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相次ぐ宅配便大手値上げ、中小へ転嫁「有言実行」を

2023年2月17日 (金)

記事のなかから多くの読者が「もっと知りたい」とした話題を掘り下げる「インサイト」。今回は「佐川急便が宅配便を4月に値上げ、平均8%」(1月27日掲載)、「ヤマトも宅急便など運賃値上げ、4月から10%」(2月6日掲載)、「福山通運が4月に積合せ運賃10%増、賃上げ原資に」(2月9日掲載)、をピックアップしました。LOGISTICS TODAY編集部では今後も読者参加型の編集体制を強化・拡充してまいります。引き続き、読者の皆さまのご協力をお願いします。(編集部)

ロジスティクス宅配運賃を値上げする動きが広がりを見せている。背景には、トラック輸送に不可欠な燃料費の高騰や急激な物価高といったコスト上昇の水準が、自社で吸収する限界を超えているという事業環境の厳しさがある。さらに、ドライバー不足に伴う人材確保に向けた待遇改善や適正な価格転嫁の推進といった業界特有の課題への対応も待ったなしの状況だ。一方で、多重下請け構造が広がるトラック運送業界において、運賃改定の効果が中小・零細企業や個人のドライバーにまでどこまで波及するのか。値上げ後の動向も注視していく必要がある。

1月下旬から2月中旬にかけて、上場企業は23年3月期第3四半期決算の開示がピークを迎え、宅配便大手などが価格改定に関するニュースを決算発表に合わせて情報発信した。まず1月27日に先陣を切ったのは、宅配大手の佐川急便(京都市南区)。宅急便についてことし4月、平均8%の運賃改定を国に届け出る方針を明らかにした。

同社は各種コストアップを受け、急激な事業環境の変化に対応する施策として値上げに踏み切った。今回の改定対象は全体の2%程度としているが、昨年末に公正取引委員会から価格転嫁の協議を実施せず、価格を据え置いているとして実名公表をされたばかりとあって、適正な運賃収受に取り組む姿勢を対外的に示した形だ。

▲既に発表されている運送大手の運賃改定

最大手のヤマト運輸は2月6日、宅急便料金を4月に平均10%を引き上げると発表。併せて23年度以降、それまで定期的に実施してこなかった国への届出運賃改定に関して毎年度見直すとした。改定ありきではなく、料金を据え置く場合もあるとしているが、世界的な経済情勢や為替、物価といったあらゆるものの変化が激しい時代に直面し、都度状況に応じて柔軟な値付けができるようなプライシング戦略に大きく舵を切ったといえる。

3日後の2月9日には、福山通運が「積み合わせ」運賃を現行から10%値上げするなど4月から基本運賃をベースアップすると表明した。600キロを超える場合は割増(値上げ幅は今後決定)も行う。長距離輸送に強みを持つ同社にとって、燃料価格の高止まりは走れば走るほど利益を圧迫するという頭の痛い問題といえる。

また、同社は距離別運賃では「Eランク荷主」と呼ばれる運賃収受が比較的低めに位置付けられる取引先に対し、適正な価格是正を求めていくほか、長時間の荷待ちが生じやすい大型倉庫宛ての取引は割増料金を新たに設定するという。例外なく値上げを要請せざるを得ないほど、事業環境が大きく変化していることを物語っている。

帝国データバンクの調査によると、物価上昇と価格の未転嫁に起因する「物価高倒産」の22年の件数は運輸業で21年比4倍に増加し、今後もこの流れは歯止めがかからない情勢だ。一方で、インフレが社会問題化するなか、メーカーや小売りといった「製・販」では値上げラッシュが続き、食品や飲料などで昨年10月に7000品目以上、ことし2月にも5000品目以上が値上げとなる。

こうした環境下において、「物流の2024年問題」を見据えて荷主側にも意識の変化の兆しも見られる。価格転嫁に対して「一定の理解を示してくれるようになった。態度を軟化させている」(東海地方の運送会社)と物流危機への認識を共有する動きがあるのも追い風だ。中小企業庁は毎年3月を「価格交渉促進月間」と定めている。公取委などによる価格転嫁の指摘や大手の相次ぐ値上げ表明がきっかけとなり、運送業界が一体感を持って協力会社、個人事業主を含めた価格転嫁の機運を醸成し、「有言実行」となるのか注目したい。(編集部・安本渉)