ロジスティクス自民党の高市早苗氏が日本初の女性首相として就任した。トラック議員連盟の一員でもある高市氏の政権発足を受け、物流業界では燃油税の軽減や中小支援、法制度改革への期待が広がる。一方で、業界再編や現場への浸透など、課題を冷静に見つめる声も上がっている。(土屋悟)
軽油税軽減で賃上げの原資確保を
フジホールディングス(東京都港区)執行役員の川上泰生氏は、高市政権に大きな期待を寄せる。「高市氏は日本初の女性総理であり、トラック議員連盟にも参加されている。業界の声を理解し、行動してくれると期待している」と語る。「特にガソリン税・軽油税の軽減を早期に実現してほしい。トラック運送業は高コスト体質になっており、経営を支える施策が必要だ」と訴えた。
また「慢性的なドライバー不足のなか、人材確保には賃上げが不可欠。適正な運賃収受を進めて収益体制を整え、コストを圧縮する努力が求められている」と現場の実情を述べた。「トラック運送業は社会のライフラインであり、公共性の高い分野。国内産業の勢いを鈍らせないためにも、運送業の経営改善に向けた手を打ってほしい」と強調した。
燃油高騰、軽油税の軽減を求む
鋼材や建材の運送を行うホレスト(埼玉県入間市)常務取締役の林利也氏も、燃料費高騰が経営を圧迫している現状を指摘する。「燃油費の高騰が運送業の経営を直撃している。軽油の軽減税率の適用を一刻も早く進めてほしい」と訴え、「緑ナンバーの営業トラックには高速料金の優遇を適用し、日本の産業を支える物流への負荷を軽減してほしい」と語る。
一方で、「2024年問題をはじめ物流関連法制度の改正は、全体として業界の健全化を推し進めるもの。働きやすい制度整備が進む今、自社でもそれに対応した経営を進めていきたい」と前向きな姿勢を見せた。
暮らしに届く政策を
進正運輸(東京都足立区)社長で運送業の若手経営者グループネクストジェネレーションの代表を務める山本大知氏は、燃油対策と生活実感を伴う政治への期待を口にする。「高市氏はガソリン、軽油などの燃油類の減税など、トラック運送業の経営層に響く施策を目指すとしており、期待している」と話す。
「従業員は皆、物価高で苦しんでいるが、給与を上げても社会保険料や税金が高く、手取りが増えない状況。働き手が暮らしが楽になったことを実感できるような政治を目指してほしい」と訴えた。
業界の課題は事業者過多にある
福岡県粕屋町で運送業を営むGラインの荒牧敬雄社長は、業界構造そのものの見直しを求める。「業界が抱えている問題の大きな背景は、事業者があまりにも多すぎるということ。いろんな課題の中心はそこにある」と語る。
荒牧氏は、現在検討が進むトラック新法に盛り込まれた事業更新制の導入を歓迎。「業界の新陳代謝のためにも必要な取り組み。ちゃんと働いている人たちが誇りと安心と自信を持てるように、業界をアップデートしていくべきだ」と力を込める。
「運送業は法改正と向き合いながら成長してきた。変化に対応しながら適正化を進め、“物流は止めちゃいけない”という使命を果たしていきたい」と話し、「業界が良い方向に進む施策であるなら、それを止めずに推し進めてほしい」と冷静に述べた。
女性首相に“現場からの制度”を期待
定温物流や家具の組み立て配送を手がけるハンナ(奈良市)の下村由加里社長は、産業基盤としての物流支援を求める。「産業の基幹となる物流への手当はまだ不足している。トラック議連にも参加している高市氏が総理となったことで、そこへの手当てを進めてほしい」と話す。
「ガソリン税よりも軽油税の軽減こそ急務。法人税の優遇も含め、運送業の負担軽減を進めてほしい」と求めたうえで、「女性に配慮した制度は上から目線になりがち。初の女性首相のもと、女性の自立を助ける政治を期待している」と述べた。
政治任せではなく、自ら動き発信する物流業界への変貌を
カワキタエクスプレス(三重県亀山市)社長で日本貨物運送協同組合連合会副会長の川北辰実氏は、高市首相の就任を「男気を感じる」と歓迎する。「高市氏の総裁選の演説には、語弊があるかもしれないが女性ながらも男気を感じた。政治にできることは多いが、それだけを当てにしてはならない」と指摘し、「人手不足や運賃の安さを嘆くだけでなく、運送業者自身が世論を巻き込み、消費者を味方につけるような発信をしていくことも両輪で進めていく必要がある」と語った。
末端に届く支援を
長崎県で青果物物流を担う匿名の運送業者は、政策議論と現場実態の乖離を懸念する。「国土交通省の検討会に出席するのは大手企業ばかり。中小零細の現状がどの程度伝わっているのか疑問だ」と話し、「大手がコンプライアンス上できない仕事を中小が担っているのが現状。法制度の導入自体は歓迎だが、末端の事業者の状況がいつ改善されるのか見えてこない」と訴える。「高市政権には、こうした現場の声を吸い上げ、実効性ある支援を進めてほしい」と締めくくった。
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