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倉庫DXに求められる、SC全域・未来へ向けた視点

2024年9月19日 (木)

話題倉庫現場では、EC(電子商取引)の活況と人手不足により、物流現場の作業内容も大きく様変わりしている。配送の小口多頻度化や配送商材の多様化、スマートフォンの普及などによる間口の広がりなど、庫内業務は複雑化するばかりだが、少子高齢化などで今後対応できるマンパワーはますます不足するばかり。物流を止めないことが最重要課題であり、そのためのデジタル化は必然、荷主や物流事業者が主導する効率化の設備投資など、運送事業と比べればDX(デジタルトランスフォーメーション)への取り組みも進んでいる。

DXを実現するには、単体業務のデジタル化を入り口として、次に業務プロセスのデジタル化へ、さらに業務プロセスで集積したデータを活用した企業経営のデジタル化へと進むという成長ステップを踏んでいくことが重要とされる。国土交通省「中小物流事業者のための物流業務のデジタル化の手引き」というリーフレットでは、デジタル化の成長ステップとして、まず業務・ドキュメントのデジタル化による「デジタイゼーション」、ワークフローのデジタル化による「デジタライゼーション」、その2つのデジタル化を経て、製品やサービスの変革を実現するのがDXと紹介しており、倉庫業務でのはじめの一歩も、必要な業務と、必要ではない業務、集約できるような業務、デジタルツールに変換できるような業務の見極めがスタートとなるだろう。

▲デジタル化の成長ステップ

いまだアナログな現場運用で、次のステップに迷いがある事業者には、例えば受領、検品作業において、現場でチェックした紙リストを、管理部門がデータとして落とし込むような作業が発生していれば、同じ業務を2人の人員、2倍の時間をかけて作業している「無駄」を把握することが、取り組みのきっかけとなるのではないか。データ読み取りでの検品がそのままシステムに反映されれば大きな効率化となることは明らかであり、検品チェック作業自体を紙での確認からデジタル化、さらにそのデータの集積へと業務の流れ自体のデジタル化へと連携して、さらなる効率化へ前進する取り組みとなる。ファクスで受領している出荷指示などもデータ管理へと移行すれば、社内システムへの転記など無駄な作業を削減し、取引先とのスムーズな連携にも役立つ。

業務プロセスのデジタル化なくして、これからの物流は成り立たない

ECへの対応を求められる現場では、もはや入荷から出荷、在庫管理や棚卸し管理、伝票発行など、煩雑な「モノの動き」を紙のやり取りだけで連携するのは不可能だろう。庫内業務フローの基幹としてWMS(倉庫管理システム)運用などはきわめて合理的な選択肢と言えるのではないだろうか。

しかし、物流システム開発のダイアログ(東京都品川区)による22年の調査では、倉庫の在庫管理をWMSで行っている企業は7.4%にとどまり、Excel(エクセル)の使用企業が23.9%と最多、「紙」も15.9%という調査結果が公開されている。とはいえ、エクセル管理では「エクセルを作った本人しかわからない」(42.2%)、「リアルタイムで更新できない」(35.6%)、「データ保存量に限界がある」(26.7%)、「関数などが複雑になっている」(15.6%)などを課題として実感しており、在庫管理改善の必要性があるとした回答は5割を超えたとしている。


(クリックで拡大、ダイアログ「エクセルでの在庫管理の実態調査」より引用)

同じく同社によることしのWMS導入企業調査では、WMS導入前には「非効率的な作業プロセスによる生産性の低下」(59.7%)、「コスト管理と効率化(利益率の低下)」(56.7%)を課題としていたこと、70.9%がWMS導入後に「経営上のメリット」を実感しており、具体的なメリットとしては「在庫管理の最適化とコスト削減(利益率向上)」が64.4%で最多となったとしている。属人化などによる業務プロセスの課題をデジタル化することから、個別のニーズに合わせた次のデジタル化、自動化機器の導入なども、ますます進んでいくことが予想される。

(クリックで拡大、ダイアログ「WMS導入と経営に関する実態調査」より引用)

