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「危険物倉庫緊急サミット」迫真レポート/第3回

2022年5月27日 (金)

話題LOGISTICS TODAY(東京都新宿区)が5月19日開催したオンラインセミナー「危険物倉庫緊急サミット」の迫真レポート。第3回は、パネルディスカッションで危険物倉庫が不足する原因に迫ります。


<LOGISTICS TODAY赤澤裕介編集長>
現在、危険物倉庫の需要が非常に高い状況にあり、それから今後も加速度的にこういった状況が拡大・継続する見通しが立っていることが、これまでのお話から明らかになりました。

そうだとすると、先程の日立物流ファインネクスト様のお話にもありましたが、あまりに急激な需要の高まりによって危険物倉庫の保管スペースがすでに不足しているかもしれない、もしくは今後不足してくるのかもしれないといったことが当然考えられるわけです。

このあと、危険物倉庫が不足していくとすれば、原因について何が理由で不足しているのか。皆さんにお尋ねしていきたいと思います。

お尋ねするにあたり、実は5名の方にフリップを用意しています。なぜ危険物倉庫が不足していくと考えられるのか、その原因を一言お書きいただければと思っております。

いろんな理由が考えられるかと思います。新型コロナウイルスの発生や感染拡大。これは間違いなくひとつのファクターになっていると思います。また、物流業界の中ではEC(電子商取引)やネット通販の拡大も間接的に関係していると考えられます。さらにコンプライアンスの意識の変化もありえるでしょう。

みなさんお書きいただけましたでしょうか。では一斉にフリップをお出しいただければと思います。

いくつかに分類されますね。篠塚さんと佐藤さんが、ニーズやコンプライアンスの回答です。

まず篠塚さんにうかがいます。「新しいニーズ、業界商品」とのことですが、どういったことでしょうか。

「新たな事業者」「新たな危険品」の出現が倉庫不足の原因に

<日立物流ファインネクストの篠塚武人・営業企画本部営業開発部長>
既存の工業製品や化学品の荷物に加えて、新たな業界がコンプライアンス意識の高まりとともに、危険物管理品を取り扱い始めました。

この5年間で、今までになかった商品を取り扱う業界のお客様が増えています。まずは医薬品や化粧品。消毒液は一昨年に急増しました。あとはリチウム関係ですね。こういったことが倉庫不足の原因だと考えております。

<赤澤氏>
従来はなかったニーズが出現しているということですね。消毒液もご紹介いただきました。プロロジスの佐藤さんは、「新たな危険品の出現」を掲げています。これはどういうことでしょうか。

<プロロジスエグゼクティブ・ディレクターの佐藤英征営業部長>
以前は危険品と言えば、臨海部にある重化学工業系のものが多かったと思います。最近ではコンプライアンス意識の高まりから、ヘアスプレーや化粧品までも危険物に該当するようになっています。

危険品と一般品を区分けする根拠を示す必要がある

<赤澤氏>
鍋島さんは「顧客のニーズの拡大」と書いていただきました。

<日立物流の鍋島敦・営業開発本部サプライチェーン・ソリューション1部部長>
やはり保管型で今まで危険品をクローズしていたと思いますが、危険品を取り扱う業界が広がってきたことにより、「こういったことをやってほしい」「こういった流通確保もしてほしい」といった、いわゆる「一般3PL」というような、我々の物流倉庫でやっているような案件を同じように危険品のところでもできないかというニーズが増えてくると思います。

必然的に、危険品倉庫の制約が出てくるので、すべてをそこで賄うことはできない。そうすると、いろんなところで分散してやらざるを得ない。一種の悪循環が出てきていると思います。

ですので、我々物流業界としては、お客様が一般製品と危険品をなぜここまで分けないといけないのかという、そもそもの疑問点をどうやって打破するかを考えていかないといけない。土地の問題にしても、規制の問題にしても、全部がつながってくると思います。そういったものの一番の原因は、お客様のニーズが非常に多様になってきていることかと思います。

<赤澤氏>
ニーズの拡大について、規制についても触れておられました。規制がニーズに追いつかない面も、要因としてあるということですか。

<鍋島氏>
そうですね。地域的なものというか、いわゆる危険品倉庫が少し建設できているエリアもあれば、どうしても地域によっては不足しているところもあります。製造している拠点によって、物流の危険品のエリアがかなりアンバランスになっていることもあります。そういったところは、今日ご出席されている物流施設のみなさんも同じ考えなのではないかと思います。

<赤澤氏>
ご視聴いただいている皆さん、いかがでしょうか。日立物流さんはそのようにお考えです。

今度はプロロジスの小出さんですが、「総量規制のハードル」と指摘いただきました。これはどういうことでしょう。

危険物倉庫ビジネス参入における留意点「総量規制のハードル」

<プロロジスエグゼクティブ・ディレクターの小出敦子コンストラクション・マネジメント部長>
物流施設を開発する立場では、非常に大きなハードルとなっているのが、「総量規制のハードル」です。

