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千曲運輸、青果物流のデジタル基盤構築で待機削減

2025年10月7日 (火)

ロジスティクス「翌日配送」という新たな青果物流モデルに挑む千曲運輸(長野県小諸市)は、現場の効率化と働き方改革を両立させるため、デジタルの力を積極的に取り入れている。その次なる一手が、業務全体を支える新しい物流システム「ベジロジシステム」だ。

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▲ベジロジはスマホでQRを読み込むことで短時間で検品作業が完了する(出所:青果物物流DX推進協議会)

従来の検品業務は複写伝票を使用しているので、押印する作業に時間を奪われてきた。冬場は寒風に手をかじかませながら処理を行い、誤記や伝票の汚損が発生する事も少なくなかった。「現場では『伝票処理をするために物流をやっているのではない』という不満が常にあった」と同社の中嶋剛登社長は打ち明ける。そこで同システムではQRコードによる仕組みを導入。その結果、積み込みから納品までの業務時間が30分短縮され、年間960時間に相当する労働時間削減効果が見込まれている。「ドライバーからは『検品が楽になった』『夜中に細かい字を書かなくていい』と喜びの声が上がっている」と話す。

さらに、トラックの到着時間をリアルタイムに共有する仕組みも成果を見せている。ドライバーが出発ボタンを押すと、その情報は市場に瞬時に共有。渋滞で遅れる場合もリアルタイムで情報が反映されるため、市場は到着予測をもとに荷受けの順番を柔軟に変更でき、待機時間の削減につながる。「市場側からは『予約制より効果的だ』との評価を得ている。ドライバーの拘束時間を削減にも大きな効果がある」と中嶋氏は説明する。

▲ベジロジでは運送会社、産地名、数量などのほか予想到着時間を表示することができる(出所:青果物物流DX推進協議会)

こうした成果を背景に、同社は「青果物物流DX推進協議会」を立ち上げた。協議会には農協、卸売市場、システム会社、パレットベンダーなどが参画し、社会実装を進めている。「物流は1社だけで変えられるものではない。産地、生産者、流通業者が同じ方向を向かなければならない」と中嶋氏は強調する。従来の系統物流との摩擦は避けられないが、「農家の収益性を高め、フードロスを減らし、輸出につなげるためには、もう待っていられない」と意欲を示した。

協議会の場では、情報の共有や標準化が課題に上がっている。「青果物は産地や仲卸ごとにコードや呼び方が違い、統一が難しい。だからこそデジタル基盤を整備し、誰もが同じ情報でやり取りできるようにする必要がある」と中嶋氏は訴える。実際、同社が進めるプラットフォームは、トレーサビリティーの強化にもつながる。

▲千曲運輸、中嶋剛登社長

中嶋氏の視線はさらに先を見据える。「最終的にはフィジカルインターネットの概念とつながることを目指す。どの荷物も誰でも運べるようになれば、空車回送が減り、物流の効率は飛躍的に高まる。青果物物流がその先駆けになれるはずだ」と語る。

この挑戦は単なる効率化にとどまらない。「農産品は日本が誇る最後のメイド・イン・ジャパン。物流が変われば農家も強くなり、輸出も広がる。国内で食料を安定的に届けるだけでなく、海外市場にも価値を示すことができる」と言葉に力を込めた。

鮮度保持技術、冷蔵車両、デジタルプラットフォーム。千曲運輸の取り組みは、農産物流の新たな常識をつくろうとしている。フードロス削減や輸出拡大といった社会課題の解決に直結し、農業と物流の未来を支える可能性を秘めている。「無理を前提にした物流から、持続可能な物流へ。これを実現するのが我々の役割だ」と中嶋氏は結んだ。

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