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シーオス松島聡代表取締役社長に聞く

地方における物流拠点網構築の鍵は「荷主の共同化」

2022年7月28日 (木)

話題首都圏や関西圏といった大都市圏を中心に進んできた物流拠点の開発プロジェクト。今後は地方の主要都市にもこうした動きが本格的に波及していくだろう。EC(電子商取引)サービスの普及は、物流拠点ネットワークの発想そのものを変えようとしている。とはいえ、大都市圏とは異なる地方特有の事情も考慮した物流拠点開発が求められるのは言うまでもない。地方における物流拠点網の構築はどうあるべきなのか。物流拠点開発で数多くのソリューションを手がけてきたシーオス(東京都渋谷区)の松島聡社長に聞いた。

日本ならではの「臨界点を超えると急速に拡大する」特徴

――国内では現在、円安や少子高齢化、物流産業への働き手不足など、数多くの問題がある。一方、海外では倉庫従事者の時給が1万円近くになるなど、日本だけ置いていかれる状況も懸念される。国内の物流を対象にした時、自社のサービスをどのように考えているか。

▲シーオスの松島聡社長

松島 変わることに時間はかかるが、物流の市場は莫大であることから好機はあると考えている。物流業界はフィジカルな制約が多いため、なかなか変えることができない部分があった。とはいえ、物流業界における生産性の向上や省人化・無人化は避けられない取り組みであり、変わらないといけない方向性ははっきりしている。我々は、本流が変わっていないなかで変えられるところを紡いできた。その過程で感じることは、莫大なマーケットがじりじりと変わり始めていることだ。じわりじわりと変化して、ある時点で莫大なマーケットの「臨界点」を超えると、一気に回りだすのが日本のパターンだと考えている。

――プロロジスが日本に上陸した2000年頃、大規模倉庫はなかった。

松島 しかし、日本郵船が神戸港の港湾に大きな倉庫を作ったり、行政がプロロジスの意向に耳を傾きだしたりする動きも出始め、「3PL」の言葉も登場した。こうした過程で、あっという間にプロロジスの倉庫ビジネスが広がった。日本ではどこかで臨界点を超えると、急速に広がる印象がある。例えば、QRコード決済の時もそうだった。中国で広がった時、日本はいつになったら使えるようになるのかという状態だった。ところが日本でも始まると、急速に拡大。物流業界ではフィジカルな制約が多いため、変化や新しい技術の広がりはかなり遅い。しかし、社会の要請がそれを許さなくなる。変わらないと続かないからだ。

――物流業界のなかで、ロボット投資はショーケースに近い形だ。

松島 ユニクロのように、自分たちのところに投資できる大規模な会社でしか、無人化の物流センターは作れない。ここで必要なのが「標準化」だ。それを進めることで、倉庫の中で業務が標準化していく。入荷はインプット、出荷はアウトプットというようにポケットの構造になれば、ほとんど自動化できる。そういう日はかならず来る。

物流拠点網における中京圏の立ち位置は

――物流業界では、臨界点に向かっていろんなことが盛り上がっていく。物流施設の場合は、首都圏で最初に広がり、続いて関西圏の大阪南港や東大阪などに展開するなど、首都圏と関西圏を中心に大型・賃貸型の物流拠点が広がってきた。地方は人口比でみれば、もっとこうした拠点があってもいいはずだが、決してそうではない。首都圏と関西圏に続くであろう中京圏の市場に対して、どういうイメージを持っているか。

松島 取引先があるのでよく行くが、独特な雰囲気を感じる。トヨタ気質で、トヨタの車しか走っていない。変化を嫌うというより、大きな産業があるため、専用のセンターを作って稼働率を上げるなど、「自分たちでなんとかできる」というイメージがある。一連の産業が成り立つため、ほかのものが入ってきて共同で何かをしようということをしなくても、それなりにできてしまうのが特徴だろう。

▲本誌編集長の赤澤裕介

――20年前の首都圏、10年前の関西圏でもそうだったが、大規模倉庫がないと産業が立ち行かなくなるわけでもなかった。

松島 かつては、「大規模倉庫を作ってどうなるの?」といった風潮があった。昔からある倉庫を利活用するよりも、新しい場所のほうが使い勝手がよく、生産性を上げられる要素がある。ある場所から別の場所に移ることもある。自らそれを建てるよりも、あるものを借りる流れが合理的な判断となるケースも決して少なくない。地方はそれぞれのボリュームが小さいため、集約してまとめて取り組む構造ができれば便利なはずだ。

――名古屋だけでなく、日本海側では地場に根付いた産業が現在も存続している。国際的な立ち位置から見ても、中国との経済的な結びつきが強い。日本海側における物流の基地としての役割は、太平洋側とは別の意味合いで強まる可能性はあるだろうか。

