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柳川合同、社員食堂開設で採用と定着の好循環目指す

2025年10月21日 (火)

ロジスティクス柳川合同(福岡県柳川市)は2025年春、社員食堂を開設した。ご飯と味噌汁がそれぞれ100円、主菜が150円という手頃な価格で提供され、1食350円で温かい食事を取ることができる。運営を担うのは、もともと同社のパート社員として働いていた女性。体力的に従来業務が難しくなったことをきっかけに、夫婦で食堂を切り盛りしている。

▲社員食堂で昼食を取る柳川合同・荒巻哲也社長(出所:柳川合同)

「健康的な食事を社内でとれる環境を作りたかった」と同社の荒巻陽佑氏(執行役員、経営企画室室長)は語る。背景には、単なる福利厚生にとどまらない課題意識がある。給与を上げても税や社会保険料の負担が増え、社員の手取りとして還元しにくい現実があること、また昼休みにコンビニエンスストアへ買い出しに出る時間を減らし、休憩時間をより有効に使えるようにしたいという思いがあった。「どうせ同じ時間を過ごすなら、社員が社内で安心してご飯を食べ、リフレッシュできる場所を」と荒巻氏は話す。

“一緒に食べる”ことで生まれる社内の一体感

柳川合同では以前から社員同士の交流を重視してきた。営業所ごとのバーベキュー大会や年末年始の忘新年会、月ごとの誕生会、さらに10年以上続く「カレーの日」など、食を通じた交流が文化として根づいている。

「一緒にご飯を食べることで社員同士の距離が縮まる。会社と社員というより、社員同士の関係づくりが大切」と荒巻氏。イベントは任意参加だが、若手社員の参加も多い。最近では、若い世代が会社の行事や酒の席への参加を敬遠する傾向もあるが、同社では「参加は強制ではないが、まずまずの参加率」だという。「社員が一緒に何かすることで一体感を高めていくというのが当社の文化。この文化に合う人が長く働いてくれればいいと考えている」。その言葉どおり、同社の離職率は1割ほどと業界内では比較的低く、定着率の高さがこの文化の成果を裏づけている。

採用の“数”より“質”へ、戦略的な人材確保へ転換

同社の社員数は現在およそ420人で、全体としては微増傾向にある。採用活動では、これまでの「とりあえず媒体に出す」方針を改め、2-3媒体に絞ってPDCAを回す体制を構築。データに基づいて費用対効果を検証し、採用単価を抑えながら応募数を確保している。

▲柳川合同執行役員・経営企画室室長の荒巻陽佑氏(出所:ソコナラ)

入社者の3-4割がリファラル(社員紹介)経由で、紹介者には20万円、入社者には10万円の報奨金を支給している。ドライバーは給与水準で志望する人が多く、同社では近隣他社よりも高めの給与体系を維持。また、他社でコンプライアンス面に不安を感じた人が「柳川合同はしっかりしている」と安心して入社するケースも多い。一方で、倉庫作業などのスタッフは同社のYouTubeチャンネルを通じて会社の雰囲気を知り、「明るく働けそう」と感じて応募してくる人が多いという。

「効率的な採用と育成を進めながらも、給与や待遇面でしっかり社員に還元していく。そのためには経営管理をきちんと行い、効率化を進めることが欠かせない」と荒巻氏。そうした考えは、同社が進めるAI(人工知能)を活用した業務改善にもつながっている。

経営効率化とAI活用、社員への還元を両立

柳川合同はもともと「カレーの日」など、社内外の人が集まって食事を共にする文化を育んできた。そこから社員食堂の設置へと発展した背景には、社員への還元と採用活動の両面を意識した発想がある。こうした福利厚生は単なる“好待遇”の象徴ではなく、人材確保や定着の仕組みそのものでもある。

▲月に1回催されるカレーの日には社外からの参加も可能(出所:柳川合同)

一方で、社員に利益を還元するには経営の効率化も欠かせない。荒巻氏はエンジニア出身で、社内のIT研修を主導。ノーコード開発や自動化アプリを内製化し、AIを活用して業務の効率化を進めている。「効率化で削減したコストをドライバーや社員に還元できるモデルをつくりたい」と語る同氏は、生成AIを使って社内アプリを構築するなど、AIを実務レベルで積極的に取り入れている。

九州から関東へ、成長戦略の軸はM&Aと多角化

同社の年間売上は50億円。そのうち関東エリアが8-9億円を占め、今後5-10年で20億円規模まで拡大を目指す。九州では物流需要が頭打ちのため、M&Aと事業多角化を進めている。2024年には近隣の運送業3社をグループ化し、さらに家畜運搬車を製造する板金加工会社を傘下に収めた。農業用カートなどの製造も手がけ、物流を軸としたシナジーを追求している。また、低温物流への進出も検討中だ。「気候変動や食品需要の変化で、ウイング車から冷蔵車への切り替え要望が増えている。冷凍冷蔵倉庫の新設も視野に入れている」と語る。

“社員が会社に来たくなる環境”を

社内にはゴルフの打ち放し場やベンチプレス、バスケットコートを設置。「会社に来るのが楽しい」と感じられる環境づくりを重視する。「待遇面の改善だけでなく、社員が気持ちよく働ける場所を整えることが大事」と荒巻氏。柳川合同の福利厚生施策は、単なる“福利”ではなく、採用・経営・文化を一体で支える仕組みとして機能しているといえるだろう。(土屋悟)

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