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物流の“超”入門書を出版、秋葉淳一さん[中編]

限界迎えつつある物流のビジネスモデル

2022年2月7日 (月)

話題「はこびと」は、LOGISTICS TODAY編集部の記者がいま、大きな変革期を迎えている「ロジスティクス」の可能性に挑む人に出会いにいく新連載です。

>>【前編】枠の外にこそ、物流危機を切り拓くカギ

>>【後編】異なる立場が新たな価値を作り出す時代へ

好奇心旺盛なハタチの女子大生・ミナミが、新型コロナウイルス禍でのトイレットペーパー不足をきっかけにロジスティクスに興味を持ち始め、悩みながらも成長していく新感覚・物流ストーリー「ミライへつなぐロジスティクス」。前編では、2050年の月へと旅立ち「ロジスティクスの舞台が宇宙に広がったとしても、モノを人に届けることの価値は変わらない」という深い気づきにまでいたったなんとも頼もしいミナミの姿をお伝えしましたが、そこにいたるまでには、長距離トラックドライバーとして働いていたお父さんへ反発や複雑な思い、すったもんだがありました。

人材が必要なのに、人手不足 矛盾する物流現場

「『毎日毎日、とにかく時間に追われながら、頑張って間に合わせるのが当たり前の仕事だ。だから、ミナミにはもっとラクな仕事、自分の生活や人生を楽しむ余裕がある仕事についてほしいんだよ』
『わかる。いや、私にはそのつらさがわからないかもしれないけど、でもわかるつもり』
ミナミも、やや涙声になっていた」
(本書「ミナミ、いよいよ就活に挑む」より)
――長距離トラックドライバーだったミナミのお父さんが、物流業界への就職を目指すミナミのことを心配するやりとりには、ミナミがお父さんを思うやさしさとのすれ違いに、胸が締めつけられた

うそかほんとかは別として、あのシーンを読んで泣いたぜと言っていた読者はたしかにいた。最初にプロローグとかエピローグとか全体構成とかを先にがーっと書いているのだが、ミナミは明るいかんじのストーリーでいきたいなかで、トラックドライバーが不足しているという話を書き進めれば書き進めるほど、すごくしんどい話ですね。さらに、なんで少ないのという解説も、すればするほどしんどい話になる。だからそれをどうやって伝えようかというと、お父さんにああいう登場の仕方をしてもらうことになった。

うるっときてくれたならよりそうなのだが、トラックドライバーが減ってきています、それは給料が安いから、労働時間が長いからです、事故があったときの補償においては、お金は解決できるけど、事故を起こしたということは消えないですということを書いていったとすると、それってしんどい内容なのだけども、なかなか自分に置き換わっていかない、感情が入っていかない。

むずかしい表現ではあるが、読み進めていくなかで、ミナミという女子大生が自分の置き換わったりとか、すごく自分に身近な存在となって読み進んだりしたとすると、そのおやじさんというのは、ある意味、他人ごとではなくて自分ごととして、とらえられるみたいなことですよね。

――自分の見つけた「これだ」という仕事を、いちばん理解してほしい人に理解してもらえずすれ違ってしまうところが、とても歯がゆかった

あれは逆にいうと、いまの業界の状態で、自分の子供も自分と同じ職業に就かせたいですかと質問したとすると、多くの人たちが「いや」という業界なのだと思っている。だから決してあれがフィクションではなくて、そのような傾向があるという事実だ。そのこと自体が、物流現場で働く人が足りないよね、高度物流人材が欲しいよね、と言っていることと、とても矛盾している。

――お父さんとミナミとの、物流へのイメージにおける分断は、現在の物流業界の構造的問題にも通じるところがあるのか

そうだ。物流業界の人たちは、自営でやってる方たちは継がせるという意味ではあるかもしれないが、そうではない人のほうが多いというのも事実だ。いま日本全国で運送会社は6万3000社ほどあるが、事業を継承する人間がいないという話もけっこう出てきている。それは現時点でいい仕事、いい会社であるかということとは別に、子供に継がせたあとの20年、30年、40年先に、この業界を不安視していることの表れなのではないかと思っている。

子供だけでなくても親戚などにも継がせて30年後、40年後も華々しくやれてるぜということなら自分の会社継げよっていいますよね。だけど、継承する人がいないというのは、いまの経営者も不安視していることだから、繰り返しになるが、人が足りないとか高度物流人材が欲しいと言っていることとまったく矛盾している。でもそこをどうやって変えていくのという話が、その裏っ側にはある。

