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新法成立受け運送会社・IT・荷主などの反応は

2025年6月4日 (水)

話題4日、参議院でトラック新法(貨物自動車運送事業法の一部を改正する法律案、貨物自動車運送事業の適正化のための体制の整備等の推進に関する法律)が可決された。2024年末に全日本トラック協会の坂本克己会長が打ち出した事業更新制のほか、適正原価を下回る運賃の規制、再委託回数の制限など、物流業界の課題に切り込む内容となっている。

物流業界の潮目が大きく変わる法整備であることから、本誌は改正案成立直後、編集長・赤澤裕介と編集委員・刈屋大輔の緊急特別対談を配信。生配信中にフジトランスポート(奈良県奈良市)の松岡弘晃氏が電話出演した。

■緊急特別対談

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松岡氏は多くの面では法改正を歓迎するとしたが、「業界の健全化のためにも許可更新制度などは賛成だが、中小は事業が継続できないのではないか」と疑義を提示した。また、「実運送事業者が適正な運賃を収受するためには多重下請け構造の是正が重要だが、地方、離島などでは孫請け、ひ孫請けは必至となるはずで、実際の運用においては課題がある」とした。また、繁忙期には「トラックが見つからず、つてをたどってやっとトラックを探しているような状態なのに、単純に多重の受委託を制限するのでは、物流が成り立たない」という状況を紹介し、「物流の現場の状態を踏まえ、慎重に進めるべきだ」と見解を示した。

さらに「適正運賃を運送事業者が収受したとしても、それがドライバーの給与に反映されなければ、現場のドライバーの待遇改善にはつながらない。現状でも運賃を値上げしても、ドライバーの給与が上がっていないケースが見られる」という現状を踏まえ、「この場の思いつきではあるが」と前置きした上で、「運賃の何割をドライバーの取り分にする、などの現場の待遇改善に直結する施策も必要ではないか」とアイデアを披露した。

運賃の下限を定めるということについては、「コスト構造は企業ごとに異なる。東京-大阪の幹線輸送の相場はおよそ15万円だが、当社では10万円で受けても利益が出るコスト構造になっている。一律に運賃を定めるのではなく、企業の実情に応じた対応が必要だ」とし、「そもそも運送業者はコスト管理がいい加減であったり、ほとんど何もしていないということも多い。単に制度にすがるのではなく、コスト管理を徹底して利益が出る経営体制を整えることも必要だ」と、運送事業者自身の自助努力も必要であるとの見解を示した。

これと並行し、本誌では実運送を担う運送事業者、荷主企業のほか、運送業向けシステムベンダー、物流業界に特化したM&Aコンサルティングファームに取材。新法成立に対する見解を聞いた。各社のコメントは以下の通り。

NBSロジソル(大分県日田市)・河野逸郎社長

新法の成立は基本的にはポジティブに捉えており、業界にもよい影響を及ぼすと考えている。物流の問題解決には物流業者だけが頑張ってもダメで、荷主の積極的関与と、運送事業者の自助努力という両輪がないと前に進まない。運送事業者が利益を上げていくためには、適正な運賃、コストが必要。荷主に対しては適正運賃の支払いを求めるとともに、利益を上げる経営を行わない運送事業者は淘汰されていくことになる。

多重受委託構造のなかでなければ仕事が見つからないところは、事業の継続は難しくなる。多重受委託が無くなれば、実運送事業者の運賃が上がるという効果はもちろんあるだろう。しかし、何かを運ぶときに車両が見つからないから受委託が何層にもなるというのは、現実としてありえることだ。多重構造を制限したからといって物流や運賃が適正化するものでもない。「物流を止めない」ためには、過度な多重受委託構造を止めながら、現実の物流の現場でいかに着地させていくのかが課題となるだろう。

ハンナ(奈良県奈良市)・下村由加里代表

こうした法律は当然施行されるべき。しっかりと法を順守し、それにかかるコストをしっかりと運賃に転嫁し、荷主と交渉することが品質を上げる。安かろう悪かろうで、ただのコストにしかならない物流では先行きがない。更新時の監査に向けた事務作業が増えるという意見もあるが、法律に則った運営が現時点でできていないというのが、そもそもおかしい話でもある。中にはDX導入などが必要になるケースもあるかと思うが、そうした面に対しては行政からの支援や補助金などでの手当ても必要だろう。

