環境・CSRトラック輸送は国内貨物のほとんどを担い、そのCO2排出削減は物流業界全体のカーボンニュートラル実現にとって避けられない課題である。国のグリーン成長戦略でも、次世代自動車の普及は重点分野とされ、商用EV(電気自動車)・FCV(燃料電池車)トラックへの転換が政策的にも後押しされている。

▲ことし、人気玩具トミカにもEV車が登場した(出所:タカラトミー)
街中では日本郵便の赤いEVバンや、佐川、ヤマトなど大手事業者のEV配送車両を見かけることも多くなった。海外のEVシフト動向や、乗用車領域の普及拡大を受け、商用でのEV化も自然な流れのように思えるが、いまだ配送領域に限定してEV車比率を少しずつ高めていくといった方向性が主流だ。エンジン搭載車と比較して高価な車両価格、航続距離の短さ、充電にかかる時間や、運用転換などは、現状のEV技術の課題である。ただ、こうしたEV運用のデメリットも、近距離の集配やルート配送、短距離での停車・発進の繰り返し、市街地での機動力で考えればメリットとなる部分も多い。今後、コストや充電時間改善に向けての開発取り組みも続くだろう。また、運送事業者や物流事業者にとっては、多くのデメリットを勘案しても、配送車両EV化は規定の取り組み。今後の企業価値創出において不可避の通り組みだ。
政府の「商用車等の電動化促進事業(トラック)」のほか、エリア課題の解決に直結するため、東京都をはじめとした自治体ごとのEV転換支援策も手厚い。また、EVインフラ整備、EV運行管理などのソリューション提供など、関連ビジネスの動きも賑やかだ。高速道路サービスエリアへの急速充電設備拡充も相次いで報道されており、EV普及の加速をビジネスチャンスとする事業者の参入も増えていくのが見てとれる。
ただ、現状のEV技術では、長距離幹線輸送、大型商用トラックの運用には適さないのも事実である。より長い航続距離で大型重量車両にも対応するFCVの研究も進目られている。水素を燃料とするFCVは、EV同様に走行時の炭素排出はゼロで、再生可能エネルギー由来の「グリーン水素」を使用すれば、さらに高い脱炭素効果が期待できる。大手自動車メーカーも開発に携わり、すでに乗用では市販もされているだけに、FC大型トラックの量産自体は、技術的には遠い未来の話ではなくなっている。
ただし、EV以上に高価な車両価格や水素製造や輸送にかかるコスト、水素ステーションの建設コストも高額なことなどが、普及に向けた課題として横たわる。グローバル市場を見据えた未来戦略として、多様な脱炭素車両への転換を検証していかなくてはならない。

▲FCVトラック
本誌でも、「EV」と比較して「FCV」の報道は少なく、まだ検証途上の感は否めない。一方で、港湾・海運領域では、荷役機器の水素燃料電池への換装などが進む様子も確認でき、水素活用の拡大に向けて、製造から輸送、運用までのサプライチェーン構築が検証されていることがわかる。2025年上半期も、グローバル市場を見据えた未来戦略として、多様な脱炭素車両への転換を検証が進められたといえるだろう。
海運・航空の脱炭素化、次世代燃料サプライチェーン構築
日本の輸出入を支える国際物流において、海運・航空の脱炭素化は避けられない課題である。2050年カーボンニュートラル実現を掲げる日本政府は、海運と航空をグリーン成長戦略の重点分野と位置付け、次世代燃料のサプライチェーン構築を進めようとしている。
国際貿易の9割を担う海運では、IMO(国際海事機関)において27年からGHG排出規制が決定した。外航船舶からのCO2排出を制限し、超過分に応じて負担金が加算、削減貢献に応じて報奨金を受けとれる制度の発行で、脱炭素取り組みを後押しする狙いだ。
本誌の上半期報道でも、LNG船、水素・アンモニア燃料船、風力推進技術に関して報告している。日本と欧州は海運の脱炭素対策を主導、IMOで採択された今回のゼロエミッション燃料船の導入促進制度も、日本が提案したものである。国内造船産業にとってもゼロエミッション船の技術の優位性が生かされ、海事産業の国際競争力強化が期待できる。日本の脱炭素造船技術や海運サービスが、あらためて経済成長の起爆剤になるとともに、世界的な環境対策における実効性の高い施策となることが期待できる。長期的な運航コストの安定化に加え、船主や物流企業は、環境対応をコスト負担ではなく競争力向上への投資と位置づける姿勢を強めていくのは間違いない。

(出所:日揮HD)
航空分野では、SAF(持続可能な航空燃料)の利用拡大が重要テーマだ。日本航空(JAL)や全日本空輸(ANA)はSAF調達を拡大し、国内外の供給体制整備を進めている。LOGISTICS TODAYでも、航空貨物需要の回復と並行して、SAF供給拠点の整備や国際調達の課題を報じた。ICAO(国際民間航空機関)のCORSIA(国際航空のカーボンオフセット・削減制度)への対応は、日本の輸出入競争力を確保する上で欠かせない条件である。
コスモ石油(東京都港区)は3月、国内初となる廃食用油由来のSAF製造施設を完成させ、日揮ホールディングス、レボインターナショナルと共同で設立したSAFFAIRE SKY ENERGY(サファイアスカイエナジー、横浜市西区)を通じて、4月から年間3万キロリットルの供給を開始することを発表している。すでにこのプロジェクトで生産された国産SAFが、JALやANAなどに供給、使用も開始されている。
次世代燃料のサプライチェーン構築は、エネルギー安全保障にも直結する。LNG船やSAFの安定供給は、脱炭素目標達成だけでなく、日本製品を世界市場へ安定的に届ける物流競争力の基盤である。25年上半期の各社の取り組みは、こうした視点を踏まえた長期戦略へのシフトを示唆している。
後編では、こうした上半期の動向を踏まえ、改めて環境対策への取り組み姿勢がどうあるべきかについてまとめてみたい。
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