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改修"歓迎"、現場の声反映にこだわるブライセンのWMS

物流ロボとの連携視野に新たな地平開拓

2023年5月26日 (金)

話題EC(電子商取引)サービスの急速な普及を背景とした物流倉庫で取り扱う荷物の量や種類の急増で、改めて注目を集めているWMS(倉庫管理システム)。少子高齢化や就労トレンドの多様化で人材不足に悩む倉庫現場にとって、WMSは非常に頼もしい援軍であるのは間違いない。倉庫を始めとするサプライチェーンの現場で、業務の効率化・最適化は、「物流の2024年問題」を含め、あらゆる場面で喫緊の課題になっているからだ。

しかし、WMSを取り巻く環境も新たな局面に突入している。いわゆる「老舗」の事業者が存在感を示す一方で、ビジネス機会の拡大を見据えて新たに参入する企業も相次ぐ。多様なバックグラウンドを持つプレーヤーがシステムの開発・提供で競い合う群雄割拠の様相を呈している。もはや、差別化を明確化するのも難しい状況となっている。

こうしたWMS開発競争の中で、一味違った事業戦略を掲げて話題を集めている企業がある。1986年の設立以来、一貫してソフトウエア開発を手掛けてきたブライセン(東京都中央区)だ。「Brave Beyond Borders」(ブレーブ・ビヨンド・ボーダーズ、踏み出さないと何も始まらない)との精神から、倉庫管理にとらわれずに社会インフラであるサプライチェーン全体の改善に挑もうとしている。ブライセンのこうした経営姿勢からは、激変する物流ビジネスを支えるWMSの進むべき方向性と、それを担う営業や開発といった最前線のメンバーの柔軟な発想力が見えてくる。

倉庫会社の社長の苦悩をきっかけにWMSの自社開発にカジを切る

▲常務取締役物流流通本部長 吉川玲氏

設立以来、ITシステムの受託開発で成長してきたブライセン。倉庫管理など物流関連システム開発で大きな転機だったのが、2016年7月、EC通販に対応したクラウドWMS「COOOLa」(クーラ)の提供開始だった。

ブライセンが受託ビジネスから一転して、自社でのシステム開発に取り組んだきっかけは何か。「ある倉庫会社の社長からの打診でした。導入したWMSに月額400万円もの費用がかかるというのです」。こう振り返るのは、吉川玲・常務取締役物流流通本部長だ。

その社長いわく、ウェブサイトに掲載された宣伝文句を見ると、安価で対応できる利点をうたっていたが、いざ商談を進めると導入時や仕様変更時のカスタマイズに伴う経費が積み上がり、結果として重い費用負担を強いられたという。「ブライセンはシステムを100%自社で開発しています。さらにメンテナンスも外部に委託していません。その社長にも『WMSを我々に任せていただけるならば、半額での運用も可能ですよ』と伝えました」(吉川氏)。

一般的に、WMSをはじめとする物流現場の管理システムは、物流コンサルティング会社などがソフトウエア会社に発注する。ここで問題になるのが、発注側の物流コンサルティング会社が、ソフトウエアの専門家ではなく、一方のソフトウエア開発会社も物流現場に精通しているわけではない点だ。

つまり、互いにプロフェッショナルではない領域で作業に取り組む格好になるため、システム開発の生産効率や導入現場での使い勝手、さらにはコスト感覚について熟考されることなく納品されてしまう。その結果として、顧客に個別で対応するカスタマイズのコストは高くなる。

「我々はそこにビジネスチャンスを見いだしました。物流向け開発受託の経験があり、様々な仕様変更ニーズも知る当社であれば、現場で使いやすい仕様のシステムを低コストで開発して提供できると考えたのです」(吉川氏)。

「ブライセン」「倉庫」「荷主」の三方よしの仕様設計が奏功

ブライセンで初となるWMSの自社開発が決まった。一方で、物流倉庫向けのシステムであることは、同時に荷主に対しても利便性の高い仕様でなければならない。複数の荷主に対して、それぞれ使いやすいようにカスタマイズできる柔軟な設計が必要になる。

「ブライセンと倉庫会社、荷主の3者にとって最適な仕様設計でコスト負担も軽いシステム。それがクーラの基本的な発想です」(吉川氏)。

物流関連のシステム受託開発を手掛けていたとはいえ、物流現場に深い知見があるメンバーはまだまだ少なかった当時のブライセン。そのため、営業や開発メンバーが倉庫現場に足を運び、足元の諸問題の把握とその改善につながるシステム設計について、現実味のある作戦を構築した。この体制が整うまでに丸3年を要したという。

