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本誌主催イベント「物流大再編時代 」開催、下請法見直し最新動向

多重構造是正など物流大再編と25年の物流検証

2024年12月6日 (金)

▲左からLOGISTICS TODAY 編集長の赤澤裕介、編集委員の刈屋大輔

イベント本誌LOGISTICS TODAYは6日、「物流大再編時代 ・第四弾」を開催。2日間にわたって2024年の物流業界動向と、来年への課題を整理したイベントの最終日となるこの日は、冒頭、法改正や規制見直しなど、激動の物流業界一年間の動向を総括し、来年度に向けて対策を本格化すべき多重下請け構造の是正や、下請法・独禁法の適用範囲の見直し検討など、業界の長年の構造的課題解決に向けた論点を整理した。

流通経済大学矢野教授、下請法議論の動向解説

流通経済大学流通情報学部長・教授の矢野裕児氏は、11月27日にとりまとめられた国土交通、経済産業、農林水産3省合同会議での改正物効法の詳細に関する解説とともに、下請法見直し議論の現状を紹介。

▲流通経済大学流通情報学部長・教授の矢野裕児氏

下請法見直し議論は10月に公正取引委員会の企業取引研究会にて、荷主への下請法適用が検討されたことを受けたもので、12月のとりまとめを待つ状況である。荷主への下請法適用が決まれば、これまでの独占禁止法(物流特殊指定)による優越的地位の濫用における規制よりも、簡易迅速な荷主対策が可能となる。荷主にとっては、実運送における荷待ち・荷役時間やドライバーの時間外労働について、より直接的な責任を負うことになり、動向が注目されてきた。

かねてから運送事業団体からは、よりわかりやすく下請法の適用範囲を発着荷主と下請運送事業者の間にも適用することが求められてきた。公正取引委員会でも物流インフラ維持の根幹となる適正料金収受に向けて下請法と物流特殊指定のあり方を議論し、企業取引研究会では、現状、発荷主を下請法の適用対象とする方向性で検討されているという。一方、直接の契約関係が無い着荷主の扱いなどが慎重に検討されていることから、最終とりまとめとしての公表までに時間を要しているようだ。

発着荷主に起因する長時間の荷待ちや、付帯業務の強要、多重構造による下請け運賃の低価格化などには、適宜迅速な対応が必要との課題は共有されていることから、下請法と物流特殊指定の関係や、独禁法と下請法、事業法との有機的な連携などについても議論されている。現行の下請法においても、公正取引委員会、中小企業庁、各事業所管省庁が連携して調査を行い、下請法違反にあたる行為を公取委の勧告につなげる規定もある。公取委と中小企業庁の連携に比較して、公取委と国交省との連携は希薄とされており、公取委とトラック・物流Gメンの情報連携なども活用すべきと議論されている。

独禁法、下請法、事業法それぞれの特性を生かした連携による、より効果的な処方もあるのではとの指摘もあるため、下請法の見直しに加えて省庁間、関連法の有機的な運用によって「実効性を高める」ことが論点だと解説された。

ウイングアーク1stが目指す、運送契約から請求までのデジタル連携

帳票管理DX(デジタルトランスフォーメーション)、データ経営支援のウイングアーク1st(ウイングアークファースト)物流プラットフォーム事業開発部部長の加藤由貢氏は、法改正後の対応で肝要なのは、企業間の「契約」「実績」「請求」の3点をつなげて管理できる、情報連携・伝達の仕組み作りだと語る。

▲ウイングアーク1stの加藤由貢氏

今回の法改正の狙いは、荷待ち・荷役時間の削減だが、運送事業者にとってはその前後工程も含めた、契約から請求までの一連の輸送に関わる料金収受の効率化が実現しなければ、標準的運賃に基づく適正料金の請求に伴う荷待ち・荷役時間の実態把握にかかる負担を、運送事業者が担うという本末転倒の事態も懸念されると指摘する。運送契約の書面化や、実運送管理簿作成といった、改正法による改革と合わせてそれらの適正料金を運送事業者やドライバーの負荷なく請求できる仕組みが完成しないと、運送事業にとっての改善とはなり得ず、各工程での実運用にかかる課題も山積している。

同社は、運送契約の書面化など「契約」の内容、荷待ち・荷役時間の「実績」計測、荷役などの適正な金額設定と「請求」までの一連の流れ、企業間の連携をデジタル技術で標準化することが物流の課題解決に必要だとする。同社の提供する物流DXプラットフォーム「IKZO」(イクゾー)による運送契約(運行前)から請求・支払い(運行後)までのオンライン化や、運行中、荷役現場での作業管理による待機時間料や荷役料金のデータとの連携なども、新たな課題の対応策だと紹介する。

