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寺岡洋一全ト協副会長に本誌編集長が緊急インタビュー

新法成立、全ト協次期会長が訴える即時実行の覚悟

2025年6月4日 (水)

話題4日、参議院本会議で「改正貨物自動車運送事業法と関連法」(いわゆるトラック新法)が可決・成立した。全日本トラック協会(全ト協)副会長にして、次期会長に内定している寺岡洋一氏に対し、LOGISTICS TODAYの赤澤裕介編集長が電話インタビューを実施。今後の課題とそれに向きあう覚悟、業界への期待を聞いた。

▲全日本トラック協会・寺岡洋一副会長

新法成立を受けた初期評価

──まず、新法成立をどのように受け止めているか。


寺岡氏:率直に言って、まずは成立してよかった。長年放置されてきた運賃ダンピングや無許可営業(いわゆる“白トラ”)といった悪質な行為がはびこるなかで、業界の“質の低下”を食い止めるための重要な一歩になると確信している。国土交通省には、法に定められた施策をスピード感をもって粛々と進めてもらいたい。

──「改正貨物自動車運送事業法と関連法」は運送事業許可に更新制を導入したり、運賃が値下げ競争に陥らないように規制をかけたりと、これまでの運輸行政から大きく転換してトラック運送事業者の質の向上を図るものだ。また、新法の成立に向けてトラック運送事業者を代弁する立場にある業界団体として、坂本克己会長をはじめとする全ト協が尽力した点にも注目している。


寺岡氏:坂本会長の努力と尽力は大変なものだった。国交省は質の向上というよりも「質の低下」を懸念し、それを食い止めねばならないという意味合いの方に重きを置いているのだろう。運賃ダンピングや白トラ(無許可営業)といった悪質な行為が運送業界の質を下げているのは明らかであり、こうした行為に手を染める悪質業者に業界から退場してもらうという点で、(全ト協としても国との間で)コンセンサスができている。

──新法の柱のひとつである事業許可更新制度の導入などにより、6万3000社まで膨らんだ事業者数が大幅に減少する可能性もある。


寺岡氏:更新制によって5年ごとに許可が更新されるかどうか、すべての事業者がチェックされることになる。事業者の「質の低下」に歯止めをかける効果が見込まれる点はいいののだが、実際の導入まで3年間の猶予期間が設けられたのは長すぎると感じている。この点については、緊張感に欠けた判断だと思う。

──寺岡洋一副会長はすでに全ト協の次期会長として正式に内定しているが、「改正貨物自動車運送事業法と関連法」成立直後の全ト協の舵取りを任されたという意味で、ただちに具体的な制度設計や事業者へのわかりやすい説明などに真正面から向きあうことが求められる。その結果いかんで「トラック新法」の評価も大きく左右されるのではないか。


寺岡氏:正式には6月26日の全ト協総会以降、会長に就任することになるわけだが、ご指摘のように課題は山積しており、それらの解決に向けた取り組みも重大な意味を持つと理解している。身が引き締まる思いだ。

運賃規制と多重委託構造の是正

──業界団体の次期トップとして、また、日本経済を支える最も重要な物流機能を担う産業のけん引役として、「改正貨物自動車運送事業法と関連法」の意義を会員事業者やユーザーである荷主にどう伝えたいか。

寺岡氏:すべて重要だが、特に運賃規制の意義は大きい。現行の標準的運賃がどのように運用されているかを考えると、実際にはその8割にも達していないという印象がある。一方、新たな運賃規制では下限が、基準で定められる運賃の95%になりそうだと聞いている。もしそうなるなら、この95%という規定が荷主に義務付けられるわけで、従来の運賃水準を考えれば、ドライバーや協力運送事業者への支払いも高い水準で担保されることになる。

──運賃規制を有効に機能させるためには、いかに実効性を高められるかがポイント。そのための施策は。

寺岡氏:だからこそ、新法では更新制を導入して悪質な事業者に退場を促し、適正な事業者数で適正な競争環境を目指し、運賃規制が機能しやすくするわけだ。この規制を守らない荷主に対しては社名公表までやると。

──従来の実勢運賃が標準的運賃の8割前後だとすれば、そこから2割近く引き上げられることになる。荷主にとっては、いかに上昇する運賃を製品価格に転嫁していくのか、さらなる物流コストの大幅な上昇を織り込まなければならなくなる。

寺岡氏:その通りだ。適正な運賃をしっかり原価として認識してもらい、製品価格に転嫁していただきたい。

──ただ、せっかく運送取引の上流で、そのような措置が講じられても、運送業の多重委託構造が改られなければ、末端の実運送事業者はその恩恵を得られなくなる。そこで必要になるのが元請け、1次請け、2次請けまでに制限する規制だが、その影響をどのように見ているか。

寺岡氏:元請けや1次請け事業者が手数料を明確に示すことによって、2次請けまでは安定的な運賃が収受できるようになると考えている。これまで3次請け以下で仕事を受け負ってきた事業者にとっては、許可更新制に伴う適正化の判定を受けるよりも前に、立ち行かなくなる可能性がある。更新制度の判定によってD評価やE評価を受けて退場を強いられるのはある意味、経営者の自己責任とも言えるが、これまで3次請け以下で仕事をしてきた事業者にとって厳しい改革となるだろう。

──全ト協の次期会長として、しっかりと向き合っていただきたい課題になりそうだ。

寺岡氏:まさに容易ではない課題だが、逃げずにブレずに皆の意見を聞きながら向き合っていくつもりだ。

──最後に、国交省をはじめ行政に望むことは何か。

寺岡氏:繰り返しになるが、「スピード感」を第一に挙げたい。3年間の猶予期間は制度構築に必要な時間を確保する意味では理解できるが、業界の目先の課題、いわゆる“2024年問題”への対応を考えれば、施行を前倒しする取り組みも検討すべきだ。行政と業界団体が緊密に連携し、実効性ある運用体制を早急に整備すれば、この法改正は“絵に描いた餅”にならず、現場に確かな変化をもたらすはずだ。

成立したばかりのトラック新法は、まさに“始まり”であり、これからの実効性ある運用が問われるフェーズに突入した。寺岡洋一副会長が次期会長として掲げる“即時実行”の覚悟が、どこまで現場に浸透するかが今後の焦点となる。

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