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エンジン交換で水素トラック、普及への道筋は——

2022年8月3日 (水)
【インサイト】
短報記事のなかから多くの読者が「もっと知りたい」とした話題を掘り下げる「インサイト」。今回は「水素燃料トラックに改造、iLaboが資金調達」(7月26日掲載)をピックアップしました。LOGISTICS TODAY編集部では今後も読者参加型の編集体制を強化・拡充してまいります。引き続き、読者の皆さまのご協力をお願いします。(編集部)

環境・CSR既存のディーゼルエンジントラックを、CO2を排出しない水素エンジントラックに改造する––。EV(電気自動車)やFCV(燃料電池車)とはまた違う次世代商用自動車で脱炭素化を目指すiLabo(アイラボ、東京都中央区)が、実現に向けて7月に資金調達を行った。どんなトラックなのか、水素スタンドはどうやって設置するのか。同社の広報責任者がLOGISTICS TODAYの取材に、普及までの道筋を明らかにした。

(出所:iLabo)

iLaboは東京・銀座に本社を置くテクノロジー企業で、2019年11月に設立された。水素技術のエキスパートである工学博士の山根公高氏が代表取締役を務める。メーカーなどを相手に製品のCO2排出量の分析・評価やCO2の削減提案といったコンサルティングも手がけているが、中心的なのは内燃エンジンを水素エンジンに置き換えるコンバージョン(交換)関連の事業だ。現在、軽油で走るディーゼルエンジントラックを、 水素燃料で走る水素エンジントラックに改造する「水素化コンバージョン」に取り組んでおり、環境省の「水素内燃機関活用による重量車等脱炭素化実証事業」にも採択されている。

自動車整備の人材・施設を有効活用

広報責任者によると、水素エンジンは軽油の代わりに水素を燃焼させる内燃機関で、同じ水素を使う燃料電池に比べて大幅にコストを抑えられる。水素エンジントラックはあらかじめ工場で新車に水素エンジンを搭載するのではなく、中古トラックのディーゼルエンジンを水素エンジンに交換する(コンバージョン)。水素タンクは荷台や荷台下に載せる。リースが終了した車両や運送会社の現役車両での交換を想定している。広報責任者は「排ガス抑制や燃費の性能を考えると、新車への搭載より中古車の改造の方が、トータルのCO2排出の抑制効果が大きい」と意義を強調する。

それに加え、全国に広がる自動車整備工場のインフラと人的資源を有効活用する狙いもある。開発中の水素エンジンは、既存のディーゼルエンジンと相当程度の部品を共用できる点が大きな強みとなる。製造コストを抑えられるほか、内燃機関に慣れた整備スタッフや設備が改造と普及に役立ってくれる。この点がEVやFCVと大きく違い、「日本の強みであるエンジン関連の雇用が維持できる」という。実用化後は、水素エンジンへの「改造キット」を自動車整備事業者に提供し、交換にあたってもらう構想だ。

実証試験、来春スタート

同社は現在、山梨県内の研究施設でトラック搭載用の水素エンジンの試作機を製作中で、完成が近づいている。計画では、稼働を試したうえで4トントラックに搭載し、2023年4月から東京都内で貨物輸送の実証試験を実施する。部品が不足して価格が高騰しているが、今回の資金調達で高値でも購入可能となり、計画通りの実験スタートができそうだという。安全性や動力性能、経済性などを数か月間検証する。関係省庁などとの協議も行いながら、早期の実用化を目指す。

大きな課題である水素ステーションの整備については、各地のトラックターミナルへの設置を想定している。水素エンジンにはトラックの動力以外に船や発電機の動力としての用途もあり、一部の港湾や空港の施設関係者からも興味を持たれているという。インフラの整備には幅広い分野の事業者の協力が不可欠。大手自動車メーカーの中にも、EVやFCVだけでなく水素エンジン車の開発・普及を目指す動きがあることにも同社は期待を寄せ、インフラ整備の道筋を探っている。