クーラはあくまでパッケージとして提供する。しかし、提供先の事業者は、事情に応じてカスタマイズを求めるのが一般的だ。ここで威力を発揮するのが、ブライセンが受託開発の段階で蓄積してきた柔軟なカスタマイズ力。「カスタマイズのプロ集団として開発で高い効率性を追求することにより、他社と比べて圧倒的な価格優位性を実現できるのです」(吉川氏)。

低コストで柔軟なシステム開発を可能にするブライセン。その秘密の1つが、ベトナムやミャンマーなどアジア4か国に置いている海外開発拠点にある。特にベトナムでは、現地の日系物流企業グループ拠点へのシステム提供を強化しており、開発チームを手厚く配置している。「国内と海外の開発チームが並行して活動できることで、品質だけでなくコストや納期などあらゆる点で効率的な開発体制を構築できるのです」(吉川氏)。

顧客から抽出した声を反映したクーラの差別化機能

こうして生まれたクーラは、他社のWMSと違いがどこにあるのだろうか。ここでは、特徴的な2つの機能に焦点を当てながら、その強みに迫っていく。

まずは「同梱物管理機能」。例えば、EC通販では、商品の送付時に販売促進のために他商品の宣伝チラシやサンプルを同時に梱包することが多い。そして、購入した商品や注文回数に応じて、同時に梱包する販促物などの細かな設定、同梱物によるリピート促進やキャンペーンの効果の検証、さらに同梱物を詰め合わせる際のミス防止策などのニーズが高まっている。

クーラは、注文情報を基にした同梱物のきめ細かい条件設定ができる。企業のスタイルに合わせた顧客サービスの拡充やリピートの促進を支援する。「システム納入先からの要望を受けた機能で、ブライセンが強みとする柔軟な対応による機能拡充の好例です」(吉川氏)。

次が「送り状発行機能」になる。納品書と送り状の名寄せ作業の削減やそれぞれの運送会社に異なるラベルを発行する手間の省力化、ラベルの貼り間違いや個人情報漏えいの防止を図る。運送会社の専用システムをクーラに一元化し、様々な運送会社の送り状を発行できるほか、送り状ラベルやSCM(出荷梱包表示)ラベルを出力することも可能。そのため、送り状発行業務の効率化やコスト削減につながる。

ほかにも、カメラ画像を使った「物流画像検品システム」や、在庫切れによる販売機会の損失を防ぐ「出荷予測機能」、同じ画面で複数の言語を共有できる「多言語対応」など、倉庫現場で直面する諸問題に対応できる機能を搭載。いずれの機能も顧客である倉庫運営事業者や荷主のニーズを現場でヒアリングして生まれた。ここからブライセンの課題抽出力を垣間見ることができる。

ロボティクスとの連携ビジネスも視野に

ブライセンは、クーラのほかに流通向けの予測型自動発注·データ分析システム「B-Luck」(ビーラック)も展開する。このシステムは、食品スーパーやドラッグストア、ホームセンターなどでの発注作業の負担を軽減するものだが「サプライチェーン全体の最適化」を志向する同社では、COOOLaB-Luckを連携することで、倉庫と店舗双方への導入拡大も視野に入れている。

(クリックして拡大)

ブライセンは、WMSを始めとする物流・流通向けシステム開発で培ったノウハウを、今後どのように展開していくのか。その方向性の1つが、AGV(自律走行ロボット)やAMR(自律走行搬送ロボット)などの物流ロボティクスとの連携だ。

▲導入が進むマテリアルハンドリング

ソフトウエア開発のブライセンがロボティクスビジネスに関与する――。一見すると不思議に思えるこの取り組みの狙いはどこにあるのか。「物流倉庫内の作業をさらに効率化・最適化する上で、もはやWMSの枠に固執していては、今後の持続的な成長はないと考えています。AGVやAMR、マテリアルハンドリングなどの機器を我々のビジネスに組み込むことで、WES(倉庫運用管理システム)やWCS(倉庫制御システム)へと進化していくことが不可欠なのです」(吉川氏)。

制御系はブライセンにとって、得意な領域である。早ければ24年度にも、ロボットのシステムインテグレーター(導入をサポートする専門事業者)に参入する構想を温めているという。

物流業界で「WMS全盛時代」と位置付けられる現在。しかし、それは、瞬く間に過去の話となってしまう。事業環境が急速に変化する中で、社会に不可欠なインフラである物流倉庫の業務を支えるWMSは、常に新しい姿を模索していかなければならない。サプライチェーンの最適化による社会の発展に、自社のシステム開発力で貢献したい。こうした動きを主導すべく果敢に挑むブライセンの本当の強みは、ここにある。