自動化と省人化は実現するのか、物流DXがもたらすもの

「いままでうまくいってたのに、なんでわざわざやり方を変えようとするんだ!?」
「自動化や省人化で、コストも削減できて、作業効率も上がる。会社としては万々歳かもしれない。だけどね、あなたがパソコンの画面で動かしている数字の向こうに、生身の人間がいることを忘れないでくれ。省人化されて、いらなくなった人はどうすればいいんだい?」
(本書「ミナミ、仕事の厳しさを知る」より)
――WMS(倉庫管理システム)の導入をめぐる担当者との生々しいやりとりも、ストーリー仕立てで読むことで印象に残った

僕自身も体験している、全然普通にあるやりとりだ。省人化という言葉を使うと、人を減らすというふうにとらえられるケースがある。だけどもそれってゼロか1かで考えている人からすると、そうという話。だけど「人がやるべきこと」「人しかできないこと」という話と、「機械やロボットでやってもいいこと」という話を整理する必要がある。ゼロか1かという考えは、例えば100人が仕事をする物流センターがある場合、それを一人の人間がやってしまうような自動化センターを作りますといったように、すべての物流にかかわるところが完全自動化されるということはほぼない。また、労働者の年齢が毎年1歳ずつ上がり、残業の管理も規制強化されるなかで、人を減らすという考え方よりも、一人の人間での生産性を、どこまで高められますかという捉え方をしなければならない。

なので、省人化というのは、同じ量をより少ない人でやれるようにしましょうという捉え方もわかるけれども、同じ人でもっとたくさんの量をこなせるようにしましょうということでもいいわけですよね。たとえば10人の人がかかわって、毎日1000個の段ボールを出荷している物流センターがあったときに、同じ10人で1200個の段ボールを出荷できるようにしましょうとすると、一人あたりの生産性は20%上がる。そうすることで、仮に子供の体調不良などで早退者が2人出たとしても仕事ができる。

だが、いまそれができてないかというと、やってる。それは残ったほかの人たちが、多くの仕事をするからだ。より長い時間働くか、いつもよりも休憩時間を減らしてやっているから、それをこなせてるのであって。それは、いま業界にいてくれる人を大事にしている仕事の仕方ですかというとそうではなくて、現場でなんとかしてくれてるからできてますという状況だ。そこを変えていかなければならない。

コストを下げたい企業側と「やります」しか言えない現場

――会社側と労働者側とでの認識が大きくすれちがってしまうのはなぜか

すごく根深いところがあって、たとえば私たちがネットで1万円の服を買うときに、あるサイトは「送料無料」、別のサイトは「送料250円」と書いてあったとする。迷わず送料ゼロを選ぼうとするのではないか。ということは、250円の送料を、価値ではなくてコストだ思っている。個人であってそうだということは、企業であっても物流にかかわるお金というのは、コストだと思っているので、少しでも下げたいということを企業や経営側は思っている。

一方で、現場は毎日大変で、どちらかというと人を減らすのではなく増やしてほしいし、もっと働きやすい環境を作ってほしいと思っている。これがいままでだと対立構造になりがちだった。経営も人を減らしたいと言っているわけではない。コストを下げたいというか、適正なコスト、生産性が上がってその費用が下がるんだったらより下げたいと言ってる。現場も人を増やしたいというよりは、働きやすい現場にしてほしいということを言っている。じゃあそれってどんなやり方をするかということについて、これまで議論されてこなかった。

なぜなら、これまでは人海戦術でやるという方法しかなかったからだ。人が増えればコスト、人件費が増えてしまうので、現場からすると人は増やしたいけれど、経営側はコストをかけずにやるんならいいよという話にしかならなかった。人を増やすか、一人あたりが、しゃかりきに仕事をするかという選択肢しかなかった。だから、本当につきつめれば、やれることはある。なぜなら人が足りないので。これからもっともっと、足りなくなりますよ。

――それらを理屈では分かっているけれど、業界の構造としての難しさがあるということか

たとえば、Z食品が物流業務をA物流に委託するときに、A物流にたいしての支払いは少なくしたいですよね。だけど、それ以前の話として、適正な物流の費用を、分かっていますかという話だ。そこが抜けている。なかなか難しい話なのだが。

「荷主企業からの『消費者サービスを落としたくない。他社と差別化したい』という要望に、物流側が『やります、できます』と答えているうちに、どんどん自分で自分の首を絞めてしまっている。これが現在の物流業界の現状なのです」(本書「ミナミ、置き配トラブルをきっかけに物流の現実を知る」より)