DXの本質に基づいた戦略的なデジタル化、庫内可視化は必須

倉庫事業のDXといえば、業務プロセスのデジタル化とともに、ロボットや自動化機器の導入が真っ先にイメージされる。物流展示会においても、自動倉庫、パレタイズ、デパレタイズロボット、AGV(無人搬送車)、AMR(自律走行搬送ロボット)、AGF(自動フォークリフト)などのブースには多くの人が関心を示す様子が見られた。

ロボット、自動化機器導入は、自動化・省人化・ミス削減などあらゆる側面での効率化が期待できる機械化DXである。AI(人工知能)技術などの進歩で、作業速度や精度も格段に向上し、人の作業を協働でサポートする領域から、人の作業を肩代わりできるようなサービスも登場している。GTP(Goods To Person)システムなど、人の作業負荷を軽減するものは労務環境の改善という点でも有効なDXであることは間違いない。

こうした先進的なシステムやロボットを導入することでどんな効果があるのか、ユーザーにとっても魅力的なソリューションである。ただ、それらを導入するだけですべての課題が解決し、効率化の大きな成果を発揮できるわけではない。あくまでもデジタル化の成長ステップに応じた、現場の課題に対応するDXなのか、課題と将来のビジョンを見据えた上での対応策となっているのかという視点から導入を検証することが必要だ。

仕分け作業工程にはやりのロボットを導入したが、その前後工程との連携がしっかりと検証されていなかったため、ロボット導入部分がボトルネックとなってしまったという、先進的機器の導入自体が目的化してしまった「間違ったDX」による失敗事例も報告されている。物流現場オペレーションの変化に、人を投入して解決することは、今後ますます難しくなる。かといって、前後工程やサプライチェーンとの連携などの検証ができていなければ、せっかく導入した最先端ツールも、その効果を最大限発揮することはできない。あるITベンダーも、「取引先や現場との連携が取れていない、現場のニーズと機能が合っていない、基幹システムとの相性が合わないなどでDXにつまづく例は多い」と言う。

「庫内見える化」はデジタル成長に欠かせないステップ

そう考えると、倉庫現場のデジタル化の成長ステップとしては、現場の状況、ニーズをしっかりと把握するための「庫内見える化」の工程は必須だと言えるかも知れない。RFIDタグやハンディーターミナル、さらに管理システムとの連携は、庫内のモノの動きの可視化であり、データを基にした業務改善の基盤となるものである。物流工程のどこに課題があり、それを改善するための方策として最適なツールは何か、まずは足もとの庫内状況が見えなくては判断することは不可能だろう。

さらにモノの動きだけではなく、ヒトの動きも合わせた庫内の可視化ができれば、最適な人員配置や作業計画立案などの対応と、次の効率化のために必要な投資なども明らかになるだろう。限られたリソースをどう活用すればオペレーションを完遂できるのか、問題があるとすれば、運用で解決できるのか、新たなツールが必要となるのか、それはどの規模の投資を必要とするのかなど経営戦略へのステップとつながる。

庫内からさらに視点を広げ、終わりのないDXへの取り組み継続を

倉庫DXは庫内だけでは完結しない。バース部分の効率化やスムーズな連携なども今後の取り組み課題となるだろう。かねてから物流効率化の取り組み事例で紹介されるバース予約システムやバース荷役部分の効率化DXだけではなく、さらにその前工程の入構効率化など、連携する領域を広げた提案も盛んだ。一貫パレチゼーションへの対応など、サプライチェーンの中でさまざまな企業や工程に連携する倉庫にとって、効率化に貢献できる領域、果たすべき役割も大きい。サプライチェーン全域での効率化への貢献、そんな視点から倉庫というリソースを使って実現できる取り組みも必要となってくるだろう。

これからデジタル化に取り組む事業者に課題があるのはもちろん、すでにDXに取り組んできた事業者にも、古いレガシーシステムの見直しや、システムのリプレースといった問題も顕在化してくることだろう。先行する者にも追いかける者にも、それぞれに長く終わりのない業務改革を続けていくことが、DXへの取り組みの本質なのである。

大手デベロッパーには、ただ必要な床を供給するだけではなく、自動倉庫を既設設備としてシェアリングを促す取り組みや、共同輸送のコミュニティー作りなどで、効率化を後押しする新たな取り組みも見られる。自社のデジタル化だけではなく、利用企業のデジタル化をサポートする、物流業界全体の効率化に貢献するような取り組みにも注目していきたい。