ロジスティクスLOGISTICS TODAYは18日、第6回となる「物流議論」を開催した。今回は「第1回CLOサロン」との合同開催となっており、CLOサロンのワークショップに続くセッションとして行われた。

▲(左から)奥住智洋氏(フィジカルインターネットセンター事務局長)、宮地伸史郎氏(野村不動産・都市開発第二事業本部物流事業部副部長)、赤澤裕介・本誌編集長(LOGISTICS TODAY社長)、深井雅裕氏(日清食品常務取締役・事業統括本部長兼Well-being推進部長)、青柳竜介氏(Logistics & Supply Chain Executive)、池田祐一郎氏(シグマクシス・ディレクター)
第3回からはCLO(物流統括管理者、Chief Logistics Officer)を大きなテーマとして取り上げてきたが、ひとつかみにはそのあり方を語りきれないCLOが、サプライチェーン(SC)の中で役割を果たす際に何が壁になっているのかが議論された。
今回のモデレーターを務めたのは、LOGISTICS TODAYの赤澤裕介編集長と野村不動産の宮地伸史郎氏(都市開発第二事業本部 物流事業部 副部長)。ゲストにはCLO of the Year第1回受賞者である日清食品の深井雅裕氏(常務取締役・事業統括本部長兼Well-being推進部長)、そしてコカ・コーラ、医薬品メーカーのロジスティクス&サプライチェーン領域で活躍してきたLogistics & Supply Chain Executiveの青柳竜介氏が登壇した。また、CLOサロンに登壇したJPIC(フィジカルインターネットセンター)の奥住智洋氏と、来場していた経営コンサルティングのシグマクシスの池田祐一郎氏が飛び入りでの登壇となった。
CLOの役割を「定義」から「実装」へと深化
冒頭、深井氏が、日清食品における物流改革の取り組みを紹介した。カップ麺という「容積勝ち」商品を扱う日清食品では、重量物を持つ飲料メーカー(アサヒ、サッポロ、ネスレなど)との共同配送を実施し、積載効率を向上させてきた。その成果として、積載率90-96%という高水準を達成している。

▲日清食品・深井雅裕氏
しかし水平連携には限界があるとも指摘。「一対一の守秘義務契約では情報量が限られ、マッチングに時間がかかる。柔軟な物流対応も難しい」と課題を挙げた。将来的には、発着荷主が一体となった「フィジカルインターネット」のような共同物流の世界を実現するには、現在の枠組みでは不十分であるという。
さらに深井氏は、着荷主としての視点からも改革を実行している。資材納入のデリバリーオーダーを各工場ごとに分散して出していた非効率を見直し、本社に一元化。JA全農とのラウンド輸送による往復便の確保も行い、着荷主として物流全体の最適化を志向している。
深井氏は物流条件を「取引条件」の一部として再設計する必要性にも言及。「物流だけを改革しても限界がある。売買条件と物流条件を切り離さず、商習慣を見直し、消費者にとって持続可能で効率的なサプライチェーンを築くべきだ」と強調した。
この議論を受け、池田氏はコンサルタントの立場から「物流費の可視化ができていないために、合理的な議論が進まない。メニュープライシングによって供給制約の中でも需要を調整する仕組みは有効であり、物流にも応用できる」と賛意を示した。
青柳氏が語る「流通業界の垂直統合」論
元バイエル薬品、DHL、ブリストルマイヤーズなどを歴任し、豊富な実務経験を持つ青柳氏は、「垂直統合」こそが物流課題解決のカギであると説く。自身がコカ・コーラに在籍していた20年前、同社の物流構造改革のために業界再編の研究を行っていたとし、その成果が現在の視点にもつながっていると述べた。

▲Logistics & Supply Chain Executive青柳竜介氏
青柳氏は「物流構造を誰が主導するのか」という問いを提起。かつては製造業がサプライチェーン全体を支配し、物流もその一部として従属的に設計されていた。しかし今では製造業の支配力は相対的に低下し、流通やITサービス、データ基盤などが主導権を握る時代に移行している。にもかかわらず、物流コストの負担構造や契約慣行は過去の構造に依存したままであると指摘した。
その上で、「今後は荷主企業が“出す側”と“受ける側”の両方の立場を自覚し、調達・販売双方の最適化に責任を持つべきだ」と訴えた。
「CLO任命の壁」と経営層の無理解
続いて、赤澤編集長が会場の参加者に対し、「第1回CLOサロンでのグループディスカッションでは、どのような意見が出たのか」と質問を投げかけた。各グループの進行役を務めたJPICのメンバーからは、それぞれの議論の中心となったポイントが紹介された。
その中のひとつのグループでは、「CLOを任命すべきだ」という現場の強い期待がある一方で、「物流を経営課題として重要視していない」経営層との間に温度差があるという課題が共有された。また、「現在のCLO任命は、単なる物流部長の延長にとどまり、本来の役割とはかけ離れている」との指摘や、「CLOを導入している企業の事例を公開すれば、他社にも良い影響を与えるのではないか」といった意見も出された。
また、「物流業界におけるDXの進展には、CLOが現場目線だけでなく、長期的なビジョンを持つことが不可欠」という指摘もあった。デジタル標準化が物流改革の基盤になるとの声も上がっており、AI時代にふさわしいCLO像の再構築が求められていると言えそうだ。
LPDとの連携と「機能としてのCLO」
JPICの奥住氏は、CLOの真価は「自社物流の運営責任者」ではなく、「経営戦略としてのSCM構築」にあると強調。物流会社やSIerなど外部パートナーとの協業や、CLO同士の連携が不可欠であり、そうした連携を促し取り持つ存在を「ロジスティクス・プロデューサー」(LPD)と定義した。
奥住氏は「CLOとは“人”ではなく“機能”である。社内外の力を結集し、LPDとスクラムを組むことで、課題解決と企業価値向上が可能になる」と強調した。
可視化とメニュープライシングの実装へ
議論の総括として、着荷主・発荷主のいずれの立場でも、「業務プロセスとコストの可視化」が出発点になるとの共通認識が示された。物流費が見えなければ合理的な交渉や最適化は困難である。
さらに、池田氏が「メニュープライシング」の概念を紹介。物流の供給能力がひっ迫している中では、価格による需要調整が不可避となる。航空・ホテル業界のように、ピーク時の価格を上げ、オフピーク時に誘導する仕組みを物流にも導入することで、サステナブルなサービス提供が可能になるとの提言があった。
深井氏も「明確なゴールを最初に設定していたわけではない。問題に対応していたら結果としてサプライチェーン全体最適にたどり着いた」と述べ、理想論ではなく現実的なアプローチの中で変革が進んだと説明。「物流、サプライチェーンのデータが可視化されれば、それはあらゆるプロセスのプレイヤーが共有可能になる。全てのプレイヤーがパートナーとなることで、これまでなおざりにされてきたコストの削減も可能になる」と強調した。
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