Z食品が去年まで1万円の食品を送るのに、100円の原価で客から250円の送料をもらっていた。でもなぜかわからないないけど、A物流は「いやいや、人件費も上がってきたし、燃料代も上がってきたし、人の確保も足りないので150円にしてくださいと言われたときに、Z食品は「なんでそんな150円になるんだ」いうことしかおそらく言わない。100円でやる方法を考えないのならば、A物流ではなくて別の会社に頼みますということになる。

だがそれは、Z食品が間違えているのではない。経営サイドからするとなるべくそこのコストは抑えて、自分のところの利益を確保して、社員やお客さんに還元したいというごくごく当たり前の話だ。そのときに、100円でやる会社が存在しなければいいいのだが、やりますという会社が登場する。これが自分たちの首を自分たちで絞めているという物流業界の現状だ。

なぜ「100円」ではなく「150円」かを示せるかどうか

――とはいえ、経営側としては、どんなものに価値を払っているのかということぐらいは知っておきたいとは思わないのか

でもそれは「物流費」とくくったものに対しては思えるが、それの内訳まではいかないだろう。150円という値段が高いか低いかということしかわからない。なぜ150円だとはならず、なにが適正か知らないのが大半だ。ずっと世の中のコストだと思われてきたのが物流なので。それが売上を作るインフラだとか、それが強くないと売上をのばせないし、本当の意味で利益を確保できると思っている人たちは少ない。そのことに日本のなかで比較的早く気づいたニトリやユニクロ、ヨドバシ、最近はビッグカメラなど出てきているが、そういう話をしても「でもそれって、規模があるからでしょ」と思う人たちは多い。

――「規模があるからでしょ」という大多数の人たちに、物流がコストとしてではなくて、戦略として大事だということを理解してもらうには、どうしたらいいのか

すごく難しい。その答えがそこでサクッと出てきたら、それだけで商売ができてしまうくらいだが。物流の実際のオペレーションを担う人たちが、自分たちの仕事の意味を理解して、きちんとデータをとって、きちんと説明できるようになることだ。「自分のやっている仕事を家族や友人に理解してもらうのが難しい」というのは裏返しで、きちんとそれを示せてる人たちも少ないんだろうと思っている。

どちらかというと物流は「受け身」だ。この荷物をいつまでにどこどこに届けるとか、今日何時までにトラックに積み込んでくれという依頼があって、初めて仕事が発生する。自ら仕事を作れないともいえる。一つの会社のなかでも、たとえば製造部門、営業部門のような形での物流部門があったとしても、物流部門は自分たちで商品を持っているわけではない。それは、製造部か営業部から、この商品をどうしてくれと言われて初めて自分たちの仕事ができる。社内であろうが、外部の物流会社であろうが、その構図は一緒。依頼をされてからがスタート。そうすると、「言われたことをやったらいくらです」と言ってればいい人たちが、ことこまかに「ここの業務プロセスで、このくらいの時間がかかっていて、それをコストにするといくらです。こういう仕事をしろと言われると、そこの仕事の時間がこれだけのびるので、ここのコストはいくらです」ということを一つ一つデータをとって、コスト体系について整備をして、依頼者に都度都度しっかり説明できてますかというとそうではない。なぜなら、言われてることを断ったら仕事がなくなってしまうのだから。

――それは誰がやるのか

本来は、物流を担っている部門や物流会社といった受託側が、きちんと把握しなければいけない。数字として依頼者側に見せなければいけない。なぜ100円ではなくて、150円と言ったかということを、見せられるだろうかということが重要だ。漠然と150円をくださいということではなくて。現在の大手でも、中身を知らない物流担当者は少なくない。「これから人がどんどん減っていき、一人あたりの生産性を上げたいのだが、どういうことやったらいいですか」と相談された際に、このようなことを提案すると、データを取っていないケースは少なくない。それでは経営者が、取締役会でこういうことのためにこういう投資をしたいですと説明できない。

<後編予告>

コストをかけずに利益を確保したい経営者側と、人を増やしてはもらえないのでしゃかりきになって働くしかない労働者側とがずっと平行線で、じりじりと自分たちの首を絞めていっている状況をお伝えしてきました。想像するだけでしんどくなってしまった方も、いらっしゃるかもしれません。そうした異なる立場の方々の「幸せ」ってなんなんでしょうかね。

>>【後編】異なる立場が新たな価値を作り出す時代へ