
▲パネルディスカッションの様子
イベント5日、福岡県トラック総合会館(福岡市東区)で、LOGISTICS TODAY主催の運送業・ドライバーを支援するイベント第4回「運びとキャラバン」が開催された。
パネルディスカッションのテーマは、6月に成立した「貨物自動車運送事業法の一部を改正する法律」と「貨物自動車運送事業の適正化のための体制の整備等の推進に関する法律」、いわゆる「トラック新法」。福岡運輸ホールディングス社長の富永泰輔氏、NBSロジソル社長の河野逸郎氏、トラボックス会長の吉岡泰一郎氏らが登壇。またモデレーターとして本誌編集長の赤澤裕介、編集委員の刈屋大輔編集委員も登壇した。
▲(左から)トラボックス会長の吉岡泰一郎氏、LOGISTICS TODAYの赤澤裕介編集長
セッション冒頭では刈屋編集委員が、トラック新法の5本柱を解説。具体的には、トラック運送事業の許可更新制(5年ごと)、運送委託の重層構造の制限(2次請けまで、適正原価を下回る運賃・料金の継続的な契約の制限、無許可事業者(白トラ)への委託禁止の強化、労働者の適正な処遇の確保(賃金引き上げなど)──の5点。さらに、独立行政法人の新設や「物流政策推進会議」の設置も盛り込まれている。

▲LOGISTICS TODAYの刈屋大輔編集委員
刈屋編集委員は「本質となるのはトラックドライバーの待遇改善と労働時間の短縮」であり、「その実現には多重下請け構造の是正と適正な運賃の収受が鍵」と指摘した。
同法の目的は、ドライバーの待遇改善にある。長時間労働の是正に加え、適正な収入を得られる構造の確立を目指しており、特に「多重下請けの抑制」と「元請けによる適正な運賃確保」の2点が柱となる。
注目されているのが、実質的な運賃規制としての「適正原価制度」。刈屋編集委員は、1990年代に導入された認可運賃制度が機能しなかったことを踏まえ、「事業者数の適正化や業界集約とセットで実効性を担保すべき」とした。
制度の開始時期は「3年以内」とされているが、赤澤編集長は全日本トラック協会の寺岡洋一会長が「2027年4月の施行を目指す」と語ったことを紹介。同氏は「標準的運賃の95%」を最低水準とする考えも示しており、仮に実現すれば「東京-大阪間の大型車(10トン)の運賃が現行の8万円から14万5000円に引き上がる可能性がある」との試算も示された。
福岡運輸HDの富永氏は、「運送業と一口に言っても事業領域や慣習が異なる。建材と食品では構造も実態も異なるため、横並びの規制設計には慎重であるべき」と強調。また、「待遇改善が本質であるなら、最低賃金制度の整備でも一定の効果はある」とし、「立場の異なる事業者間での理解と意見のすり合わせこそ重要」と述べた。

▲福岡運輸ホールディングス・富永泰輔社長
NBSロジソルの河野社長は、「適正な運賃の収受や値上げは必要」としつつ、「競争による不当な運賃低下の要因を見極める必要がある」と指摘。「単に制度を導入するだけでは、ゆがみが他領域に転化する恐れがある」と述べた。
河野氏は「事業が自由競争である以上、値下げする業者がいるのは当然。でも、なぜ極めて低価格で受託する業者がいるのかも問題だ」と指摘。トラボックスの吉岡会長からも、「ユーザーから、社会保険料を支払っていない業者に利用させるのはどうなのか、といった問い合わせを受けることが今でもある」の声があった。

▲NBSロジソル・河野逸郎社長
来場していた、荷主の事情にも詳しい物流コンサルタントの武田優人氏(TAKEz代表)に赤澤編集長が発言を促すと、「同じ運輸業界のタクシー業界では最低運賃が定められているが、ただ運ぶだけではなく、荷物によって機材や技術、スキルなどが異なる物流業界が同じようにするのはどうなのか。また、現在でも努力で利益を上げている企業もあるなかで、一律に運賃を上げてしまうと、そうした業者に失礼ではないのか。一律で運賃を上げるよりは、それぞれの裁量で利益を伸ばしていける余地があってもいいのではないだろうか」との見解を示した。

▲TAKEz代表・武田優人氏
多重下請け構造について富永氏からは、「元請けとして荷物を預かり、地方への輸送などをしていると下請けに委託することはどうしても必要。元請けには輸送業務の管理の責務があり、全国への実運送まで担うことはできない以上、ある程度の下請け構造は不可欠」とし、「必要な下請けもある一方、あり得ないほどの安い金額で受け、ドライバーに十分な報酬が支払われていない業者の存在が問題」との現場の声が上がった。河野氏からも、「なぜ運賃が過度に安くなるのかという構造的要因を見ないまま規制しても意味がない。単なる多重構造の解消だけでは問題の解決にならないだろう」との意見が出た。

▲高光産業システム営業部・川上真生氏
こうした新制度についての現場の声を交えた議論に先んじ、第1部では物流関連のデジタルソリューション開発の高光産業の川上真生氏から、運送業の現場でのAI活用の手法が紹介された。ChatGPTのような対話型のAIのほか、Dufyを活用した複雑な業務をこなす方法など、実務に直結する手段が示された。
閉会後に会場で名刺交換が行われたあとは、会場を移して懇親会を開催。異なる荷物を扱う運送業者同士のほか、物流関連の各種サービスを提供する企業担当者などを交えた情報交換が行われた。
<次回開催情報>
LOGISTICS TODAYpresents「運びと地位向上全国キャラバン2025」in 金沢
〜背水の運送業、活路を見出す勉強会〜
第5回「運送現場はどう変わる?──「更新制」「多重下請け構造」から読み解くトラック新法の本質」
開催日時:2025年8月21日(木)14時30分開始(14時開場)
開催形式:ハイブリッド開催(会場+オンライン)
申込期限:2025年8月20日(水)15時
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