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グループ向けで実績積んだスタートアップの飛躍に期待

物流分野に注力、日本郵政キャピタルの投資戦略

2024年10月1日 (火)

話題日本郵政キャピタルは、日本郵政グループのコーポレートベンチャーキャピタル(CVC)だ。2017年に発足して以来、数多くのスタートアップを支援してきた。物流分野ではロボット系ソリューションで知られるMujin(ムジン、東京都江東区)などに出資している。同社の丸田俊也社長と山本直樹投資部門ディレクターに、投資スタンスやスタートアップ育成の狙い、今後の戦略などについて聞いた。

▲(左から)日本郵政キャピタルの山本直樹投資部門ディレクター、丸田俊也社長

日本郵政グループ内に眠る需要は“無限”

日本郵政グループは、日本郵便、ゆうちょ銀行、かんぽ生命保険を中核会社とする巨大カンパニーだ。日本郵政傘下の連結子会社は217社、持分法適用関連会社は13社に上り、グループ全体の経常収益は11兆9821億円(23年度)に達する。日本郵政キャピタルは17年に設立されて以降、グループ各社の事業拡大や業務効率化に寄与することが期待されるサービスやソリューションを持つ国内外のスタートアップ企業を中心に積極的な投資を実行してきた。

グループ会社の中には「自動車・マテハン機器の保守・メンテナンスサービスを提供する会社、コールセンター業務やバックオフィス関連サービスを提供する子会社もある」(山本氏)ため、スタートアップの投資先は郵便・物流、金融、保険、不動産のコア事業に限定しているわけではないという。

丸田社長は「これだけの企業規模になると、グループ内にはさまざまなニーズがある。それは“無限”といっていいほどだ。グループ各社の業務にはまだまだあらゆる部分で効率化できる余地があり、投資先のスタートアップには、グループ各社に現状足りていない機能を補ってもらう役目を期待している」と話す。

投資先を選ぶ際の基準とは

投資先候補として、各方面からさまざまなスタートアップ案件が持ち込まれるものの、すべてにゴーサインを出すわけではない。現在はグロースマーケット(比較的規模の小さいベンチャー企業が参加する市場)が低迷しており、投資する側も慎重にならざるを得ないからだ。

では、実際にはどのような基準で投資先を選んでいるのか。丸田氏は「何よりも日本郵政グループの成長に資するようなソリューションを持っていることが重要。具体的には、グループ全体のDX(デジタルトランスフォーメーション)化、効率化、人手不足への対応等を一緒に実現できる企業を探している」と説明する。

▲ACSLと日本郵便が共同開発した物流専用の新型ドローン「JP2」(出所:ACSL)

ここ数年は郵便・物流領域を対象にしたスタートアップ投資の実績も徐々に増えている。例えば、同領域での第1号案件となったACSLは、ドローン開発を手掛けるスタートアップだ。「交通網が発達している都心部に比べ、地方の山間部や離島では過疎化がより進行し、郵便物の配達が困難になりつつあるエリアも少なくない。そうしたエリアの配達にドローンを活用できればと考えて投資を決めた」(丸田氏)という。

日本郵政キャピタルでは、ACSLのほかにもドローン系スタートアップに投資している。投資先の2社は現在、配達に特化したドローンの開発に着手。早期の実用化に向けて実証実験などを繰り返している段階だ。

23年にはロボットを使った数々の自動化ソリューションで知られるMujinにも出資した。Mujinは先頃開催された「国際物流総合展2024」に出展。会場内の同社ブースでは、吸着ハンドを利用したデパレタイザーが、サイズの異なる小型郵便物を次々に捌いていくデモンストレーションが実施されていた。 日本郵政キャピタルがMujinに投資したのは、「郵便や物流の現場にMujinのロボットを導入すれば、仕分け業務の効率化や迅速化を実現できるというビジョンを明確に描けたからだ」(丸田氏)という。

▲国際物流総合展2024で展示されたMujinのデパレタイザー

異なる機能や強みを持つスタートアップ3社に出資し、この3社をコラボレーションさせることで新たなサービスや物流ニーズを創出した事例もある。衣類のパーソナルスタイリングサービスを提供するDROBE(ドローブ、渋谷区)、衣類や家電製品のサブスク・レンタルサービスを提供するアリススタイル(港区)、衣類などの回収・リサイクル・リユースを手掛けるECOMMIT(エコミット、鹿児島県薩摩川内市)にそれぞれ出資したのは、不要になった衣類や家電を回収して市場に再展開したり、原材料としてリサイクルしたりする「循環物流」の仕組みを構築するためだ。「郵便のニーズは先細りしつつあるのが実情。それに代わるものとしてサブスクやレンタルされている商材に着目した。モノを循環させることで発生する物流ニーズを囲い込む」(丸田氏)のが狙いだ。

協働・共創でスタートアップを育成

日本郵政グループは長年にわたって郵便物という“モノの流れ”を支えてきた。丸田氏は「日本の物流技術やノウハウは世界的に見ても非常にレベルが高い。手前味噌にはなるが、いまだに100円前後の料金で葉書や封書を配達できる国はそうそうない。宅配貨物(ゆうパック)の配達時間帯が7区分、最も短い区分が2時間刻みで設定できるのも日本くらいだ。日本の生活クオリティーの高さのバックグラウンドに物流力があるのは間違いない」と指摘する。

日本の物流力とそれを支える技術力の高さは、投資先であるMujinの創業経緯が物語っているという。Mujinの共同創業者2人のうち1人はアメリカ人のデアンコウ・ロセン氏だ。丸田氏は「彼がわざわざ海を渡って日本で起業したのは、ユーザーのニーズを満たす物流ロボットの開発に日本ベースの技術が不可欠だったからだ」と見ている。

日本郵政グループは巨大な組織だ。一度ソリューションが採用されれば、スタートアップにとっては大きなチャンスになる。グループ各社との取引を通じて早急に収益基盤を確立できることも魅力の1つだ。同氏は「どんな技術でも構わないので、まずは当社に持ち込んでほしい。郵便・物流、金融、保険、不動産などの日本郵政グループの取り扱い事業や郵便局などで、その技術を活用できる可能性があるからだ」とスタートアップにエールを送る。

その上で、「もし当社グループで活用方法を見いだせない場合には、他社を紹介することもできる。もはや優れた技術やソリューション、サービスを特定の1社だけで囲い込む時代ではない。協働・共創の精神でスタートアップを育成していく。それが大企業の役目だと自負している」(丸田氏)という。