ロジスティクスラストマイル配送サービスのDIAq(ダイヤク)は、セブン-イレブンの「セブンナウ」や、ENEOSのサービステーション(ガソリンスタンド)を起点としたラストマイル配送を行うLife Hub Network(ライフハブネットワーク)などの即配サービスを支える存在として成長してきた。運営するセルフィット(東京都新宿区)はバイク便のセルート(同)が設立した会社だ。
同サービスの目指す先は単なる配送事業にとどまらない。過疎や高齢化により人や車が不足し、バス路線や道路維持すら困難になりつつある地方の現実を前に、限られたモビリティーを人とモノの両方に活用する「地域モビリティ基盤」の構築を模索しはじめている。

▲(左から)セルフィットの松崎晋也COO、宇佐美典也社長
DIAqがラストマイル配送に参入したのは2016年。人手不足が深刻化し始めた時期で、14年には宅配便の遅延が顕在化し、17年には「宅配クライシス」と呼ばれる社会問題へと発展した。当時、セルフィットの松崎晋也COOは「物流を担う以前に、そもそも働き手そのものが減っていた」と振り返る。
そこで同社が目をつけたのが「ギグワーク」である。すでにアメリカではウーバーイーツがサービスをはじめていたが、まだ日本には上陸していない。国内でフードデリバリーが普及する前から、物流版ウーバーイーツを構想。正社員や専業ドライバーに依存せず、副業や短時間労働の担い手が柔軟に参加できる仕組みを作り上げた。
物流業界では近年、「フィジカルインターネット」という概念が注目されている。貨物の情報をインターネット上の電子情報のように流通させ、効率的に分散輸送を実現する構想だ。DIAqもまた、早くからAPIを公開し、セブンナウやライフハブネットワークとシステム連携を進めてきた。
フィジカルインターネットというとデータの標準化をしようという話になるが、これに対し松崎氏は「EDI(電子データ交換)のように一斉標準化を進めるのは現実的ではないのではないか」との疑念を示した。「DIAqではAPIを介して個別に接続し、連鎖的につながっていくことができる世界観。この方が“フィジカルインターネット的な世界”が実現しやすいのではないか」と語る。

▲DIAqのワーカーの3割ほどは自転車、徒歩などでコミュニティー内の配送を行う
現在、登録ワーカー数は全国で1万8000人に達し、その半数が首都圏に集中している。ワーカーの4割は軽自動車での配達。徒歩や自転車による地域密着型の配送も少なくなく、これも全体の3割ほどを占める。セルフィットの宇佐美典也社長は「こうした、生活圏の成員が荷物を届けるような物流のあり方は、運び手やモビリティーの数が限られている、過疎化が進む地方、中山間地域でこそ活用すべきだ」と語る。
実際同社でも、さまざまな引き合いがあり地方に目を向けてみると、モノ以前に「人が動けない」現実があったという。地方では人口減少と高齢化により、タクシーやバスといった移動手段そのものが消えつつある。地方どころか、東京・練馬区や相模原市などの人口が多い地域でも路線バスが廃止されるのが現状。さらに、交通機関が利用する道路などの公共インフラの存続も困難になっている。
宇佐美氏は「地方では人も車も限られている。だからこそ、交通と配送を一体化させ、お互いを支え合うエコシステムが不可欠だ」と語る。
貨物と旅客を同じ車両で運ぶ「貨客混載」は、過疎地の生活を支える現実的な解決策として注目され、複数の大手物流企業による実証実験が進んでいる。同社も国土交通省の実証事業に参加し、タクシー事業者と連携して交通空白地域を補完する取り組みを始める予定だ。
ただし、DIAqが描くのは自社主導の全国サービスではない。同社はクラウド基盤とAPIを公開し、地域の事業者や自治体が主役となってモデルを作り上げる「プラットフォーム型」の仕組みを構想している。
松崎氏は「地方ごとに事情が異なることもあり、一社が全国の旅客、輸送をサービス提供するのは現実ではない」とし、「DIAqは移動したい人とモビリティー、運びたいモノとモビリティーのマッチングプラットフォームとして提供。それを各地の事情に応じて利用してもらうのが現実的だろう」と述べた。同氏は続けて、「タクシーやバスが荷物も運ぶというのが現実的だが、物流会社や運送会社が旅客も行うということがあってもいい。さらに言えば、運輸と関係ない建設会社が、自社の車両を使って物流と旅客を担うというようなケースがあってもいいのではないか」と語った。
地域のプレーヤーが自立的に運営し、DIAqは基盤技術を提供する──その姿は「物流企業」というより「地域モビリティーのOS」というイメージがぴったりだ。
ラストマイル配送から出発したDIAqは、今や「物流だけでは解決できない課題」と正面から向き合っている。道路維持や公共交通の衰退、過疎地の買い物弱者問題──これらはすべて、人とモノの移動という根源的なテーマにつながる。
宇佐美氏は最後にこう語った。「物流を切り出して解決できるのは都会だけ。地方では交通と物流を一体で支えなければ持続できない。だからこそ地域に合わせた仕組みを、地域の主役と一緒に作っていきたい」
DIAqが描く未来像は、単なる「配送会社」の枠を超え、社会インフラを支える新しいモビリティー基盤の姿だ。地方の暮らしをどう維持するかが問われるいま、同社の取り組みは物流業界の枠を越え、日本の持続可能性そのものに直結している。
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