
▲石破茂首相。車座対話にて物流業界の構造改革に向け取り組みを推進する考えを示した。(出所:政府広報オンライン(https://www.gov-online.go.jp/press_conferences/prime_minister/202503/video-294892.html)内の動画より抜粋、以降の画像も同様)
行政・団体石破茂首相は14日、首相官邸で開催したトラック運送業界との車座対話で、「物流の常識を根本から変えていく」と述べ、トラック物流Gメンの強化、改正物流法と下請法改正法案の施行、省力化投資促進プランの策定などの具体策を示した。政府は物流業界の構造改革に向け、トラック運送事業の取引環境を抜本的に見直す考えを示した。
首相は昨年拡充した「トラック物流Gメン」による現場指導をさらに強化し、不適正取引を改善すると表明。また、4月から施行される改正物流法と先週閣議決定された下請法改正法案を活用し、荷主に価格転嫁や取引適正化を促すと述べた。さらに、省力化投資促進プランを策定し、物流事業者の設備投資を後押しするとともに、物流政策の基本方針となる「総合物流政策大綱」の見直しに早急に着手する考えを示した。
車座対話にはトラック運送業界の関係者が出席し、石破首相をはじめ赤澤亮正経済再生担当相、中野洋昌国土交通相ら政府側と意見を交わした。

▲トラック運送業の事業許可更新制度の創設を訴えた全ト協・坂本克己会長
対話に参加した全日本トラック協会の坂本克己会長は、改正物流二法に続いて「もう一本、法律が必要だ」と述べた。これはトラック運送事業許可の更新制度創設に向けた特別措置法案を示唆したものだ。同制度は、一度取得すると行政処分で取り消されない限り永久に営業を継続できる現行の許可制度を改め、法令違反を繰り返す悪質な事業者を強制的に退場させる仕組みで、全ト協はこれまでもこの制度創設を政府に要望しており、本誌も継続的に報じてきた。
参加者からは現場の実情に関する意見が相次いだ。マキタ運輸(宮崎県都城市)の牧田信良社長は「南九州から消費地への農産品輸送は飼料や肥料の価格高騰で運賃交渉が難しく、ことしは特に大幅な賃上げが必要だ」と述べた。加えて、都市部では休息施設が不足し、ドライバーが路上で休息を取らざるを得ない状況があると報告した。
ボルテックスセイグン(群馬県安中市)のドライバーは、国が標準的な運賃を示したことで段階的に給与が上昇しているが、「長距離輸送のドライバーは労働時間規制の影響で輸送回数が減り、実質的に収入が減少している」と訴えた。さらに、荷主が指定する納品時間に対応するため、周辺に待機場所がなく、パーキングエリアで待機するなどの課題も示した。
フジトランスポート(奈良県奈良市)の松岡弘晃社長は人材不足の課題に対し、SNSを活用した採用活動の成功事例を詳細に説明した。同社では10年前からSNSに注力し、特にYouTubeを活用した広報活動を行っている。社内にYouTuberとして活動する社員を公認し、ドライバーの日常や車両整備の様子を動画で公開した結果、若年層や女性からの応募が増加したという。「昨年1年間で従業員650人を採用し、うちドライバーは499人を採用した。現在、採用には困っていない状況だ」と具体的に述べた。また、従来のハローワークでの求人情報を丁寧に記載することや、ホームページの求人内容を充実させることで採用効果がさらに高まったと報告した。
福山通運のドライバーは、業界における若い世代や女性の働きやすさ向上に向けて「免許取得やキャリア形成支援、柔軟な勤務体系、女性専用の休憩施設整備が重要」と提案。2027年度に導入予定の大型トラックのオートマチック車限定免許制度についても、「免許取得費用の負担が軽減され、若い世代の参入促進につながる」と述べた。
石破首相はこれら参加者の報告を踏まえ、会合の締めくくりに「政府として物流業界の課題を踏まえて迅速に制度を整備する」と述べ、荷主との適正な価格交渉や賃上げ努力を業界側に求めた。

▲車座対話に参加したドライバーやフジトランスポート・松岡弘晃社長(右)らと記念撮影する石破首相(中央)
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