松島 なぜ日本海側を活用する動きが生まれないのか、不思議に感じている。東日本大震災の時、太平洋側の被害が大きく物流ルートも活用できなかったため、日本海側のルートを使って物資を運ぼうとする動きがあった。しかし、当時は冬だったため、実際には使えない道路もたくさんあった。江戸時代の北前船のように、北海道から日本海を伝うルートもいいのではないか。未開拓を攻める可能性は残っているはずだ。

――名古屋における、物流施設の市場をどう見ているか。

松島 首都圏と関西圏でカバーできることもあって、名古屋に拠点を設ける会社は少ない。拠点の再編で東海地方に拠点を置くとすれば名古屋になるが、北陸における機能はそこに吸収することになる。結果として、名古屋を残さざるを得ない事情がある場合がほとんどだ。立地的には必要ないとしても、名古屋から出発する荷物も多い。こうした観点でみると、荷主関係が東海地方に移動しない限りは名古屋に拠点を設けるのはまれと言える。むしろ、名古屋よりも石川や富山といった北陸地方のほうが、地政学的リスクにおいても必要だとされることもあるのではないか。

――物流における中継拠点の立地としては、東京と大阪、岡山、広島と考えた時に掛川や名古屋はありえるか。

松島 位置的には中継拠点としてありうると考えている。名古屋発の荷物は多いが、トヨタがあるおかげで中継輸送として今後の物流拠点の配置もありうる。さらには地方部における拠点展開の可能性もある。もっとも前提にあるのは、あくまでも荷主による統合の動きが進むことだ。物流現場の業務における限界に近付いていることも考慮すれば、統合の動きをしないと耐えられない。業種は多岐にわたるが、特にラストワンマイルのところは統合しないと難しい。サービススピードは下がるが、在庫拠点も増えるから規模を大きくしないといけない。地方では人口は少ないと言われているが、外国人労働者はいる。最先端のロボットが動くセンターでは、徐々に自動化・標準化を進めて費用対効果を確認できれば、省人化をしていけばよい。

地方における物流拠点展開に欠かせない「荷主の共同化」

――倉庫の需要がある地方において、3PLのような使い勝手のよい大きなスペースの物流センターは成り立つと考えるか。

松島 その前に取り組みべきは共同化だ。極端な例だが、地方でコンビニエンスストア3社が別々に運ぶ意味はなく、共同で運んだほうがいいはず。実際、地方では小さい施設で昔からのネットワークを活用する例も多い。まとめる動きが生まれれば需要は出てくるが、今の流れからするともう少し時間がかかると思う。そこまで共同化をしようという制度はまだ詰まっていない。やらなきゃいけないとは考えつつも、いざしようとするとあと5年はかかると思う。

――5年後の2027年となれば、いわゆる「物流の2024年問題」を経験して人口が減り内外価格差は広まり、産業競争力も疲弊している可能性がある。

松島 5年くらいで動き出すのではないか。そうでないと間に合わないし、大手数社が動き出すと一気に変わってくるのではないか。物流・インフラ系の構造改革は長い時間が必要で、投資もかかる。経営者として先送りしたい気持ちはわかる。大手荷主はバトンを受け取っても先送りしたいが、今の時代は「やらなければならない」という時期になっている。そのため、5年以内に大手の荷主がどんどん動いてくるだろうという感覚はある。動けるなら早めに動いたほうがいいと思う。

――地方に拠点を構えることを考えた場合、首都圏や関西圏のような先行事例が少ないという課題がある。土地は安いが建設費用はかかるし、労働力が集まらない。経営者としてはその拠点を躊躇しているのではないか。共同化が前提ということだが、物流企業や荷主の立場から見て、地方で物流施設を整備する場合に考慮すべき視点は何か。

松島 荷主からすると、小規模で分散化しているものをある程度の規模に集約したほうがよい。サービスレベル重視で分散化してスピード中心にしていた取り組みについては、もう長続きしないのでサービスレベルを落としてでも集約する時期に来ている。そういう意味でも、共同化のニーズは出てくるはずだ。小規模なものを運営するのは、設備投資の観点からも効率が悪い。設備投資の観点とトレードオフの関係で、何かを諦めて集約しないと長続きしない。その際に、束ねたり提案したりするようなプレイヤーが必要。その動きも起きてくるのではないか。人口密度から見た地方は集約するしかない。

標準化から共同化へ、地方ではラストワンマイルを含めた共同運営も一案だ

――ネットワークの効果はどうか。単体で費用対効果を考えた時、人口の多いところに比べると弱い。ただ、ネットワークがあることで中継輸送や貿易の拠点となりうるのでは。

松島 効果が出てくる可能性があるのは、いわゆる「物流の2024年問題」。これまでひとりのドライバーが長距離を運行していたところに拠点を設けることで、複数の人数で回す動きが出てくるし、当然共同化の発想も出てくる。例えば、大手のグループ企業が縦割りで行っていた取り組みについて、グループ全体で集約していく流れも出てくるのではないか。

