ピックアップテーマ
 
テーマ一覧
 
スペシャルコンテンツ一覧

新型eキャンター発売に向け、整備士たちが集中研修

2023年3月3日 (金)

荷主脱炭素化に向けてトラックメーカー各社がEV(電気自動車)トラックの開発や販売に力を入れるなか、2017年に他社に先駆けて国産の小型EVトラック「eCanter」(eキャンター)を発売した三菱ふそうトラック・バス(川崎市中原区)は、この春、次世代モデルを発売する。車両ラインアップを大幅に拡充するなどして物流ニーズに応え、商用EV市場で先行者の優位を固める戦略だ。車両の性能だけでなく、メーカーと系列販売店がこの6年間に積み上げてきたEVならではの整備技術や営業ノウハウが三菱ふそうの大きな強みとなっている。

高電圧安全研修で万一の感電防げ

2月上旬、川崎市のふそう本社に各地の販売店からメカニック(整備士)たち20人ほどが集められた。「次世代eCanterメカニック研修」と題する2日間の集中トレーニングだ。新型車の開発担当者と社内教育専門機関「FUSOアカデミー」の講師が共同で指導役を務め、現行モデルからの変更点や整備上の注意点などを教育した。

▲三菱ふそう本社で行われた新型eキャンターの整備トレーニング

「電気自動車は、ディーゼル車に比べて圧倒的に部品点数が少なくメンテナンス費用も抑制できますが、整備においては、電気や電子制御の高度な知識が必要になってきています。そのため、今まで以上に電気装備知識に関する研修を拡充しています」。講師の一人はこう話した。EVトラックは高電圧のモーターやバッテリーを使用しており、取り扱いを誤ると感電などの事故を起こす恐れがある。整備士の安全を守るために、一人一人に高電圧に関する安全教育を徹底するのがメーカーとしての責務だ。「われわれが最も重視している点は、整備士たちが作業を安全に行える環境を整えることです」。

▲高電圧システムの遮断と再接続の研修

eキャンターでは360ボルトの高電圧を使用して動力を生み出しているが、新型車は高電圧の「遮断」と「再接続」の手法が現行モデルと異なる。整備中は高電圧が車両に流れないよう遮断の処置を行い、作業が終了したら再接続によって再び高電圧を車両に流す。受講する整備士たちも「安全に作業するには絶対に覚えなければいけない条件だ」と気を引き締め、新しい手順を体に浸み込ませようと、真剣な表情で車両に向き合っていた。

6年前、初の国産EVトラックとして登場したeキャンター。整備士たちがこれまでディーゼル車の整備で馴染んだエンジンもトランスミッションも燃料タンクもない。代わりにモーター、インバーター、高電圧バッテリー、充電ソケットなどが整備対象となった。誰もが初めて経験する大変化だった。今回のフルモデルチェンジでも多くの変更点がある。とくに駆動用モーターとインバーター、ギヤボックス、リヤアクスルが一体となった「eアクスル」は、初めて搭載される基幹コンポーネントだ。それによってコンポーネントのコンパクト化と軽量化が実現した。「正しい整備スキルを習得できるように、特に注力して研修を行っています」と、講師たちは話した。

「EV伝道師」が普及を推進

研修には「eエキスパート」と呼ばれる、ふそう独自の専門人材も複数参加した。同社はEVトラックに関する専門知識と技術を身に着けたeエキスパートを、21年から全国の販売店に配置している。現在は営業のeエキスパートが90人、整備のeエキスパートが20人。彼らが整備士たちに技術指導を行い、営業スタッフにはEV知識の教育を行っている。顧客企業や自治体など外部からの問い合わせにも対応する。EVトラックの「伝道師」として、販売店の営業力を底上げしているのだ。「彼らはトラブルの時にいち早く駆けつけて解決にあたる『地域のフライングドクター』。誰よりも早く新製品のトレーニングを受ける必要があるのです」と、講師の一人が解説した。

▲講師の説明を聞く整備士たち

ユーザーである運送会社から販売店に寄せられる声には、走行距離や充電時間に関する不安の声もある。新型車では3種類のバッテリーサイズを設定してそれに対応する。ただ、走行とは別の要因で起きるバッテリー上がりも意外と多いという。高電圧システムをオフにした状態で架装物の操作作業を行うことでしばしば生じる。「車両から離れる時はキーを抜いてエンジンをオフにするというディーゼル車の習慣から起こるトラブルと考えます」と開発担当者。「電気自動車はまだまだ普及途上のため、ユーザーの間でディーゼル車との操作性の違いについて理解が進んでいないと感じます。基本構造や操作について、ユーザーにさらなる説明を図っていく必要があると考えています」。

集中トレーニングを終え、整備士たちは今、各地の販売店で営業マンたちとともに新型車の発売準備を進めている。ライバルのいすゞ自動車も小型EVトラック市場に参入する構えで、日野自動車を含む国内3社の競争が本格化する。どのメーカーも開発、生産、販売、整備の各現場が一体となり、ユーザーのニーズや悩みに応えていくことが、EVの普及を後押しする。(編集部・東直人)

■「より詳しい情報を知りたい」あるいは「続報を知りたい」場合、下の「もっと知りたい」ボタンを押してください。編集部にてボタンが押された数のみをカウントし、件数の多いものについてはさらに深掘り取材を実施したうえで、詳細記事の掲載を積極的に検討します。

※本記事の関連情報などをお持ちの場合、編集部直通の下記メールアドレスまでご一報いただければ幸いです。弊社では取材源の秘匿を徹底しています。

LOGISTICS TODAY編集部
メール:support@logi-today.com