Mirai計画(愛知県みよし市)・柳川佑平代表

規制緩和によって国内の物流業者は6万社にまで膨れ上がったが、法令を順守しない業者も多くなった。ダンピングすることで安く仕事を受けるため、そうした事業者のドライバーは安い報酬しか受け取れない上、質の向上も望みにくい状況になっている。今回の法整備は、法令に沿った適正な経営を行っている事業者にとっては、歓迎すべき状況へと変わっていくシグナルに見えているはず。健全に経営される運送事業者の、品質の高いサービスがこれからの日本の物流を支えていくだろう。

智商運輸(岡山市東区)・河合智哉代表

新法成立は業界にとって良いことで、運送会社で嫌という人はいないはず。しかし一方で、リスクもあるのではないか。今の運送会社はキャッシュフローが悪く、企業体力をいかに温存させていくかが現在のフェーズだ。赤字企業は退場、成績が良い会社のみが残るといった状況を煽る可能性もある。

経営状況が良い会社、悪い会社が二極化するなかで、その対立軸を煽り、全体として業界が縮小化する危険性もある。同じような問題を抱える建設・土木業界は、実際に縮小している。新法が吉と出るか凶と出るか、心配もある。しかし、全体としてはメリットは大きいことは間違いない。このようなリスクを回避するためにはDXしかないと感じている。

今は本気で物流を考えないといけない時代で、自ら客を作っていく努力が必要だ。そこには企業の努力と工夫も必要で、受け身ではなく提案力が重要だ。運賃交渉だけでなく、客の問題・課題を聞き、具体的な解決策として効率的な物流の提案をし、客に理解してもらってきた。荷主との関係を構築するうえで、チャンスと考えている。

ホレスト(埼玉県入間市)・林利也常務取締役

多重下請けの是正なども盛り込まれ、実運送を行う事業者への運賃も上がると見込まれ、肯定的に受け止めている。またこれにより、荷主企業に対しては改めて運賃交渉が可能と捉えており、適正運賃収受に向けた前向きな動きが取れそう。事業更新制で、運賃をダンピングし低品質な運送を提供する業者は排除されていくはず。業界の健全化が進むと考えている。

東亜(さいたま市大宮区)・松岡拓未取締役・運送事業部部長

トラック新法の成立は、物流業界にとって重要な一歩。取引の適正化と透明性の向上は、業界全体の健全な発展に大いに貢献すると思う。特に、運賃規制や再委託回数の制限は、運送事業者の利益を守るだけでなく、消費者にとっても安定したサービスを提供する基盤となる。これにより、より持続可能な物流システムの構築が期待される。今後の施行に向けて、業界全体での認識の共有と協力が求められると思う。

X Mile(クロスマイル、東京都新宿区)・安藤雄真執行役員(DX事業管掌)

本新法により、物流業界の変革が一層加速することを期待している。日本の物流はいま、まさに変革のただ中にあり、運送事業者には経営の見直しがあらためて求められている。経営改革が進まなければ、事業の更新が滞り、結果としてドライバー離れが一段と進むリスクも否めないだろう。

当社は今回の制度改正を「変革」ではなく「進化」への契機と捉え、本質的な物流改革と、持続可能な業界構造の実現に向け、現場から経営まで、業界・企業の変革を一体で支援していく。

スピカコンサルティング(東京都港区)・山本夢人取締役

中小運送事業者にとっては、経営不安がより顕在化していくはず。そのため、本当の意味でより経営を深く考える機会になるのではないだろうか。たび重なる制度改正で業界構造が変化した薬品業界同様、M&Aも含めた物流業界再編がさらに本格化すると考えられる。

YKK AP・岩崎稔執行役員 CLO(最高ロジスティクス責任者)

当社はこれまでも、標準的運賃に沿った運賃引き上げ、料金適正化について取り組みを実施してきた。今後も荷主責任を果たすことに努めていくが、仮に運賃規制が、現行の標準的運賃水準の95%程度まで引き上げられるとすれば、荷主企業にとっては厳しいものとなる。トラック新法の主旨や意義については十分に理解し、2024年問題の解決に向けた多重下請構造の是正、物流業界の健全化に必要な然るべき取り組みとして評価している。