――物流大手は、幹線輸送の車両を減らしている。その結果、準大手にダイヤモンド構造で集約されるようになった。共同化は、荷主企業主導であるべきなのか。

松島 物量的に自分たちで車両を埋められなければ、他社に委託したほうが業務効率はよくなる。下請け会社が荷物を集める構図になれば、あらゆるところと契約してレイヤーの梱包会社もリスクを分散できる。荷主が動き出すと、物量を分析して自分たちで埋められることがある。やらないとコスト上昇に耐えられなくなって、自分たちの商品を値上げしたりリードタイムを守れなくなり鮮度が落ちたりする。いずれにせよ、荷主が手を付けないといけなくなる。

――ECは、都市部に住んでいる人だけでなく全国、特に地方の人ほどありがたいシステムではないか。地方ではバスの便数は減っているが、より生活に必要なのは宅配事業者になってきている。地方に物流拠点を設ける時、首都圏で物流センターを作る時と同じ考え方で良いのか。

松島 首都圏では施設を建てれば売れるが、地方だと建てるだけでは埋まらない。そこで共同化の仕掛けが重要になってくる。まずは標準化を進めてから共同化へ。地方において、ラストワンマイルの共同運営は必要になる。どこがベースになるかと考えた時、大手荷主がベースカーブを作りながら、稼働が低いところにものを入れていく。コンビニ3社が集まると、ある程度の物量になるからまとめればいいと思う。共同でF-LINE(東京都中央区、食品メーカーが共同出資する物流企業)を作る、といったイメージだ。幹線輸送だけでなくラストワンマイルにもFラインのような組織を作り、温度帯のセンターもまとめて標準化をすることにより、生産性も上がっていくはずだ。

――地方では物流で競争する必要がないと。

松島 大手荷主ですら持続可能性が危ぶまれているわけだから、標準化・共同化していく規模が大きくなれば、マテリアルハンドリング機器にも効果が出てくる。そうした動きをプロデュースしないといけない。

標準化の鍵を握る「ソフトウェアの有効活用」

――地方と都心部における拠点は、前提条件として考え方が異なる。「設備投資をしなくてもいい」ということが地方でいわれることがある。なぜ、「設備投資をしなくてもいい」といった考え方が出てくるのか。

松島 規模が小さいほど、一つの荷主に対して標準化しにくいことがある。大手ほど標準化を進めた後の規模があるので、自動化投資に適合し需要の大きいところに設備投資もしやすくなる。共同化した時に標準化を進められるかと考えた時、時間がかかって標準化をするのが難しくなることもあるだろう。標準化されていないために、ハードウェア系の設備投資を処理できる比率が小さくなり、投資効果も小さくなってしまう。その時に使えるのがソフトウェアだ。ソフトウェアだと、ある一つの経過以降は標準化してピンポイントでカスタマイズが可能だからだ。ハード設備に投資をしなくても、ソフトウェアにより共同化することで効率化を実現できる考え方もあるのではないか。

――地方において物流センターを設けるにはWMS(倉庫管理システム)が鍵になる。マテハン機器を入れない想定で計画を組み立てたらどうなるのか。

松島 我々も、まっさらなところからあえて計画を作る。この工程をこのバージョンで置き換えればどれだけ省人化できるのか、このマテハンはいくらになり費用対効果はどうなるのか、といったことを考えている。地方で複数の荷主で共同化が進んだ時には、標準化が進んでいないとこのマテハンに流れるトランズアクションが増えなくなるため、投資をしないほうがいいと言っている。標準化ができてはじめて、このボリュームになったらマテハンに置き換えることを提案する。標準化が終わったボリュームになった時点で、段階的にやっていくことが正解だろう。

――ソフトウェアの力を重視すべきとあったが、マテハンメーカーから上がってくる提案書はレイアウト中心にとどまり、さらには期待効果と検証結果が乖離していることもある。これはなぜか。

松島 マテハンメーカーのレイアウトは、自分たちのマテハンをレゴブロックのように組み合わせる方法で作成する。それぞれのマテハンには、カタログスペックがあるからだ。しかし、日々の入荷や出荷は実際の需要によって増えるため、トランズアクションはカタログスペック通りには流れてこない。データが毎日、平準的に流れてくるわけがないからだ。マテハンメーカーは、流れてくる最大量を指標に提案をしている。最も多く流れている状態をカバーする必要があるためだが、流れてこない日は減価償却と維持費でトランズアクションあたりのコストは莫大に上がってしまう。業務を設計して一番効率のいいやり方は何か、マテハンを使ったらどの工程を自動化するかを考えながら費用対効果について判断していく。

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