話題「はこびと」は、LOGISTICS TODAY編集部の記者がいま、大きな変革期を迎えている「ロジスティクス」の可能性に挑む人に出会いにいく新連載です。
ハタチの女子大生で主人公のミナミが、新型コロナウイルス禍でのトイレットペーパー不足をきっかけにロジスティクスに興味を持ち始め、悩みながらも成長していく物語を織り交ぜた物流の”超”入門書「ミライへつなぐロジスティクス ミナミと学ぶ持続可能な世界」が、物流関係者だけでなく幅広い層での話題を呼んでいる。
昨年末に発売。物語では、大学のゼミで物流を専攻するミナミが、好きなお店でバイトしたり、理系女子のルームメイトと二人暮らしたり、ゼミの担当教授に進路の悩みをオンラインで打ち明けたり、就職活動に悩んだり、長距離トラックドライバーのお父さんと進路をめぐってケンカしたりしながらの日常が織り交ぜられている。
持ち前の好奇心旺盛キャラを生かし、自分なりの目指す道に突き進もうとするミナミの姿は、物流関係の本を読んでいることを忘れて、思わず応援したくなる。もちろんミナミと一緒に、来たるべき共創社会のヒントをさぐる旅をすることで、物流・ロジスティクスの現状と、未来に向けた変革の可能性も、手に取るように理解することができる。
記者はさっそく、本書を手がけた秋葉淳一さんのもとへと出かけた。出版にいたった経緯から、秋葉さんが物流企業と二人三脚で課題解決に取り組んだり、大学で物流を専攻する学生と接したりする実体験を踏まえた上でのロジスティクスの一筋縄にはいかなさ、本書を読んでの疑問などをインタビューした。(編集部・今川友美)
秋葉淳一さん(58)。フレームワークス代表取締役社長CEOで物流のコンサルティングを手がける。新卒で大手鉄鋼メーカー系のゼネコンに入社、制御用コンピューター開発と生産管理システムの構築に従事。その後、多くの企業のSCMシステムの構築とそれにともなうビジネスプロセスやリエンジニアリング(BPR)のコンサルティングを担当。現在はフレームワークスをはじめ、大和ハウスグループの複数企業で代表取締役や取締役を務める傍ら、学習院大学や金沢工業大学虎ノ門大学員、流通経済大学で教鞭をとる。「ロジスティクスのイノベーションが持続可能な社会を創る」を信念に、企業や業界の枠組みを越え、標準化やSDGsにつながる「共創」の取り組みを発展させられるよう日々、奔走中。
――物流の入門書ではなく、”超”入門書にした理由は?
これまでに物流業界の人向けの本は出版していて、次に目指す方向や新しい技術、課題を周知して、読んでもらうという意味では、一定の成果が出せていたかとは思う。一方で、専門書的な話はたくさん出てきているのに、業界の中では、人がなかな集まりませんとか、高度物流人材が必要ですといった話が出ていた。物流関連の書籍も「物流」ということを全面に出しているので、物流でなにかを知りたいとか勉強したいというモチベーションの人は、そのキーワードで検索して来ていた。イベントやセミナーも同様で、出展者側も来場者側も、その業界の人が参加するものとなっている。これまでは枠のなかの人たちで完結していたが、いま業界が求めている人は、おそらくそうではない。枠の外の人にも読んでもらえたり、知ってもらえたりする機会や書籍があったかといえば、そうではなかった。
自分でもうまく伝えられない「物流」という仕事
――小説仕立てにしたよくよく考えると自分もそうだが、家族に自分たちの仕事を説明できるかというと、極端に言えば1日かかっても理解してもらえない。たとえば物流という言葉を、それこそ今川さん(記者の名前)が「物流はおもしろそう」といっていまの仕事に飛び込む前、学生だったとき「『物流』と聞いたときになにをイメージしますか?」というと、佐川とかヤマトをイメージしたり、あるいはもしかするとアルバイト先で行った物流センターのしんどい作業を思い浮かべたりとか、あるいは「物流のシステム」と説明されたときに「あれ、ゲームかなにかじゃないの?」という話とかになりがち。いやいやそうじゃないよという話ではあるのだが、家族でも知ってもらうのは難しい。だから、どういうふうに伝えたらいいかといったときに、小説仕立てしかないなと。
学生にも知ってもらう機会を作りたかった。社会に出て仕事をすると、誰しもが少なからず、物流に直接かどうかは別として、間接的にでもかかわる。僕自身大学で講義などをさせてもらっているが、漠然と女子大生のイメージがあって、であれば新型コロナウイルス禍といった、これまでにないような危機がおきたなかで消費者一人ひとりがいろいろな体験したので、そこからスタートしようと思った。2020年のハタチの女子大生の暮らしを少しずつ切り出しながら、物流やロジスティクスにかかわるようなストーリーを盛り込んだ。そのストーリーのあいだあいだで、解説というほど難しい言葉ではなくて、どういう会社がどんなことをしているかという事実を織り交ぜていけば、一気に読んでもらえるのではないかと考えた。
たとえば、弊社の親会社である大和ハウス工業の建築事業本部には、ここ数年間で全国で最も多くの物流施設をはじめとする事業施設を担当しているチームがあり、全国に750人ほどの営業部隊がいるのだが、お客さんと物流の話ができる営業担当が何人いますかというと、おそらく10%はいないのではないかということを一緒に仕事をしていて感覚的にだが感じる。物流はそれくらい、すごくある意味ニッチな領域だが、非常に重要な社会のインフラでもある。だが、そこに携わって仕事をしている人たちはいるわけで、それをそうではない人たちに、どうやって知ってもらうかということだ。だから、普通の本のように何冊売れるかという本ではなくて、まずはその存在を知ってもらうための本にしたいと思った。
モノを届ける価値は変わらない
――主人公ミナミの比較的身近な話で進められていた物語が最後、一気に2050年となり、ミナミが月に旅立ってしまったのには、正直びっくりした専門書ではなく、ストーリー性のある物語にするなかで、終わり方をどうするかも、考えておかなければならなかった。2030年とかそれくらいだと、なんとなくこんなふうじゃないのというのが、みなさんそれぞれ想像されていて、それとのちがいのほうに興味がいってしまう。ほんとにそうなの?と。だけど、「2050年」で「月」と言われたら、みんな自分の頭の中とのギャップは考えないんですよ。フィクションとして楽しめる。いやいやいや、なにいうとんねんという話で終わる。
だけども一方で、実業家の前澤友作さんは宇宙に行きましたと、月には行けてませんが。ほぼ同時期に政府も、2020年代後半には月面に日本人が着陸できるようにするんだという発表をしていて、ではほんとにまったくありえない話をしているかというとそれはそうではない。そもそもそういうふうにしたいとか思わないと物事は動かないけれども、そういうふうに動いていると考えている人も事実だとすると、まったくありえない話ではなくて。仮にそうなったとしても、ものを届けるということはなくならないということにつながるので2050年の月へと一気に飛ばしてしまった。
<中編予告>
最後は月へと旅立って(詳しい話はネタバレになるのでこれ以上はお伝えできませんが)、待っている人がどこかにいる限り、モノを届ける価値は変わらないと気づくミナミですが、そんな思いに到達するまでには、いろいろな苦労がありました。