運行前から運行後まで、運送事業の効率化における実運用での課題を検証すると、人力ではどうしても限界があることが明確となり、改正法施行に向けた準備ではデジタルの力を借りることは必須であるとの結論に導かれる。運送業のための制度変更が、新たな重荷とならないよう、自社業務の的確な把握と、それに対応するソリューション選定が促された。

フジHDの攻めの戦略に学ぶ、運送事業の新時代対応

事業の急拡大で注目されるフジホールディングス(東京都港区)松岡弘明晃社長は、幹線運送フジトランスポートを基幹とした積極的なM&Aなどによる事業戦略を解説した。

▲フジホールディングスの松岡弘晃社長

01年以降20社以上のM&Aにより全国へ拠点、配送網を拡大するとともに、ドライバーの働き方の見える化にDX導入して法令順守を徹底。また運送コストも合わせてデジタルで可視化することで物流改善、適正運賃の収受も進め、法改正で運送事業者に求められる効率化義務に前倒しで対応している。また、自家用軽油タンク拠点や整備工場の内製化、積載効率が高く汎用性の高いマルチトラック導入への積極投資で、3000台近い自社トラック運用と、法令順守をドライバー人材確保の基盤としながら、スケールメリットを生かした攻めの戦略で成長してきたことが説明された。

今回のテーマである多重下請け構造の是正に関しては、自らかつての低い階層での下請けなどから、元請け、1次請けでの業務受託の転換に向けて事業を成長させてきたことを紹介。求荷求車サービスなどでも受託の階層を把握できないケースもあり、2次請けまでの制限などは現実的ではないと語る。制度変更だけではなく、運送業の経営者自身が原価計算、コスト管理に基づく適正な料金収受に向けた努力、受託する階層を上げるための努力もまた必要だと指摘。松岡氏は多重構造の是正に向けては、社会環境変化の後押しを得て「運送会社が適正な料金を荷主と交渉することに尽きる」と、運送事業の最前線での見解を示した。

古野電気、ETC入退場管理連携による効率化で成果を

効率化への取り組み義務化で、トラック予約システムの注目も高まる。古野電気(兵庫県西宮市)のシステム企画マーケティング課主査の西村正也氏は、荷待ち・荷役時間の解消にはトラック予約システムが効果的としながらも、ドライバー頼りの運用には限界がある点を指摘し、ドライバーの作業に依存しない荷待ち・荷役時間管理を訴える。バースの予約をドライバーに一任した場合、ヒューマンエラーが多発することも考えらえる。政府が導入すべき取り組みとして名指しするトラック予約システムだが、それだけが正解ではなく、ドライバーの操作に頼らない運用や、サプライチェーンの広い領域を見渡したスムーズな連携、効率化領域の拡大が求められていると解説する。

▲古野電気の西村正也氏

西村氏はトラック予約システムの機能を最大限発揮するためにほかのシステムとの連携による全体最適化の検証を提案する。同社が展開する車両入退場管理サービス、「FLOWVIS」(フロービス)は、高速道路での運用で実績のあるETC認証技術を活用して、よりスムーズなバース領域との連携を、ドライバーの負荷なく実現するシステム。ドライバーの操作を必要としない入退場管理、データ集積を実現し、荷待ち・荷役時間の把握と効率化推進を支援する。高速道路での運用を通じて、ETCを利用した車両管理の信頼性については疑いないだけに、物流改善での利用も期待される。法令対応だけではなく、施設周辺の渋滞対策や、セキュリティー精度の向上、入退場ゲートへの人員配置の見直しなどにも有効であり、現場課題と経営課題の両面での改善に役立つ。

フロービスと受付システム、フロービスとトラック予約システムとの連携で、入出庫の把握と荷役作業のスムーズなつながりなど、実際の導入事例から、バースの前後工程まで領域を拡大した効率化の成果が紹介され、今後も各工程との連携などにも力を入れていくという。

経営支援DXのX Mile、負荷増す運送事業支援に注力

物流事業者向けのクラウドサービスを提供するX Mile(クロスマイル、東京都新宿区)の安藤雄真氏(物流プラットフォーム事業本部ゼネラルマネージャー)は、規制的措置や下請法の適用範囲の拡大検討に言及し、物流会社の役割が変化しつつあることを指摘。物流事業に携わる各企業のデジタル化の動きも進んでいる現状を機に、法令順守を基盤としながら「物流の効率化」「運送の可視化」を推進することが求められていると語った。

▲X Mileの安藤雄真氏

安藤氏からは、ドライバー労働時間の減少を実感しているのはトラック運送業界で6割程度とのアンケート結果から、さらなる取り組み推進の必要性を示す。ドライバー労働時間管理のデジタルソリューションによる可視化、一元化などは避けて通れない。

特に運送契約での書面義務化など煩雑化する業務について、アナログのままで事業を継続できるかは検証が必要だ。同社のクラウドサービス「ロジポケ」では、日常業務の案件管理の結果が、そのまま実運送体制管理簿の自動作成に対応する機能など、運送事業者に課される新たな義務に対しても負荷なく対応できるDXサービス提供で、運送事業をサポートすることが紹介された。

