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ロジスティクス新しいサービスが創出されれば、それを取り巻く価値が生まれる。当然ながら副産物として問題も発生するのだが、現実にはどちらが卓越するか、あるいはより強い影響力をもたらすかによって、その新サービスの行方が決まる。ちょうどその分岐点にあるのが、物流向けドローンだろう。
物流という機能が抱える諸問題への対応に苦慮する政府は、ドローンの実用化を促す取り組みとして関連する規制の緩和を進めている。物流現場だけでなく離島や中山間地域における高齢者への生活維持など、持続可能な社会を築くための諸問題を解決する道筋をつけたい思惑もあり、ドローンの持つ将来性に期待を込めているのだ。
トラックをはじめとする陸上の輸送モードが当たり前だったラストワンマイルをはじめとする近距離配送に、ドローンが参入する新しい時代がいよいよ本格化しようとしている。そこで始まるのが、物流ドローンの実用化を見据えた新たなビジネスチャンスの獲得に向けた動きだ。
このたび、三菱UFJ信託銀行がまとめたレポートは、物流ドローンが生み出す不動産価値について指摘している。物流ドローンの離発着地点には、当然ながら一定の集配・輸送機能が設置されるだろう。そうなれば、その地点までのアクセスや拠点施設、通信関連インフラなどが必要になる。人員の配置も検討されるだろう。産業レベルで何の価値も提供してこなかった用地が、物流ドローンの往来に活用されることで一躍、“物流拠点”に生まれ変わるのだ。ここに不動産としての価値が誕生するのは想像に難くない。
さらに言えば、こうした物流ドローンの航行で不利益が発生する可能性も十分に想定される。こうした新たな紛争さえも新たな活動の起点となり、こうした新しい社会の枠組みが出来上がっていく。いわば、物流ドローンは新しい経済現象を生み出していく存在になるインパクトを内包しているのである。
1964年の東海道新幹線の開業は、多様な評価があるにせよ全体的には単純に新しい路線が生まれただけにとどまらず、国内における産業構造を根底から変革したと言っても過言ではないだろう。それと同じニュアンスが物流ドローンに込められるとすればどうか。そのキーワードは「異次元のインフラ変革」だ。
物流の諸課題に対応する取り組みの一案として、輸送モードの変革に向けた議論が盛り上がりを見せている。つい最近まで可能性が最も低いとされていたドローンは、今や「空飛ぶクルマ」などとともに議論の主役になっている感さえある。物流DX(デジタルトランスフォーメーション)を含めた複合的な議論を深めることで陸と空が連携した異次元の輸送モードが生まれる、そんな時代が間もなくやってくる。待ち遠しい限りだが、それに水を差すのが、相互連携を拒む「部分最適」の発想だ。それだけは排除せねばならない。(編集部・清水直樹)