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いざという時「動く」のか、BCPの実効性を疑え

2025年10月9日 (木)

記事のなかから多くの読者が「もっと知りたい」とした話題を掘り下げる「インサイト」。今回は「ソフトバンク、基地局停電に備えLPガス配送網構築」(10月7日掲載)をピックアップしました。LOGISTICS TODAY編集部では今後も読者参加型の編集体制を強化・拡充してまいります。引き続き、読者の皆さまのご協力をお願いします。(編集部)

ロジスティクス自然災害の激甚化は、新たな物流危機の1つである。予測精度の向上で準備できるものもあれば、地震のように予期できない災害への備えも必要である。災害時の行動マニュアルは準備していても、頼りにしているインフラが機能しない、そんな状況への対応は万全だろうか。

携帯基地局の停電対策を強化するため、ソフトバンク、伊藤忠エネクス、日本BCP(東京都千代田区)の3社が、可搬型発電機用LPガスの全国配送体制を構築し、運用を開始した。大規模災害や停電時にも通信を維持することを目的としたもので、燃料の確保から配送・設置までを一体的に行う仕組みを整えた。ソフトバンクが各地に配備するLPガスを燃料とする可搬型発電機を有効に機能させるため、伊藤忠エネクスはLPガス容器の充てんを担う。このLPガス容器の備蓄・配送・設置・回収を担うのが、日本BCPである。

石油小売事業を母体とした同社立ち上げの契機は、東日本大震災発生後の被災地支援に従事した経験だという。災害時を想定した石油の備蓄と配送を専門に行う企業としての仕組みを立ち上げ、2017年9月1日、「防災の日」をもって日本BCP設立に至ったというから、BCP(事業継続計画)を冠する企業名にも説得力がある。同社では災害時の燃料確保の重要性を訴え、緊急時の石油供給に対応できる燃料サプライヤーとしての体制を整えている。「全国を網羅する拠点からの供給ネットワークを整え、配送用タンクローリーは500台以上を確保。24時間365日の出動体制で災害時の燃料確保に応える」(同社担当者)。

同社が目指すのは「総合防災・減災企業」。企業のBCP対応を、同社の構築した石油備蓄と配送の供給網で支えるとともに、全国自治体・官公庁との連携も拡大する。「この9月には、警視庁と『災害時における燃料等の供給に関する協定』を締結。非常用発電装置で必要とされる石油燃料の供給に関して、警視庁の要請にも協力する」(同)など、社会貢献取り組みも拡大する。単なる防災サービスを超え、事業継続・社会の安全の基盤となる燃料のラストワンマイルを守っているといえるだろう。

同社は今回の3社連携に備え、「これまでのタンクローリーではなく、LPガス配送用の平ボデー車を配備。沖縄までを含めたLPガスの全国への配送体制を整備した」という。これまでもドローンやヘリコプターによる輸送の検証など、配送手段の複線化に取り組んできたが、今回は配送燃料の多様化を実装することで、同社のBCP対応力をさらに高めたといえる。3社は今後、配送ルートの最適化や発電機稼働のモニタリングをデジタル技術で高度化する構想も描いているといい、さらなるスピードや精度の向上も期待される。

一方で、携帯電話が必要不可欠なツールになったのと同様、データなど守るべき対象も多様化し、そのリスク管理はますます複雑になる。今回のように、3社連携が通信という社会基盤を支える現場においてその実効性を示すことは、複数企業や自治体が役割を補完しあう仕組みの整備が必要であることを提起しているのではないだろうか。BCPの策定を形式的に終えて安心している企業にとっても、果たして本当に有効に機能するのか、外部との事前の調整や連携を検証すべき部分はないのかなど、自社のリスク対応力を点検する契機となるはずだ。

通信・医療・物流・製造と、どの産業が「停止」しても社会全体に甚大な影響を与える時代だ。事業継続計画は「作る」ことより「動かす」ことが問われている。平時に想定外を想定し、備えのネットワークを平時から築けるかどうか。3社の連携は、その問いに対する一つの模範解答を提示している。

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