ピックアップテーマ
 
テーマ一覧
 
スペシャルコンテンツ一覧

「適正化は発注書から」 、公取委が荷待ち規制に本腰

2025年10月28日 (火)

ロジスティクス公正取引委員会が、「立場の弱い物流事業者が、荷役や荷待ちを無償で行わされている問題が顕在化している」 との強い問題意識を表明し、これに「機動的に対応するため」本格的に乗り出した。

下請法に代わり、2026年1月に施行される「中小受託取引適正化法」(取適法)では、発荷主と運送事業者の取引構造を見直す新たな枠組みが導入される。今回の改正は、物流の2024年問題の背景にある積年の商慣行に根本からメスを入れるものだ。

運輸デジタルビジネス協議会(TDBC)主催のセミナーで登壇した公正取引委員会の岩瀬企業取引課課長補佐は、取適法について解説。最大の注目点として、これまで規制対象外だった「発荷主から元請運送事業者への運送委託」を「特定運送委託」として新たに追加した点を挙げた。岩瀬氏は「取引適正化の第一歩は、発注書面(約束の内容)をきちんと交付することである」と断言。罰則を伴う「発注内容の明示義務」こそが、無償荷役・荷待ち問題の解決の鍵となるとの厳格な姿勢を示した。

▲物流の2024年問題の解決に向けた法整備(クリックで拡大、出所:TDBC)

今回の改正で、物流現場の長年の課題であった「無償の附帯業務」の扱いは明確になる。岩瀬氏が示した運用基準では、委託事業者が中小受託事業者に対し、運送業務に加えて「無償で、運送の役務以外の役務(荷積み、荷下ろし、倉庫内作業など)を提供させること」は、「不当な経済上の利益の提供要請の禁止」に該当すると明記した。配布されたリーフレットでも、附帯業務の無償提供は違反のおそれがあると強く注意を促す。

岩瀬氏は、この規定について「まさに、立場の弱い物流事業者が荷役や荷待ちを無償で行わされているといった荷主・物流事業者間の問題に迅速かつ機動的に対処するため」のものだと、その意図を改めて説明した。岩瀬氏は、荷役や荷待ちの対価を書面にどう記載するかについて、「(業界団体から)具体的な書式例などをご提言いただいて、行政の方で例を作るためにも、ぜひご提言いただければ」と、業界側の主体的な対応にも期待を寄せた。

特定運送委託の対象範囲は、物流事業者の想定以上に広範だ。岩瀬氏は、特定運送委託の類型1(販売物品の運送)について、製造委託の対象物には限定されないと解説。具体例として「例えば、商社がNB品であるコカ・コーラをワンケース納入してくださいというような取引でも、規模要件などを満たせば、それは特定運送委託に該当する」と述べた。

さらに、適用対象となる規模要件には、従来の資本金基準に加え、新たに「従業員基準」を追加した。これは、減資によって法の適用を意図的に逃れる事業者などに対応するためだ。特定運送委託の場合、委託事業者(発荷主)は「資本金3億円超」または「常時使用する従業員300人超」のいずれかを満たし、受託事業者(運送事業者)が「資本金3億円以下」または「従業員300人以下」であれば適用対象となる。

誰が対象となるか。(出所:公正取引委員会)

コスト上昇局面への対応も、今回の改正の大きな柱だ。新たに「協議に応じない一方的な代金決定の禁止」規定を設けた。これは、労務費や燃料費が上昇しているにもかかわらず、中小受託事業者からの協議の求めに「拒否し、無視し、または回答を引き延ばす」行為や 、コスト上昇に見合わない価格を一方的に決める行為を禁止するものだ。岩瀬氏は、この新規定に関して「これからは受注者側から積極的に価格交渉をしていく。そういう姿勢が非常に大事である」と述べ、運送事業者側からの主体的な交渉を促した。

質疑応答では、中小の発荷主が、大手の「着荷主」に対し、運送事業者から請求された荷待ち費用を転嫁(請求)することの難しさも浮き彫りになった。岩瀬氏は、大手着荷主が中小発荷主の運送事業者に荷待ちをさせ、その費用を適切に負担しないことで中小発荷主の利益を不当に害する場合、「不当な経済上の利益提供要請」として問題となる恐れがあると回答した。

▲価格交渉に関する指針(出所:公正取引委員会)

岩瀬氏は「着荷主は自分の懐が痛まない」ために荷待ちをさせがちだとし、「タクシーのメーターが上がるように、待たせればコストがかかるというマインドに変えていくことが重要だ」と、意識改革の必要性を訴えた。これに対しTDBCの小島薫代表理事は、会員事例として「着荷主へ荷待ち時間の請求を開始したところ、数か月で荷待ちがゼロになった」ケースを紹介し 、請求が行動変容を促す実効性を示した。法執行の体制も「面的執行の強化」として 、物流分野では国土交通大臣にも「指導・助言権限」を付与。公取委、中小企業庁、国交省が連携して法執行にあたる。(菊地靖)

■「より詳しい情報を知りたい」あるいは「続報を知りたい」場合、下の「もっと知りたい」ボタンを押してください。編集部にてボタンが押された数のみをカウントし、件数の多いものについてはさらに深掘り取材を実施したうえで、詳細記事の掲載を積極的に検討します。

※本記事の関連情報などをお持ちの場合、編集部直通の下記メールアドレスまでご一報いただければ幸いです。弊社では取材源の秘匿を徹底しています。

LOGISTICS TODAY編集部
メール:support@logi-today.com

LOGISTICS TODAYでは、メール会員向けに、朝刊(平日7時)・夕刊(16時)のニュースメールを配信しています。業界の最新動向に加え、物流に関わる方に役立つイベントや注目のサービス情報もお届けします。

ご登録は無料です。確かな情報を、日々の業務にぜひお役立てください。