運送事業の大多数を占める中小零細にとっても、DX導入は意味があり、運送サービスの質向上による生き残り戦略や安全教育など、規模の小さな事業者によるロジポケを活用した物流改革への取り組みも確実に広がっているという。DXに取り組む目的を正しく捉え、自社課題を把握した体制を整えておくことは、将来的なM&Aなどの事業戦略が必要となったときにも基盤となる。安藤氏は、将来の企業間連携などを見据えてデジタル化推進しておくことも重要な視点だとの見解を示した。

運送手配サービス・ハコベルが貢献する多重下請構造是正

多重構造の是正に向けては、下請け委託の階層制限なども議論されており、求荷求車サービス、貨物利用運送業のあり方も問われており、ハコベル事業の立ち位置も注目される。

輸送手配サービスを提供するハコベル(東京都中央区)の渡辺健太氏(ハコベル物流DXシステム事業部カスタマーサクセス部部長)は、多重下請け構造是正はハコベルにとって「追い風」だという。多重構造の改革は、ハコベル事業にとっても目指すところであり、これまでのピラミッド型の発注構造ではなく、ネットワーク型への業界構造転換を目標に据え、荷物をただ右から左へ流すのではなく、ハコベル自身が運送責任を担って運送品質向上を目指す。

▲ハコベルの渡辺健太氏

新たに義務化された法令に対応する発注と配車管理の透明化、配車業務の効率化によって、政府の目指す多重構造の是正と効率化の両面での貢献に取り組む。車両マッチング事業では実運送体制管理簿、標準運送約款に則った発注方法への対応、運賃と付帯業務を切り分けて依頼業務を明確化する準備を進める。利用運送事業が岐路に立つだけに、絶えず変化する規制の内容・対応などへの最新の取り組みを模索しているのがハコベルだとも言えるだろう。

中小にとっては交渉の難しい適正料金の収受においても、ハコベルのプラットフォームを基盤にすることがサポートとなるのではないかと語り、誰もが共同で運送車両を確保できるオープンパブリックプラットフォームとしての立ち位置を明確化した。

25年の物流大予想、逆境だからこそできる物流サービスもある

最終セッションでは、ローランド・ベルガーのパートナー小野塚征志氏、運送事業支援ツールを展開するAzoop(アズープ、東京都港区)代表取締役社長CEOの朴貴頌氏、ウイングアーク1stの加藤氏に、本誌編集長・赤澤裕介と、編集委員の刈屋大輔を交えて、「2025年大予想」をテーマに議論した。

小野塚氏は、25年は今までとは違う「DX」がキーワードだと語る。このDXはデジタルトランスフォーメーションではなく、デッド・オア・アライブの「D」、クロスロードを示す「X」のDXであり、未来を見据えた事業戦略に取り組めるかが生き残りと成長の分岐点になるという。朴氏もまた、行動を起こせるかどうかで違いが明確になる1年になるだろうと語り、決意と決断が迫られ、やるかやらないか、やるかやられるかが問われるとの意見が共有された。

▲議論の様子。(左から)赤澤、刈屋、ローランド・ベルガーの小野塚征志氏、Azoopの朴貴頌氏、ウイングアーク1stの加藤氏

多重下請け構造の是正が業界に与える影響についても議論された。小野塚氏は多重構造の見直しによってドライバーの賃金水準向上と人材確保につながること、デジタル対応など適正な運送事業者の見極めが進む可能性を語る。また、下請法が荷主へと適用拡大することでは、事前の契約にない現場作業などが明確になり、荷役のメニュープライシングが進むのではないかと予想する。運送事業にとってそれを追い風とできるかできないかは、運送会社が原価計算に基づいた経営ができるかどうかもあらためて問われることになるかもしれない。

本来の意味での物流DXに関する議論では、加藤氏は、デジタルによる見える化は、運送事業者のオープンな競争にもつながるとして、データをためることからはじめることの重要性、加えて連携構築には国のイニシアティブも必要と訴える。中小運送事業にとってDX導入の難しさが指摘される状況について、小野塚氏は運送事業者によるデジタル導入は事業体力の問題ではなく、経営者の導入するかしないかの決断、才覚とやる気に頼るところが大きいと指摘し、事業規模を理由にするのは「甘え」とまでいう。

近未来の物流イメージについては、加藤氏はデータがつながることでよりスムーズで効率化した未来のあるべき物流像を提起、朴氏は輸送サービス品質の評価を可視化・データ化するサービスがあっても良いのではと語る。

小野塚氏は、高齢化先進国である日本が、それに対応した物流サービスを構築することができれば、海外に販売できるのではないかと語り、逆境だからこその前向きなアイデアや取り組みを促した。

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