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物流の“超”入門書を出版、秋葉淳一さん[後編]

異なる立場が新たな価値を作り出す時代へ

2022年2月7日 (月)

話題「はこびと」は、LOGISTICS TODAY編集部の記者がいま、大きな変革期を迎えている「ロジスティクス」の可能性に挑む人に出会いにいく新連載です。

>>【前編】枠の外にこそ、物流危機を切り拓くカギ

>>【中編】限界迎えつつある物流のビジネスモデル

好奇心旺盛なハタチの女子大生・ミナミが、新型コロナウイルス禍でのトイレットペーパー不足をきっかけにロジスティクスに興味を持ち始め、悩みながらも成長していく新感覚・物流ストーリー「ミライへつなぐロジスティクス」。中編では、コストを抑えて利益を確保したい会社側と、しゃかりきにがんばるしかない現場側とが平行線状態となり、お互いがじりじりと疲弊していく、実にしんどい様子をお伝えしましたが、後編では、異なる立場同士での「幸せ」について考えます。

幸せを支える人たちが幸せでなかったら、みんなが不幸になる

「働く人たちも、その先にいるお客さんも、みんなが幸せになれるように……。人と技術をつなげていく仕事なんですよね。どんなによい商品や店舗があっても、物流がしっかしりて、そこにヒトやモノをつなげていかないと、誰のところにも届かないですからね」(本書「『物流』と『ロジスティクス』とはどう違う?より)
――ロジスティクスは物流危機をチャンスに変え、「幸せ」を実現できると思うか

すごく思っている。僕らの手元には、実際的な手元かどうかや近くのスーパーやコンビニかは別にしてモノがあり、また、モノが手に入ることを前提にして暮らしているから、それが手に入ることを幸せだとは思っていない。お金を払ってピッととやれば手に入るのが当たり前だ。だけど手に入らない世界があるとしたら、ほしいものが手に入ること自体が幸せになる。豊かというのはプラスアルファ的な話だが、手に入ること自体が幸せだという世界に自分たちはいるのだということを忘れがちだ。

一方で、その幸せをかなえるために、働いている人たちが幸せではない、しんどいみたいなことがあるのだとしたら、もっとそこはなんとかしないと、多くの人たちの幸せを支えられなくなる。物流に携わっている人たちが幸せでないとしたら、そこに携わる人たちはどんどんいなくなる。そうすると結果としていろんなところで生活する人にものが届かなくなり、その人たちを幸せにすることもできない。どうしても資本主義の国なので、商売が成り立つか成り立たないかという兼ね合いが入ってくる。商売を成り立たせるためには、売上をのばしてコストをかけない。それで、そこの見合いがプラスであればがんばれるが、そうでなければがんばれません、ということになる。売上を出そうと思うと、買ってくれる人たちのことを一生懸命見て、買ってもらうためのことは努力をする。コストサイドはいかにお金をはらわないかということを考えがちだが、それは周りまわってお金を払わないことだとすると、払っていないお金を収入にしてる人たちは不幸になり、回り回ってものを買ってくれる人たちも、幸せにはできないとい。そのようなことをミナミにあのような台詞として語ってもらった。

自身も仕事を通して、物流にかかわる人たちの価値を多くの人に知ってもらい、そこにはきちんと適正なお金が支払われるようにすることと、それをもらう現場の側も、お金も仕事も言われたとおりではなくて、自分たちの価値をきちんと世の中に示すようにしましょうねという話をしている。

お互いの価値を真に認め合うということ

――著書を通じて、いちばん伝えたかったことは?

与える側も受け取る側も、お互いにその価値を認め合うということは、そこに感謝も尊敬もあってこそ価値を認めるというわけだから、与える側もそこにちゃんとお金も払うし、受け取る側ももらったお金以上の価値を出そうといいほうに双方が循環する。お金をかけずになんとかしようではなくて、もらったもの以上の価値を出すようにというサイクルにしていきたい。

もうひとつは、物流にかかわっている以外の人たち、消費者でもあるが、周りにいる人たちに物流、ロジスティクスを知ってもらう、興味や理解をしてもらうという形となり、その結果、自ら物流ということを職業にするのか、あるいはその周辺の人工知能のエンジニアやデータサイエンティスト、ロボットのエンジニアといった、自分たちの技術を使って、物流をもっと効率的にとか、そこで働いている人たちをもっと幸せにできないかということを考えてくれればよりいいなと思う。

ミナミの後ろ姿に想像する未来を重ねてくれたら最高

――最後に、手にとった読者へのメッセージを

読み終わったときに「おもしろかった」と感じてもらうのが一番だ。二番目に、物流やロジスティックって「へー」「そうなんだ」と思ってもらうこと。三番目には、「自分のできることもある気がする」とまで言ってもらえたら、最高だ。最後の自分にもやれることあるかもしれないは、消費者としてかもしれないし、自分が会社に入ってかもしれないし、あるいは自分が持ってる技術でかもしれないし、いろんな意味があると思う。やはり、せっかく小説仕立てにしているので、いちばん最初は「おもしろかった」と言ってほしい。これがビジネス本な、一番に「へー」といってほしいのだが。

実は、今年中に続編も出したいと考えている。いま考えているのは、ミナミを深掘りした内容、もしくはミナミの周辺の登場人物として登場した人物の目線で、物流を見るのもありかなと2パターンを考えている。大学の学生からも、「自分を登場させてください」という話もあり、にぎやかになりそうな予感がする。ちなみにミナミは実在しない架空の人物だが、いろいろな学生や卒業生を見ているので、集合体のようなイメージで描いた。表紙のミナミのイラストも、あえて後ろ姿にすることで、物語のラストを2050年に設定したのと同様に、読み手の想像に委ねられる後ろ姿にした。考えに考えた表紙なので、イラストにもぜひ注目してほしい。