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東急不「LOGI’Q」の価値追求、環境・人材の課題解決へ

2022年3月1日 (火)

話題全国で2020年の年明けから猛威を振るっている新型コロナウイルス感染症は、国民の消費スタイルにこれまでにない変革をもたらした。2010年代に普及し始めたEC(電子商取引)サービスによる購買行動は、コロナ禍による外出自粛やテレワーク推進を契機として急速に定着。自宅にいながら生活必需品から趣味のアイテムまで、インターネットで購入できる宅配サービスは、コロナ禍の産物である「新しい生活様式」の象徴といえる。その新たなスタイルを支えるのが、商品を届けるサプライチェーンの要を成す「物流倉庫」だ。

大都市圏を中心に建設が急加速している物流倉庫。23年から24年にかけて完成する物件の着工が相次いでいる。こうした動きが最も活発なエリアの一つが、首都圏中央連絡自動車道(圏央道)の沿線をはじめとする東京近郊の内陸部だ。とはいえ、林立する物流倉庫のなかで開発事業者が差別化を図るポイントと言えば、せいぜい立地か賃料、面積といった要素のほかに見つけにくいのも実情だ。

そんな難しい競争環境にある物流施設開発において、こうしたハード面ではない部分で差別化を図ろうとしているのが、東急不動産(東京都渋谷区)だ。電鉄系の総合不動産開発企業として突出した存在感を示す同社は、新たな成長領域として物流に着目し、「LOGI’Q」(ロジック)のブランドで物流倉庫の開発を加速している。幅広い事業ウイングを持つ東急グループの一員として、独自で多様なサービスを導入し、テナント企業や荷主企業への訴求を高める戦略は、業界内でも異彩を放つ。

勝負ポイントは「ソフト面」の強み

「ハード面で差をつけにくい賃貸物流倉庫で明確な差別化を図るには、ソフト面で勝負するしかありません」。こう強調するのは、東急不動産・ロジスティクス事業部統括部長の佐藤公俊氏だ。これからの時代にテナント企業に訴求するソフト面のサービスについて、頭をひねり続けた結論が「環境」と「人材」というキーワードだった。

▲東急不動産・ロジスティクス事業部統括部長の佐藤公俊氏

高速道路インターチェンジからの距離やトラックバースの数、天井高、耐荷重など、どうしても機能面が優先されがちな物流倉庫。もちろん、こうした条件で優位性を示すのは当然として、プラスアルファの強みがあれば、テナント企業にインパクトを与えられる。そこが勝負のポイントだ。

東急不動産は、ビルや住宅、リゾートなど多様なポートフォリオを抱える総合不動産企業だ。グループの手がける広範なビジネスを活用すれば、ライバルを圧倒できるソフト面でのサービスを実現できないか。その帰結がこの二つのキーワードだった。

23年以降完成の倉庫から順次導入、「再エネ100%」電力提供サービス

▲再生可能エネルギー事業「ReENE」の一例(リエネ長南太陽光発電所)

床面積が大きく平べったい物流施設の屋上に敷き詰められた、太陽光発電システム。東急不動産は、そこで生み出された「生グリーン電力」と、同社の再生可能エネルギー事業「ReENE」(リエネ)が生み出す電力を組み合わせ、再生可能エネルギー100%の「ReENEグリーンエネルギー」として物流施設内のテナント専有部や共用部に供給する取り組みを始めた。

23年以降に完成する物件を手始めに、将来的には中規模以上の新規開発倉庫のほぼ全て(共同事業を除く)に導入する計画だ。

「当社の物流施設ブランド『LOGI’Q』(ロジック)シリーズでは、今後、物流施設の屋上にオンサイトPPA契約の太陽光発電設備を順次設置していきます」(佐藤氏)。

東急不動産は、物流施設の屋上に設置した太陽光パネルで生み出される「生グリーン電力」を、物流施設内で活用する取り組みを積極的に展開。屋上発電で補いきれない分は、大規模な再エネ発電所由来の電力で補うことで、再エネ100%電力で稼働する物流施設を実現するのだ。

「再エネ100%」の物流施設が提供する3つの価値

では、再エネ100%電力の物流施設を使用するテナント企業や荷主企業は、どういったメリットを得られるのか。東急不動産は、3つの取り組みを行う計画だ。

(1)トラッキング付非化石証書の活用

一つ目は「トラッキング付非化石証書」の活用だ。東急不動産は、再生可能エネルギー事業「ReENE」の発電所が生み出した電力をトラッキング(追跡)することで、電気の産地を明確化。

「どこの、どんな発電所で発電された電気なのか」という情報が紐付けられた「非化石価値」の提供が可能となった。

(2)再エネ100%電力の「価値」をテナント・荷主企業に譲渡

▲再生可能エネルギー事業「ReENE」の一例(リエネ銭函風力発電所)

二つ目は、再エネ100%電力の「価値」をテナント企業や荷主企業に譲渡する取り組みだ。テナント企業は、RE100の達成に向けて、拠点の電力を再エネ100%電力として申請できるほか、希望する企業は東急不動産オリジナルの証明書を受け取ることができる。

