行政・団体第104代内閣総理大臣に高市早苗・自民党総裁が選出された。女性初の総理として、停滞する日本経済をどう動かすかという重責を担うことになった。高市氏はこれまで経済安全保障や科学技術政策に注力してきた政治家であり、その実務志向が物流分野でどう発揮されるかが注目される。
国土交通大臣には金子恭之氏、経済産業大臣には赤澤亮正氏が就任する見通しだ。金子氏は国土交通副大臣や道路調査会長を歴任し、赤澤氏は前経済再生担当大臣として経済政策の実務に携わってきた。物流は構造的な転換点を迎えており、経済や地域の持続性を考えるうえでも物流機能の安定と強靭化は避けて通れない。(編集長・赤澤裕介)

▲記者の質問に応じる新国交大臣の金子恭之氏
物流現場はいま、構造的な転換点を迎えている。2024年問題によってドライバーの時間外労働が制限され、輸送力の減少が現実のものとなった。荷主企業も運送事業者も「これまでの延長線上では立ち行かない」という認識を共有し始めている。物流を社会の基盤として見直す覚悟がようやく醸成されつつある。
その中核にあるのが「トラック新法」である。適正原価制度の創設、許可更新制の導入、多重下請けの是正──制度はすでに形を得た。次は「魂を入れる」段階だ。現場で原価に基づく運賃交渉が実際に行われるか、荷主が取引慣行の見直しを進めるか。法改正が単なる理念で終わらず、取引現場に根づくかどうかが、この改革の成否を決める。
制度はできた。だが、それを機能させるための政治の後押しが今まさに問われている。
高市首相はガソリン減税に加え、軽油引取税の暫定税率撤廃にも言及した。物流業にとって燃料コストは生命線であり、この発言は業界に一定の期待感を与えた。だが、今後導入が検討されている走行距離課税(ロードプライシング)との関係も無視できない。
もし軽油引取税の引き下げを財源の名目で距離税の形に置き換えれば、結果的にトラック輸送への負担が増す懸念がある。環境負荷低減や公平な課税を進めることは重要だが、「物流を支えるトラックの足を縛る税制」になってはならない。慎重な制度設計が求められる。
金子国交相には、トラック新法を運用段階でどう根づかせるかという政治判断が問われる。形式的な通達行政ではなく、現場に即した監督と改善の仕組みを作り、実効性を確保することが求められる。
さらに、災害対応やインフラ更新、モーダルシフト促進など、国交行政の多層課題をどう束ねるか。現在、これまでの5年間の総括と次期重点分野を設定する次期物流施策大綱の策定作業が進行中だ。新大臣がその骨格をどう方向づけるかが、政策の継続性と刷新の両面で注目される。
赤澤経産相には、産業構造と物流構造を結び直す役割が期待される。製造業の国内回帰やGX(グリーントランスフォーメーション)・DX(デジタルトランスフォーメーション)の推進が進むなかで、ボトルネックは依然として輸送・保管・人材にある。経産省が物流を「周辺」ではなく「産業基盤」として扱う視点に立てるかどうか。エネルギー、デジタル、データ標準化、人材育成など、経産行政の中で物流を横断テーマとして統合できるかが問われる。
26年4月末までに大手荷主には「物流統括管理者」(CLO)の選任が義務づけられる。物流の最適化を経営課題として位置づけるこの制度は、持続可能な物流を確立するための実行段階に入ったことを意味する。
荷主企業と物流企業が正面から物流の持続性に取り組む姿勢を、社会と政治がしっかりと支えることが欠かせない。CLOをサプライチェーン、企業戦略、物流現場をつなぐハブとして機能させ、日本の産業競争力強化につなげられるかどうかも、今後の大きな試金石になる。
新内閣が直面するのは、経済・地域・社会の底を支える仕組みをどう再構築するかという現実的課題である。災害時の物流確保、老朽インフラの更新、港湾・空港・鉄道の連携強化、そしてドライバーの労働環境改善。いずれも単一省庁の取り組みでは完結しない。官邸主導の横断的政策運営が不可欠だ。
政治に求められているのは「旗を掲げる」ことではなく、「結果を出す」ことである。物流改革は政権の看板ではないかもしれないが、その実行は国民生活の足元を支える。軽油減税の議論もトラック新法の適用も、最終的には「ものを運ぶ人」と「それを支える社会」の両方を守るための手段である。
国民が望むのは実感だ。物流が止まらず、地方が維持され、暮らしが少し楽になる。そんな当たり前を取り戻せる政治こそ、いまこの国に必要とされている。高市内閣には、物流という生活インフラの再生を通じて、国民の信頼を取り戻す覚悟が問われている。
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