックについても2030年度をめどにEVへの置き換えを働きかける。今回決定したEVトラック導入は、京都大学系EV開発スタートアップのフォロフライ(京都市左京区)が輸入・販売を手がけるEVトラックが国内で初めて、ファブレス生産(海外生産)による宅配用EVのナンバーを取得したことがきっかけとなった。SBSHDの鎌田正彦社長とフォロフライの小間裕康社長に、EV導入の狙いや今後の展開について聞いた。(編集部・清水直樹)

SBSグループにおける脱炭素化策として着目した「全車EV化」

——SBSグループがラストワンマイル輸送車両を全てEV化する狙いは。
鎌田氏 グループの重点課題として掲げる、車両が排出するCO2の削減強化を推進するためだ。政府が宣言した「2050年までのカーボンニュートラル実現」を達成するには、現状のままで排出抑制策を講じても限界がある。それならは、車両を全てEV化すればよいとの結論に至った。

——フォロフライをEVの調達先に選んだ理由は。
鎌田氏 フォロフライの小間社長のEV開発力が魅力だったからだ。小間社長は大学在学中に電機業界向けの人材関連ビジネスを立ち上げた起業家。EVの革新性に着目し「京都電気自動車プロジェクト」に参画して名車「トミーカイラZZ」のEV化を実現するなど、その技術力は知られていた。ある縁で小間社長と知り合う機会を得たことから、ことし3月にSBSグループのEV化構想について初めて相談し、今回の話がまとまった。

乗り心地を確かめる鎌田氏

「ドライバーの負担にならない」EV導入にこだわる

——SBSグループで導入するEVについて、特にこだわった仕様は。

鎌田氏

鎌田氏 既存のガソリン車と変わらない走行性能や運転感覚を求めた。EV化によって、ドライバーに負担をかけてはならないと考えたからだ。航続距離やハンドルなどの操作性など、ストレスにならないようにお願いした。

小間氏 SBSグループでの用途に応じた車種の選定やカスタマイズが必要と考えている。大手自動車メーカーとの交渉など、手続きが必要な部分もあるが、できる限りSBSグループの意向に合致したEVを提供していきたい。

2030年には協力会社を含め1万台をEV化

——今後の導入スケジュールは。

小間氏

小間氏 今回、道路運行における保安基準に適合し、国土交通省からナンバーを取得した1台で年内に性能を試験する。その結果を踏まえて、22年から毎月数百台のペースで納入していく。SBSグループがラストワンマイル輸送に活用しているガソリン車のトラック2000台については、自動車継続検査(車検)の有効期限を迎えた車両から順次EVに切り替え、5年後に全車イムラー・トラックとする考えだ。

鎌田氏 今回のEV化は、8000台のトラックを有する協力会社にも適用する。こちらも全て、30年度をめどにEV化を完了させる。ラストワンマイル用を中心に5000台は1トントラック、残り5000台は1.5トントラックを導入する計画だ。

——フォロフライはどの自動車メーカーからEVを調達する計画か。
小間氏 1トントラック5000台は中国の東風小康汽車製のEVを供給する。残りの5000台については、中国と日本のメーカーから1.5トンEVトラックを調達する。東風小康汽車のEVトラックは、フォロフライが日本の安全基準に基づき設計変更した車両が供給される予定だ。ラストワンマイル仕様として、航続距離300キロメートルを確保できる機能を持つバッテリーを搭載する。これは普通免許で運転が可能な車種としては最大積載量のEVとなる。販売額は1台380万円と、ガソリン車と同水準とした。

今回のEV化は「収益を確保しながら環境対応を推進する」経営姿勢の象徴に

——SBSグループや協力会社でEVを重点的に配備する領域はどこか。

鎌田氏 SBSグループで即日配達事業をメインに取り扱うSBS即配サポート(東京都江東区)に、まずは300台程度配備する。その後、その他のグループ会社にも順次導入する。協力先では、生活協同組合(生協)にも1000台程度、導入する方向で考えている。

——今回のEV導入が経営にもたらすインパクトは。
鎌田氏 SBSグループは総合物流企業であるからには、環境対応と収益確保は両立できなければならないと考えている。つまり、利益をしっかりと出しながら環境負荷低減を追求するのが、社会性の高いインフラである物流を担う企業グループのあるべき姿だ。今回のラストワンマイル輸送における全車EV化は、環境配慮の姿勢を社内外に示すだけではなく、それ自体が収益を生み出すビジネスでなければならない。そのためには、車体価格にもこだわるし、あらゆる導入コストについても厳格に判断することになる。安くEVを導入できる仕組みを構築できれば、なかなか進まないとされるEVトラックの普及率が一気に高まるとみている。これは、カーボンニュートラル実現に向けた機運を高める絶好の機会にもなるはずだ。

▲ エンブレムもSBSグループ仕様に

企業の成長と環境対応は「クルマの両輪」として定着するか

SBSホールディングスが、ラストワンマイル輸送に携わる車両をすべてEV(電気自動車)化する方針を明らかにした。政府が2050年までのカーボンニュートラル実現を宣言するなど、脱炭素経営の機運が高まるこの時期に打ち出した施策は、物流業界にも衝撃を与えそうだ。ただし、SBSグループが描く今回のEV化の本質は、環境対応の推進だけではない。環境を意識した取り組みを収益につなげてグループの成長を図る構図にある。

SBSグループが代理店として他社に販売するほか、月に数百台のペースでまとまった台数を導入することによりコストパフォーマンスを引き出し、費用対効果を最大化することで、コストを大幅に削減して収益の創出につなげるビジネスモデルを描いている。いわば、EV導入により成長原資を生み出す「強みの拡大再生産」というわけだ。

企業にとって、環境投資はコストであるというのが基本的な発想だった。今回のSBSグループのEV化は、その概念を覆して環境はコスト削減にも貢献するという新しい着眼点を示した意味で、画期的な施策といえよう。環境対応が収益を生む取り組みになるならば、これまで必ずしも積極的でなかったEVトラックの導入も、一気に加速する契機となるだろう。業界に投げられた石がどのような波紋を生み出していくのか、注目したい。(編集部・清水直樹)