さらに、テナント企業である物流会社から荷主企業などに一部区画を転貸している場合には、拠点で使用している再エネ100%電力の「価値」を荷主企業に譲渡・提供することも可能だ。環境経営に積極的な荷主企業は、「RE100」の達成に向け、当該拠点の電力を再エネ100%電力として申請できるようになる。こうした荷主企業から業務を受託する物流会社にとっても、他社と差別化を図る要素となるだろう。

(3)再エネ100%の共用部

三つ目は、設備面の取り組みだ。東急不動産は、倉庫内の休憩室やラウンジなどの共用部分で再エネ100%電力のみを使用するほか、太陽光発電の電力を一部充電する蓄電池を設置し、非常時に地域住民へ解放する。さらに、物流車両のEV(電気自動車)化をにらみ、共用設備として急速充電設備を導入する計画だ。

東急不動産がこうした取り組みを推進する狙いは何か。佐藤氏は「東急不動産グループの『自然環境との融和をめざした経営を行う』との環境理念に沿った発想、それが今回のLOGI’Qにおける再生可能エネルギー100%電力化であるわけです」と、グループの理念に即した取り組みであると強調する。

テナントの悩みの種「人材」に着目

「いい人材に来てもらえるか、それは物流倉庫を選ぶ重要なポイントだ。それがなかなか難しい」。あるメーカーの倉庫担当者がこぼすのにはわけがある。物流現場の仕事は、先進的なマテリアルハンドリング機器や各種ロボットの導入などで効率化が進みつつあるとはいえ、依然として「キツい」職場の代表格と位置付けられているようだ。それだけに、せっかくスペックの高い倉庫が見つかっても、従業員を集められないようでは、そもそも仕事が回らない。

東急不動産は、入居企業のこうした人材確保を支援するサービスを発案。物流倉庫の開発事業者としては異例となる、人材確保支援サービスを、LOGI’Qなど物流施設のテナント企業向けにことし1月31日にスタートする。物流業界における労働力不足の解決に向けて一役買おうというわけだ。

▲3つのサービスを柱とした支援でテナント企業の人材確保に寄与する

「東急不動産は、物流倉庫の開発において、労働環境の改善や省人化につながる就労環境の整備や、採用面で優位な立地での物件の供給を開発のコンセプトとしながら、物流業界が抱える労働力不足の課題に対応してきました」(佐藤氏)。物流業界向けの人材確保支援サービスをテナント企業に提供することで、東急不動産グループのリソースを活用した差別化を推進する起爆剤とする狙いだ。

三つのサービスで人材確保を支援

人材確保支援サービスは、「社員・パート採用支援」「運営委託先・派遣元紹介」「福利厚生」の三つのサービスで構成する。東急不動産は、2023年秋頃に完成予定の「LOGI’Q柏」(仮称、千葉県柏市)をはじめとする新規開発物件だけでなく、既存の倉庫テナント向けにもサービスを提供する計画だ。

▲LOGI’Q柏の完成イメージ

具体的には、東急グループで25万人以上の学生にリーチできる学生情報センター(京都市下京区)による、テナント企業と学生の出会いの場の創出や、大手求人検索エンジンへの掲載、求人に関するアドバイスのほか、その他グループ企業や提携企業による物流業界のイメージ改善につながる情報発信、1日単位での単発アルバイトマッチングなどに取り組む。採用後は東急不動産グループの福利厚生サービスを提供し、就労者の定着を支援する。テナント企業が直接雇用を希望しない場合は、物流現場経験が豊富な庫内運営委託先や派遣元の紹介も行う。

▲人材採用支援策の一例。企業と学生とのミーティング・ディスカッションの場を提供し、学生に企業認知や理解を促す

「物流現場を担える人材の発掘と確保、さらに福利厚生による良好な就労環境の維持。全てがそろうことで、初めてテナントの人材ニーズに適した人材の確保につなげられると考えています」。佐藤氏は、こうしたソフト面の支援こそが、人材の発掘や従業員の定着に直結すると確信している。

荷主企業に利点を提示できる競争関係を創出

物流倉庫が立地や賃料ではなくソフト面でのサービスで「差別化」を図る時代が、現実に到来しようとしている。東急不動産がこうしたソフト面に活路を見出そうとしている背景には、物流施設開発で先行するライバルに対して、テナント企業が入居のメリットを感じられるサービスを明確に提示することこそが、競り合うことのできる条件であると考えるからだ。

(イメージ)

その意味で、東急不動産はグループの多彩なサービスリソースを活用できる利点を最大限に生かすことができる。その結果が、LOGI’Qシリーズで提供する、再エネ100%電力サービスと人材確保支援サービスであると言えるだろう。ここでキーワードに挙げた環境と人材は、将来の物流業界が抱える課題そのものであり、新しい生活様式をサプライチェーンの観点から支えるためにも、どうしても乗り越えなければならない壁だ。

東急不動産がテナント企業に訴求するこうした新サービスは、物流業界における「価値」の提供にかかる概念を大きく変える可能性を秘めている。来るべきポストコロナの新時代を見据えた新発想の倉庫が、物流という仕事そのもののあり方をも変貌させる。そんな取り組みが始まろうとしている。

東急不動産の物流事業「LOGI'Q」の専用ページ
東急不動産の再生可能エネルギー事業「ReENE」の専用ページ