立地の用途や地区計画など、敷地に応じて総量規制が危険品に対して決まっています。お客様から、危険品を置きたいという問い合わせを非常に多く受けているなかで、まずは総量規制を考慮しないといけないところがございます。

総量規制は通常、1つの敷地に対してかかります。我々のように、非常に大きな土地に対して大規模開発を行う場合であっても、例えば500坪の敷地であっても200坪の施設であっても、同じように総量規制がかかってきます。これだけ大きな敷地であっても、お客様の要望に応えられないことがございます。

そのあたりについてもどかしさを感じることがございますし、危険物倉庫の開発においては立地が非常に大きな鍵になってきていると感じております。

<赤澤氏>
立地が鍵ということですね。最後に、三和建設の松本さんは「コストパフォーマンス」を挙げています。どういうことでしょう。

「法規制の遵守と高コスト、それでも需要は拡大傾向」、その落としどころは

<三和建設の松本孝文・大阪本店次長兼設計グループグループリーダー兼リソウコブランドマネジャー>
先程、アンケートで儲かる・儲からないというお話がありましたが、小出さんの総量規制のお話にもあったように、建築的にはまず「都市計画法」で用途地域が住居系、商業系、工業系で分かれてきます。

無制限で保管倉庫を建てられる地域がその中で2つしかありません。具体的には工業地域と工業専用地域。そういった地域でまず限定されて、土地が制限されます。

また、消防の規制で建物の規模の制限があります。面積がまず一般的には1000平方メートル以下。軒の高さも6メートル以下。それから平屋でないとだめ。それだけならまだよいですが、保有空地も確保しないといけないので、例えば最大1000平方メートルの危険物倉庫を建てる敷地を用意しようと思うと、その保有空地だけでなく緑地があったり、駐車場が必要だったりして、危険物倉庫を1棟建てるだけでも、1000平方メートルだと3倍の3000平方メートルほどの土地が必要になってくるわけです。

用地の選定や取得にもお金がかかりますし、ドライの一般倉庫を運営している方からすれば、危険品倉庫を見積もりしてといわれることがありますが、皆さんの感覚の倍くらいにはなってしまいます。安全第一ですから、消防法にならってきちんと必要な消火設備が必要だとか、防爆仕様の照明が必要になるとか。倉庫内のコンセントも値段が普通のコンセントと違う防爆仕様が必要であるとか。

先ほどの例で言うならば、1000平方メートルの倉庫に対して3000平方メートルくらいの敷地が必要ということは、2000平方メートルくらいの外構コストもかかってくることになります。一般的には10メートルの保有空地をぐるっと建物の周りに使うと、そこに重量車両をワンウェイで通したいと思えばそういう計画になります。重量車両対応の舗装は、一般の舗装よりもコストがかかります。

こうした観点を踏まえると、普通のドライ倉庫と比べて、危険物倉庫はコストパフォーマンスの意味でややハードルが出てくるのかなと思います。いろんな見積もりに対応させていただいていたりすると、なかなか経験がない会社の場合は「そんなにかかるんだ」と言われることもあります。

<赤澤氏>
一般の倉庫と比べると、投資額は膨らまざるを得ない。さらに皆様にご紹介いただいたように、さまざまな規制もある。一見すると複雑そうに見えるわけですが、そういったなかで需要の拡大を感じているのも事実です。そのあたりでコストパフォーマンスはどうバランスを取っていくか。その方法はあるんですよね?

<佐藤氏>
はい。

<赤澤氏>
なければやってらっしゃらないですしね。

<佐藤氏>
そうですね。

<赤澤氏>
建物を建てる立場では、プロロジスさんも同じとは思いますが、小出さん、いかがですか。

<小出氏>
やはり松本様がおっしゃったように、建設コストとそれに対する必要な土地が普通の一般倉庫とはまったく違った考え方になりますので、そこを計画の段階で、お互いに開発社・建設会社や使われる物流会社さんが同じような合意の元、計画していかないといけないと思います。総量規制もあるので、「思ったよりも置けないんだな」ということになりかねません。

早い段階である程度まとまりを持って、コストも「意外に建設費はかかるんだな」というところは、一般倉庫と違う認識の上で進めてもらうとスムーズになるのかなと思います。ただ、経験がない方にとっては「こんなに?」「こんなに協議が大変なの?」というところで、非常にハードルが高く見えてしまいます。

しかし、我々は経験してきているので、この部分は関係する会社で協議を重ねていけば、そのわだかまりも解けて、どんどん開発が進んでいくのではないかと思っております。

<赤澤氏>
複雑怪奇ではあるけれども、この解法をここに座られている皆さんはお持ちである、ということが分かってきました。


第4回は、危険物倉庫が足りない現状に対する方策について考えます。

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